第9話「憧れは悪魔のフルート」(1989年4月22日)
冒頭、榊原と言う表札の掛かった、なんの変哲もない一軒家。
そこには、ある暴魔獣を封印した土偶のような彫像が飾られていたが、

その家の娘・由美が吹くフルートの音色が、眠っていた暴魔獣を呼び覚ました……のかどうかは良く分からない。
そもそもその彫像がいつからこの家にあるのかも不明なので、暴魔獣の覚醒と由美のフルートとの関連性も、いまひとつ分からない。
それはともかく、その由美を演じるのは、後に「ジェットマン」にレギュラー出演することになる内田さゆりさんであった。
当時としてはかなりの可愛らしさだが、こういう童顔はあまり好みのタイプではない。
……え、誰もお前の好みなんか聞いてない? こりゃまた失礼致しました。
もっともここでは何も起きず、何事もなく翌日の学校のシーンに飛ぶ。
体操部に所属している俊介がムーンサルトに失敗して落ち込んでいると、音楽室から流れて来た美しいフルートの調べが耳をくすぐる。
俊介「相変わらず美しい音色だなぁ……元気が出てくるなぁ」
その音に誘われて音楽室の窓の外までやってきた俊介、うっとりとその演奏に聞き惚れる。
無論、それを吹いてるのが、さきほどの由美であった。
ところが、演奏の途中、由美の右手が痙攣したように動かなくなり、その顔が苦痛に歪んでフルートを落としてしまう。

先生「また右手の指が動かなくなったの? やっぱり練習のし過ぎで腱鞘炎になったんだわ。このままじゃもっとひどくなるから、しばらく練習をお休みにしましょう」
先生は優しくそう勧めるが、由美はとんでもないと言わんばかりに、
由美「でも先生、コンクールは来週です、練習しなきゃ優勝できないし、念願のウィーン留学も……」
タイトル表示後、しょんぼりと帰っていく由美の後ろ姿を、俊介たちが気遣わしげな顔で見送っている。

はるな「由美ちゃんの右手の指、そんなに悪くなってるの?」
俊介「ああ、だいぶ前かららしいよ」
力「一生懸命練習してきたのが原因だなんてかわいそうだな」
真面目な力たちは、後輩である由美のことを親身になって心配するが、
俊介「俺、世話になってんだよな……体操の練習が苦しくて、もうダメだって思う時に、音楽室から聞こえてくるあの子のフルートにホッとしてまだまだ頑張れるって思ったりしてさぁ」
医者ではない俊介には、心の中で声援を送る以外、どうすることも出来ないのだった。

由美「神様、お願い!! 指を元に戻して、フルートが自由に吹ける指に……なんでもします!!」
その夜、困った時の神頼み、由美がフルートを握り締めて一心に神様に縋り倒していると、
トリツキボーマ「本当か?」
何処からか、聞き覚えのある依田栄助さんの声が語り掛けて来る。
言うまでもなく、声の主は、あの彫像の中のトリツキボーマであった。

トリツキボーマ「本当に、願いをかなえれば、なんでもするのか?」
由美「指さえ治してもらえれば……」
※管理人、ここで皆さんが期待したとおりの下品なギャグを書こうとしたが、断念する。
意気地なし!!
トリツキボーマ「では、早く破壊するのだ。フルートを自由に吹いてコンクールに優勝するために……」
由美「……」
トリツキボーマ「何を躊躇っている、指が動くようになるぞ」

由美「えいっ!!」
トリツキボーマの甘言にたぶらかされた由美は、指を治したい一心で、後先考えずに父親のゴルフクラブを振り下ろし、彫像を叩き割る。

トリツキボーマ「大復活、暴魔獣トリツキボーマ!!」
こうして、心弱き人間の手によって暴魔獣が復活を遂げたのだった。
しかし、由美は何の迷いもなく彫像を壊しているが、ただ「壊せ」では、何をすれば良いのか分からなかったんじゃないかなぁ?
ともあれ、由美はあまりの恐ろしさに意識を失って倒れる。
トリツキボーマ「ふふふふ、願いは確かに叶えてやろう。その代わりお前はフルートをかなで、元気な子供たちを呼び集めてその美しい音色をたっぷりと聞かせてやるのだ」
それこそ悪魔のような顔を持つトリツキボーマは、由美の体ではなく、フルートに乗り移る。
意気地なし!!
やがて目を覚ました由美は、
由美「あっ、動く、指が痛みもなく自由に動く!!」
右手が元通りになっていることを知って大喜びするのだった。

ラゴーン「さすがトリツキボーマ、もう人間に取り憑いたか」
ズルテン「このズルテンがやっとの思いで探し出し、甦らせた途端に」
ラゴーン「うむ、良くやったぞ、ズルテン」
ズルテン「いえいえ、なんのこれしき、にゃはは」
ついで、何故かトリツキボーマの件で、ラゴーンがズルテンを褒めている図となる。
これもちょっと分かりにくいが、トリツキボーマの復活をズルテンが知り、それを自分の手柄にしてしまったのだろう。
ジャーミン「調子に乗って……トリツキボーマを甦らせたのだって、ほんとに自分でやったかどうだか分かったモンじゃないわ」
ジンバ「ずるい奴め」
もっとも、ズルテンのことを良く知っているジャーミンたちは、薄々そのことに勘付いていた。
ま、今回の話、無理にズルテンたちを絡ませなくても、トリツキボーマひとりで成立する話なんだけどね。
レーダ「トリツキボーマは人間の弱みに付け込んで取り憑き、その姿を隠して子供たちの活力を吸い取り、病人にする暴魔獣、やつが暴れまわれば人間どもは大混乱になるでしょう」
と、暴魔博士のレーダがお墨付きを与えるのだが、誰がどう見ても「悪の組織」にしては、あまりにみみっちい作戦である。
ま、作戦と言うか、トリツキボーマは自分のエネルギー源が欲しいだけらしいので、作戦とも呼べない悪事なのだが……
この番組、暴魔獣がそれぞれ自分の恨みを晴らすため(だけ)に人間に嫌がらせをするというパターンが多く、結果的に作戦自体が社会性に乏しい単純なものになりがちで、それがすなわちストーリーのつまらなさに結びついているような気がするのである。
さて、俊介は、祖母に作ってもらった膏薬で由美の腱鞘炎を治そうとするが、肝心の由美が行方不明になってしまう。

ま、行方不明と言っても、学校に来てないだけで、由美はトリツキボーマに命じられるがまま、公園で遊んでいる子供たちに向かってフルートを吹いていた。
と、子供たちの体からエネルギーが吸い取られ、フルートの中に消え、同時に子供たちは一瞬で活力を失い、病人のようにその場にへたばってしまう。
今回のシナリオのダメなところはいくつかあるが、トリツキボーマの活力吸い取り能力と、由美のフルートとの関連性がいまひとつ感じられないこともそのひとつである。
トリツキボーマは「子供たちを呼び集めて~聞かせてやるのだ」などと言っていたが、映像を見る限り、別に由美のフルートで集められたわけではないようだし、子供たちがフルートの音色に聞き惚れているような描写もない。
これなら、別に由美のフルートの力を借りる必要はあるまい。
とにかく学校とか遊園地とか、子供の多いところに行けば済む話であろう。
だいたい、その作用が「数名の子供たちが病気になる」だけでは、あまりに迫力不足である。
仮にも暴魔獣なんだから、「仮面ライダーX」のパニックのように、その笛で人間たちが狂って殺し合いを始めるくらいのことはして欲しかった。
ともあれ、その一部始終を、由美を探していた俊介が見てしまう。
俊介「由美ちゃん、何をしたんだ?」
俊介に咎められて、由美は慌てて逃げ出す。

俊介「由美ちゃん、由美ちゃん!!」
由美、コンクリートの段差に足を引っ掛け、

由美「ああっ」

スカートの奥から、白いパンツを慎ましやかに露出させながら、豪快にコケる。
80年代の女子高生のスカートが絶望的なまでに長いのは周知の事実だが、そんな悪条件の中で披露された内田さんのパンチラ、それはまさにパンドラの箱の中に残された「希望」と言っても良いのではあるまいか?
もっとも、内田さんは後に「ジェットマン」で、景気良くチラを連発されているので、あえてこのエロティシズムに乏しいショットをパンチラコレクションに加える必要はあるまい。
由美に駆け寄ろうとした俊介だったが、フルートから抜け出たトリツキボーマにぶっ飛ばされる。

由美「先輩、ごめんなさい」
由美は俊介に詫びると、そのまま走り去る。
好みのタイプじゃないと言ったが、内田さん、時々ドキッとするようなフォトジェニックな表情を見せてくれるので、キャプ職人としては、やり甲斐のある女優さんではある。
そこへ変身済みの仲間が駆けつけたので、俊介はその場を彼らに任せて由美を追う。

俊介「由美ちゃん!!」
由美「……」
公園の噴水の前で佇んでいるところを俊介に呼ばれ、振り向いた時のショットなど、「奇跡の一枚」と呼んでも差し支えないほどの美しさ。
俊介はその肩に手を置き、

俊介「どうしたんだ、由美ちゃん」
由美「知らなかった、知らなかったのよ……子供たちの活力を吸い取って病気にするなんて」
俊介「活力を吸い取って病気にする?」
由美、コンクールで優勝したいばかりに悪魔の契約を交わしてしまったことを打ち明ける。
由美の台詞に合わせて、

トリツキボーマ「もう遅い、お前は指を自由に動かす代わりに俺に取り憑かれた、逃げられはしない」
悪魔のような白い顔を、死神のようなドクロの顔に変えたトリツキボーマに抱きすくめられるセクハラショットが映し出される。
しかし、トリツキボーマが憑依しているのはフルートであって由美ではないように見えるので、由美が自分で吹かないと決意すれば、それで問題解決のようにも見えるんだけどね。
彼女が、子供がどうなろうと優勝さえ出来れば良いと思っているのだが別だが、最初から自分の行いを悔やんでいるのは明らかだしね。
今回のシナリオのもうひとつの欠点は、悪魔に魂を売った筈の由美が、デフォルトで反省しているところである。
だから、俊介が由美をビンタして改心させる……みたいな、定番の演出がないのである。
俊介「なんて馬鹿なことを」
由美「もう、仕方ないんです」
そこへトリツキボーマがあらわれ、由美を連れ去ってしまう。
CM後、太宰博士の研究室に集まった5人。
シーロン「トリツキボーマは人間の弱い心に取り憑く卑怯な暴魔獣なのです」
俊介「由美ちゃん、指を悪くして落ち込んだところをつけ込まれたんだ」
力「俺たちはみんな夢を持っている、その夢を叶えてやると言われたら、誰だって迷う筈だよな」
そろそろ90年代に入ろうかと言うこの時代、ドラマに出てくる若者たちは一様に優しく、由美の短慮を責める代わりに、彼女への共感を示し、
洋平「ああ、俺だって、全国の女子高の制服をトップレス&ミニスカにすると言う夢を叶えてやると言われたら、どうなるか分かんないな」
はるな「かわいそうな人……」
じゃなくて、
洋平「ああ、俺だって、どうなるか分かんないな」
はるな「かわいそうな由美さん……」
果ては、同情までするのだった。
一方で、病気にされた子供たちやその保護者の苦しみが描かれないのは片手落ちと言うものだろう。
で、この問題の解決法が、
大地「由美ちゃんや子供たちを助けるにはどうしたらいいんだ」
シーロン「トリツキボーマを由美さんから引き離して倒すしかありません」
と言う、ごくフツーの方法なのも、今回のシナリオのダメなところである。

俊介の声「由美ちゃん、何故そんなことをしたんだ? なんて馬鹿なことを……」
一方、由美、公園の池の前にしゃがんで、俊介に言われた言葉をリフレインさせていた。
ついで、苦しんでいる子供たちの姿を思い浮かべ、一筋の清い涙を流すが、
トリツキボーマの声「泣いたところで後へは戻れない、今はもうフルート奏者として脚光を浴びるしかないのだ」
フルートの中のトリツキボーマが由美の心を見透かしたように囁き、再びフルートを吹かせようとする。
ただ、子供たちが死んだのならともかく、病気になってるだけだからねえ……
ともあれ、ほとんどトリツキボーマの操り人形と化している由美は、結局またフルートを吹いていたが、そこへ俊介があらわれ、

俊介「由美ちゃん!!」
由美「はっ」
この振り返った瞬間の顔など、今でもアイドルとして十分通用するルックスである。
俊介「そのフルートは吹いちゃいけない」
由美「……」
俊介「悪魔に魂を売り渡した音色なんてちっとも美しくないよ。俺は君のそんなフルートには誰も感動するとは思わない。指が悪いなら時間を掛けて治療するんだ。焦ることはないんだよ」
由美「……」
俊介「君は心の弱いところをつけこまれてるだけなんだ」
俊介、あくまで優しく、諄々と諭すが、
由美「ダメよ、私、子供たちを……もうダメよ」
俊介「子供たちはトリツキボーマを倒せば助かるんだ」
その後、色々あって、かっとびズルテンに変形したズルテンが由美を乗せて連れ去ろうとするが、俊介も死に物狂いで追いかけ、必死に車体にしがみつく。

由美「やめて下さい!!」
俊介「負けるもんか、元の君に戻すまで!!」
トリツキボーマの声「コンクールで優勝したくないのか?」
俊介「惑わされるな、頑張って自分を取り戻すんだ」
由美「先輩……」
俊介の訴えと、トリツキボーマの甘言の間で揺れ動く由美であったが、俊介の懸命な姿に心を打たれ、翻然と目を覚まし、
由美(もう二度と吹けなくてもいい……)
トリツキボーマの声「な、何をするっ」
大切なフルートを思いっきり投げ捨てる。
フルートは爆発して消滅し、トリツキボーマが実体化する。
二人は走行中のかっとびズルテンから飛び降りる。
俊介「由美ちゃん、だいじょぶか」
由美「……」
俊介「トリツキボーマは君から離れたんだ」
由美「ありがとう、先輩」
俊介の言葉ににっこり微笑むと、由美は顔を仰向けて気を失う。

俊介「由美ちゃん、由美ちゃん!!」
ズルテン「俊介、仲間がいればこのズルテン様がまとめて捻り潰してやるものを、ひとり寂しく死ぬが良いや」
そこへズルテンたちがあらわれ、でかい口を叩いて俊介を殺そうとするが、そこへその仲間たちが駆けつけ、
力「おい、ズルテン、まとめて捻り潰してもらおうか」
ズルテン「ゲロゲロ!!」
ここからラス殺陣となり、結局何がしたかったんだお前? 的なトリツキボーマを倒し、事件は解決する。
ラスト、由美が、元気になった子供たちがグラウンドで遊んでいる様子を眩しそうに眺めていると、俊介たちがあらわれ、包装紙に包まれたプレゼントを渡す。
俊介「みんなで小遣いはたいたんだ、吹いてみなよ」
由美「でも……」
俊介「焦らずに最初からやり直すんだ、自分の力でね」

由美「先輩」
はるな「さ、吹いて」
で、中から出て来たのが尺八だったら、それを振り回して大暴れしているところであるが、無論、出て来たのは真新しいフルートだった。
勇気を出してフルートを吹き始める由美の姿を温かく見守る俊介たちの姿を映しつつ、終わりです。
……
ところで、俊介のばあちゃんの作った軟膏はどうなったんでしょう?
あと、「小遣い」貰ってるスーパーヒーローって、なんかヤだ。
以上、終わってみれば、今回も8話と同様、捻りとパンチのないストーリーを、ゲストヒロインの可愛らしさでなんとか誤魔化しているような印象を受ける凡作であった。
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