第22回「ヒットラーが脱ぐ日」(1977年3月2日)
冒頭、忍が自分の部屋で、下着の宣伝文句を考えながら、童話の構想を練ると言う訳の分からないことをしている。
それを廊下から窓ガラス越しに見ている綾乃と渚。

渚「おっちゃん、童話と下着の宣伝文句、一緒に考えてるんだ」
綾乃「そりゃあ無理ですわねえ、あの方の頭の程度では……」

綾乃「加茂さん、加茂さん、そんなにお焦りにならないで下さいましね」
渚「そうよ、おっちゃん、おっちゃんの頭ではいっぺんに二つのこと考えるの無理なんだから」
忍「なにーっ?」
綾乃「渚、言って良いことと、悪いことがありますよ」
渚「だって今、おばあちゃん……」
綾乃「いえ」
忍「バサマが言ったのか?」
綾乃「私、そんな失礼なこと……」
見兼ねて二人が忍を励まそうとするが、例によって逆効果にしかならない。
忍「いいよ、いいよ、バサマの言うとおりだよ、俺にはね、二つをいっぺんに考えることが出来ない頭だったんだ」
綾乃「こら大変だわ、ひどい重症だ。だって、このお方の取柄はね、勘違いが激しいってえか、うぬぼれが強いってえか、それだけが……」
頭を抱えて座椅子に倒れ込む忍に、容赦なく追い討ちを掛ける綾乃であった。
もっとも、忍はそんな言葉も耳に入らないようで、今度は机の前に座って突っ伏し、
忍「俺は児童文学を書けない男なんだ」
渚「おっちゃあんっ」
忍「俺はね、人間の屑だよ、屑よりもひどい価値のない人間だよ、駄目だ駄目だ」
綾乃「加茂さん、そんなことございませんですよ」
渚「そうよ、おっちゃん、そんな気の弱いこと言わないで」
忍「ほんとなんだよ、渚が町で拾ってくる屑よりもね、もっともっともっと駄目な人間なんだ、駄目だ駄目だ!!」
とことん自分を貶める言葉を喚き散らすのだった。
どうやらよほど自分の才能に自信がなくなったらしい。
OP後、忍、今度は会社で大ポカをやらかす。モデルの撮影に立ち会うことになっていたのに盛大に遅刻した上、余計な減らず口を叩いてモデルと写真家を激怒させてしまったのである。
その後、会議室に呼ばれ、友江から説教されている忍を、榎本が必死に庇っている。

榎本「部長、加茂さんはですね、別に部長の足を引っぱるつもりでそんな……」
友江「私の足なんか、いくら引っぱってくれたって良いのよ」
忍「……」

忍「今年はミニが流行するそうですね」
友江の言葉に、思わずテーブルの下を覗き込み、友江の脚を凝視する忍。
なかなか良い根性である。
榎本が見兼ねてその肩を叩くと、

忍「いや、ミニが復活した場合の下着のあり方について俺はいつも考えてんだよ……」
榎本「そうなんですよ、少し考え過ぎるのが玉に瑕で」
友江「いい加減なこと言わないで頂戴、あと三日で良いモデルが見付かる筈ないわ」
忍「ええ、清純でイタズラっぽい……」
忍、三日以内に新しいモデルを見付けて見せると友江に約束したのである。
が、友江は聞きもあえず、
友江「だいたい私が我慢できないのは、二足のわらじを履いてることよ」
忍「二足のわらじ?」
友江「あなたさっき、童話を書きながら宣伝惹句(註・キャッチコピーのこと)を考えてたって言ってたわね」
忍「ええ」
榎本「しょうがねえなぁ……その正直過ぎることが玉に瑕です」
友江「瑕ばっかりじゃないの!!」
忍のリアクションに呆れて見せてから、しかつめらしい顔で同じ言葉を繰り返す榎本に、友江が的確なツッコミを入れる。
友江、忍にそんな器用な真似ができる訳がないと言い切り、
友江「あなたの童話、読んだことないわ。でもね、どの程度のものかだいたいの想像は出来るわ」
さらに、忍の童話にまでケチをつける。
榎本「部長」
友江「私はね、あれもこれもって手を出して結局は虻蜂取らずになっちゃうような、そんな生き方をしてる男が一番頭に来るのよ!!」
友江、声を荒げると、

友江「男なら、自分の信じてる仕事一筋に命を賭けるべきだわ。童話なら童話、下着の宣伝なら下着の宣伝、そうじゃない?」
鋭い舌鋒で、忍の人生そのものにまで踏み込んで追及する。
忍「ええ、そう思うんですけどね……」
友江「煮え切らないのね、あなたって!!」
榎本「そうなんです、それが加茂さんの玉に瑕で……」
友江「榎本さん、あなたがそうやって庇うからこの人はいつまで経っても甘えてて、一人前の男に成り切れないのよ」
友江はいちいち口を挟む榎本を黙らせると、
1、三日以内にプリンセス下着の宣伝効果を120パーセント発揮できるモデルを探すこと
2、童話をやめて宣伝マンに徹すること
と言う二つの条件を出し、そのどちらかを達成できなければ自分から会社を辞めてもらうと言う厳しい宣告を下す。
友江は反論を許さず、憤然と会議室を出て行く。
なにしろ、ついこの間でかいミスをやらかして減俸処分を食らったばかりなので、友江がキレるのも当然であったが、
忍「どっちかって言うと、怒ってたときのほうが魅力的だな」
榎本「先輩、よくあんな侮辱されてそんな暢気なこと言ってられますね」
忍「そんなことないよ、俺は反応の鋭いほうなんだから、あの、それが玉に瑕だって……そう思わない?」
榎本「……」
瑕だらけのボーリングの球のような忍の顔を見て、榎本は「面倒見切れない」とでも言いたげに首を横に振りながら天を仰ぐのだった。
それでも、その晩、居酒屋で酒を酌み交わしながら、遅まきながら友江に対する怒りを爆発させる忍の愚痴を聞いてやる、面倒見のよい榎本であった。
もっとも、忍、怒りつつも友江の言うことをもっともだと認め、ひたすら謙虚に自分の中途半端な生き方や才能のなさを嘆いて見せるのだった。
榎本「ちきしょう、あのガリガリ女ヒットラー、先輩の童話も読んだことないくせに……読まねえほうが長生きするかな?」
忍「えっ?」
女ヒットラーと言うのは、ともすれば専制的に物事を進める友江に部下がつけた渾名のひとつで、それがサブタイトルにもなっているのである。
だが、同じ頃、友江は自分のマンションで、忍の童話が掲載された児童文学雑誌を手にしていた。読まないで批判するのはフェアではないと言う、いかにも生真面目な友江らしい発想であった。
一方、荻田家では、渚が光政の英語の勉強を見てやっていた。

光政「アイアムイーティングサパーナウ」
渚「もいっかい読んで」
光政「アイ、アム、イーティング、サパーナウ」
渚「君、舌が短過ぎるんと違う?」
光政「アイアム、イーティングサパーナウ!!」
渚「アイラブユー、アイウォンチュー」
渚、いきなり光政の肩を抱くと、色っぽくつぶやいて、
渚「イングリッシュ諦めたほうが良いね」
光政の発音に匙を投げる。
光政「うん、国際結婚諦める」
勉強中もやたらと体に触るのが渚の癖で、演じている思春期真っ盛りの脇谷さんも、演技抜きでドキドキしていたのではないかと思われる。
ちなみに渚はネイティブと普通に会話が出来るくらい英語が堪能なのである。
と、渚、机の上にあった手紙を勝手に開いて読むと、稚拙な愛の告白のような文章が綴ってあった。
渚「ラブレター?」
光政「ファンレターだよ」
光政、昨日テレビで見たミニスカのアイドルに一目惚れしてしまったらしい。
渚が「そんなアイドルなど知んない」と言うと、
光政「そこがいいとこなんだよ、ファンレターなんてのはさぁ、人気スターに出したってどうせ読みもしないで屑篭行きでしょう?」
光政は机を叩いて力説し、ファンレターを出すなら、まだ無名のファンの少ないタレントに出すべきだと言う持論を並べる。

渚「……ファンレター? ファンレターかー」
光政「お姉ちゃん、どうしたの?」
渚「うん? ふぅーん、名案かもね」
興味なさそうに聞き流していた渚だったが、ふと何か思いついたような顔になり、再び光政の肩に腕を回す。
ああ、光政が羨ましい……
光政「お姉ちゃんにファンレター出すような人いるの?」
渚「そりゃいるわよ」
光政「誰、誰?」
渚「誰だって良いじゃない」
光政「気になるなー、ね、どういうタイプがお姉ちゃんの好みなのぉ?」
渚にほのかな恋心を抱いている光政、しつこく食い下がっていると、
忍「二束わらじの親分のお帰りだぁっ」
店の方から忍の芝居がかった台詞が聞こえてくる。
渚「おっちゃん……」
光政「おっちゃん?」
忍が「靴は一足、わらじは二足ぅ~」と自作なのか、何かの替え歌なのか不明だが、大声で歌いながら二階に上がると、綾乃がすぐ迎えに出て、渚も階段を上がってくる。

渚「おっちゃん、お帰り」
忍「おお」
綾乃「ご機嫌ですのね」
忍「バサマ、人間長期間やってる割には割りと人を見る目がないね。俺、ご機嫌悪いの」
渚「私には分かるわ」
綾乃「分かるんですの、この子は!! この、男心をそそる優しさと美しさと……」
忍「男心をそそる?」
なんとか忍と渚をくっつけようと考えている綾乃、無理やりに孫の魅力をアピールすると、忍もじろりと渚に視線を向け、
忍「お前、ちょっとポーズとってみろ」
渚「へっ?」
忍「ポーズだよ」
渚「ポーズ?」
忍「だからほらぁ、モデルがよくやるポーズだよ」
忍、じれったそうに言うと、自らお手本を示す。

渚「ぽおず?」
忍「ダメだな、これじゃ売り上げ落ちちまう」
なんだか分からぬままに体をくねらせる渚を一瞥すると、忍はがっかりしたように部屋に引っ込む。

綾乃「加茂さん、どういうことでございますの? もし私でお役に立てるものでしたら」
忍「CMだよ、コマーシャル」
ポーズを取ったまま部屋に入ってくる渚が可愛いのである!!

綾乃「お嬢さん、下着は取り替えましょう」
渚「プリンセス!!」
忍「……」
CMだと聞いて、綾乃が下着会社としては最低のコピーを、両手を上に向けて突き出した、アメリカ人の「お手上げだ」的な仕草をしながらつぶやくと、渚も同じポーズをしながら叫ぶ。

忍「全然それは良くないね」
忍も、同じようなポーズを取りながら却下する。

綾乃「加茂さんの童話が売れないのは冗談が理解できないせいですわ」
綾乃、そのポーズのまま忍の痛いところを突くと、
渚「貼ってすっきりプリンセス、いつでも飲んでるプリンセス!!」
綾乃「お前はほんと冗談が分かるのね」
調子に乗った渚がさらに迷コピーを口にする。
これも、当時のCMのフレーズのもじりかなぁ?
渚「プリンセッス!!」
綾乃「……」
さらに、両手を広げ、腰を振りながら社名を言う渚。

忍「お前たち……俺が怒らないうちに、
出て行けーっ!!」
ここで遂に、忍の怒りが爆発する。
ちなみにこの両手を広げたポーズ、次の22話でもギャグに使われているが、当時、流行ってたのかなぁ?
さて、引き続き忍の童話を読み耽っている友江。
真紀「まだ読んでんの?」
友江「ううん、読み返してるの」

真紀「そうなのよねー、一度じゃ頭ん中入ってこないのよね、孫悟空と桃太郎が決闘してるところへ突然ターザンが、あーああーなんて出てくんだモン」
友江「……」
真紀、ハンドクリームを塗りながら忍の童話の支離滅裂ぶりを語るが、友江はそれも耳に入らない様子で熱心に読み続けていた。
友江の目が濡れているのを見て、
真紀「どうしたの? 友江姉さん?」
友江「えっ、ちょっとね、目にごみが入ったみたい」
真紀「頭痛いんじゃない? 加茂さんの童話ってさ、こう、頭が痛くなって涙が出てくんの」
その夜のことであった。

渚は、隣で寝ている綾乃の様子をうかがいながら、静かに布団から出る。

祖母を起こさないようにカニのような動きでコタツのところへ移動する渚。
この男物のパジャマは5話で忍から貰ったもので、あれからずーっとこれを着ているのである。
しかし、序盤は結構下着とか見せてくれた渚だが、途中から全然そう言うシーンがなくなるのが、この素晴らしいドラマのほんの少し残念な点である。
それはともかく、渚はコタツの中に隠しておいた便箋を取り出し、天板の上で何やら書き始める。
渚「……加茂忍さま、ありがとうございます。突然こんなことを書くとびっくりなさるかもしれませんが、それでも私は一番初めにありがとうございます……って言いたい気持ちで一杯なのです……」
そう、渚、光政のファンレターからヒントを得て、忍宛の偽のファンレターを書いて、忍を励まそうと考えているのだ。
でも、この書き出しの部分だけは、渚のありのままの気持ちを伝えているようで、なんとなく胸が熱くなる。
翌日、オフィスで由利たちが忍もいよいよクビかと噂していると、その忍が寝ぼけ眼で出社してくる。
友江「加茂さん、どう、見付かった?」

忍「ええ、あのね、一応こんなのはどうですかね、三人いたんですよ」
忍、それでもなんとか掻き集めてきたモデル候補の写真を取り出して見せるが、友江は醒めた顔で忍の説明を聞き流すと、写真をゴミ箱に捨ててしまう。
忍「あれえっ?」
友江「見てくれの悪い人って、審美眼まで半人前なのね」
忍「……」
友江「そんな顔してる暇があったら私をドキドキさせるようなモデルを見付けたらどうなの?」
忍、さらに三日の猶予を請うが、
友江「また甘ったれる!! 今度のことは社長の耳にも入ってるのよ、私にもあなたの親友の榎本さんにも助けて上げられないわ」
友江は冷然と突き放す。

由利「見損なったわ」
朝子「いくらなんでも……」
信子「女ヒットラー」
その酷薄な態度に、友江に信服している筈の由利たちも思わず反感をあらわにする。
だが、それくらいでたじろぐような友江ではなく、
友江「なんです、はっきりおっしゃい、仕事ってそういうものなのよ、責任が取れなかったらさっさと辞めればいいんだわ」
忍「約束は守りますよ、俺も男です」
忍、憤然としつつも断言し、コートを脱いでとりあえずコーヒーを飲みに行く。
友江「さあ、仕事、仕事、会社はあなたたちのお喋りにお給料払ってるんじゃありませんからね」
三人「はい」
友江、三人に発破をかけてから自分のデスクに戻るが、ゴミ箱の中の写真を拾い上げ、抽斗にしまうのだった。
友江が、彼女らしからぬ乱暴な態度を取ったのには、ある意図が隠されていたことが後に分かる。
忍が喫茶ルームに行くと、榎本と真紀がいて、榎本が真紀をモデルにしようと口説いているところだった。
それは、真紀の美しさに賭けようというのではなく、同居して妹のように可愛がっている真紀なら、友江も少々のことは大目に見てくれるだろうという小狡い発想であったが、当の忍が却下したので、真紀は機嫌を悪くして帰ってしまう。
まあ、実際のところ、秋野暢子さんなら背も高くてスタイルも良くて綺麗なので、十分下着モデルとして通用すると思うんだけどね。

おそらくその翌日と思われるが、渚が何かそわそわした様子で、店の入り口に立っている。
自分が書いて投函した忍宛の手紙が配達されるのを待っているのだ。
荻田「なんだい、渚ちゃん?」
渚「うん、なんでもないんだ……本、売るほどあんのね」
荻田「売るほどあるって、うちは本屋だよ」
やがて郵便屋さんが来て、待望の「ファンレター」を届けてくれる。

渚「あ、おっちゃんに来たのね、東京都新宿区、沢島千鶴だって」
荻田「うーん、加茂さんに女から手紙が来るなんて前代未聞だね」
渚「誰かしらね」
素知らぬ顔で自分で書いた偽名を読み上げ、ペコちゃんのような悪戯っぽい目をする渚が可愛いのである!!

渚、手紙を忍の机の上に置くと、鵞ペンを御幣に見立てて顔の前で振り、この作戦が上手くいきますようにと祈念するのだった。
後編に続く。
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