第46話「しかえし」(1970年8月18日)
「鬼平犯科帳」は、1969年~1972年にかけて放送されたテレビ時代劇である。
言うまでもなく、「鬼の平蔵」こと火付盗賊改方・長谷川平蔵を主人公にした池波正太郎の同名小説が原作である。
個人的には、誰が演じていようと「鬼平」シリーズはあまり好きじゃないのだが、この話だけはどうしてもレビューしなければならない。
その理由については話を進めるにつれて徐々に明らかになるであろう。

主人公の鬼平がお馬さんパカパカさせているタイトル画面に、中江真司さんの渋いナレーションが被さる。
ナレ「その頃、德川幕府は、江戸の町の治安を護り、狂暴な悪の群れを容赦なく取り締まるため、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)という特別警察を設けていた。 面倒な手続きもなしに、独自な機動性と特権を与えられた、盗賊改方の長官こそ、鬼の平蔵と呼ばれ、盗賊や悪党共を戦慄せしめた長谷川平蔵、その人である」 冒頭、商家の建ち並ぶ街角で、飴売りが太鼓を叩いて歌いながら、子供たちに飴を売っている。
と、ひとりの娘が小石を蹴りながら歩いてくる。

ナレ「この娘、名はくめと言う、貧しい行商人の家に生まれ、15歳のこの年まで滅多に笑い顔を見せたこともない薄幸の娘であった」

ナレ「ぁしかし、今日のくめは違う」
そう、演じるのは70年代の特撮ヒロイン四天王のひとり、丘野かおりさんである!!
どうやら管理人がこのエピソードを選んだのは、ここに理由があったようである。
我ながら、進歩のない奴だ。
ちなみに当時はまだ山田圭子名義である。
くめ「こんにちは、おじさん」
飴売り「あれ、おくめちゃん、バカに嬉しそうだね、何かいいことあったのかい」
くめ「あっふ」
飴売り「ほら、これあげるよ」
くめ「あ、ありがとう」
顔見知りらしい飴売りから風車をもらったくめは、嬉しそうにそのすぐ横の小間物屋に飛び込む。

くめ「姉さん、姉さん、何処?」
放送時、丘野さんは、役と同じく15才で、さすがにまだあどけないと言うか、垢抜けない顔立ちである。

おふく「おくめ、決まったのね、あの話」
そして、くめの声に奥から出て来た姉・お福を演じるのは、これまた特撮作品にゆかりのある岩本多代さん。
くめ「美濃屋さんの口利きなら安心だからと仰って二つ返事で引き受けてくだすったんですって」
おふく「そう、だいじょうぶとは思ってたけど……おくめ、ほんとに苦労したもんね、あんたも……」
おふくは、母親のような慈愛といたわりに満ちた目で、妹の顔を見詰める。
その晩、おふくは赤飯を炊き、亭主の松吉と共にくめの幸運をことほぐ。

くめ「はい」
くめは義兄の松吉に酌をするが、

誰かと思えば岸田さんじゃありませんかっ!!
特撮ファン的には辛抱たまらないものがあるキャスティングである。
少しのちに岸田さんは「A」でナレーションをするのだが、岩本さんも丘野さんもゲストヒロインとして参加しており、その三人がかつて同じ番組で共演していた訳である。
松吉「おくめ坊の面倒ぐらいは私が見るつもりでいたんだが、この嬉しそうな顔を見ちゃ私も喜ばない訳には行かないやね」

おふく「喜ばないでどうするんですよ、年頃になった町娘の一番の願いは武家奉公、その願いが叶うなんて……おくめ、あんたほんとに運が良かったんだよ」
くめ「美濃屋の女将さんもそう仰ってました、永山様はお勘定方にお勤めの由緒正しいお旗本で、奉公人の親戚にいかがわしい人がひとりでもいると分かっただけでもすぐにお払い箱なんですって」

松吉「……」
くめ「あ、またフリーズした」
おふく「背中のリセットボタン押してあげて」
嘘はさておき、くめの何気ない言葉に分かりやすく固まる松吉であった。
そう、女房のおふくも知らないことだが、松吉はかつて、盗賊の一味だったのである。
なお、くめちゃんが、今まで何処で何をして暮らしていたのか、彼らの会話だけではいまひとつ分かりにくい。
今まで兄夫婦と同居していたのか、その美濃屋と言う大店に住み込みで奉公していたのか……
おふく「ああ、ほんとに良かった、良かった、これであんたも幸せになれる」
しきりにくめの幸せを強調するおふくだったが、武家奉公が決まったくらいでそんなに喜ばなくても良いのではないかと言う気がしなくもない。
まぁ、由緒ある武家屋敷に奉公したと言う箔がつけば、ゆくゆくはいいところにお嫁に行ける→幸せになると言う発想なんだろうが。
ちなみに当時の女性は、16、7才くらいでお嫁に行くのが普通だったそうである。
また、武家奉公の下女の給料は、だいたい10~20万円くらいだったらしい。
ただし、
年収だが……

くめ「……」
それはともかく、くめは、松吉が盃を出しているのを見て酒を注ごうとするが、松吉は心ここにあらずという感じで、何事か考え込んでいた。
ああ、かわええ……
考えれば、当時丘野さんは中三だった訳で、1970年の日本においては、まさにオーパーツ的な可愛らしさであったろう。
数日後、くめは家主の美濃屋に付き添われて永山と言う屋敷に奉公に上がる。
くめが松吉の家から出立していると言うことは、やはり、くめは今まで兄夫婦と同居していたのだろう。
また、美濃屋と言うのは松吉の小間物屋の仕入先かと思っていたが、「家主」と言うからには、この長屋を所有している商家なのだろう。
その日の夜、松吉は、平蔵の与力・酒井と橋の袂でこっそり会っていた。

酒井「ほお、旗本の屋敷へな」
松吉「永山吉十郎と仰る200石取りのお方だそうでございます」
酒井を演じるのは、「タロウ」でゾフィーになったこともある竜崎勝さん。
酒井「それにしてはなにやら浮かぬ様子だが……密偵がイヤになったのか」
松吉「えっ?」
松吉は、小間物屋のかたわら、酒井の密偵として働いているのである。
しばらくの間を置いて、松吉はいきなりその場に両手を突き、

松吉「申し訳ございません。おっしゃるとおり、身の程もわきまえず密偵から足を洗えたらなどと考えておりました……島送りが当たり前のところを長谷川様、酒井様のご配慮で何不自由なく娑婆で暮らせるのでございます、不平など言えた義理じゃござんせん。ただ、こうして人に隠れて旦那に会ってることがもしも世間に知れたら……」
松吉は、そのことで、義妹・くめに迷惑が掛かるのではないかと、自分の不安を率直に打ち明ける。
酒井「その気持ちを大事にすることだな」
松吉「……」
酒井「お頭が密偵を命じるのは、それがお役目の助けになるためだけでない、そうすることによってそのものがやがては真人間に立ち返ることを願ってのことなんだ」
松吉「へい」
酒井「その娘の幸せのために、拙者が当分おぬしに会うことを控えたとしてもお頭のお目玉を食らうことあるまい」
酒井は、松吉の気持ちを汲んで、しばらく密会をとりやめることにするが、何か気付いたことがあれば、店の前に合図の笠をぶら下げることは忘れないようにと釘を差す。
酒井がカムフラージュの為の釣りをやめて引き揚げようとすると、餌もつけていないのに魚が針に引っ掛かっていた。
これには深刻な顔をしていた松吉もつい笑い出す。
松吉「酔狂な魚もいるもんで」
酒井「はっはっはっ」
酒井は平蔵の役宅に行き、その一件を披露する。

平蔵「はっはっはっはっ、で、その小鮒はどうした」
酒井「は、川に戻しましてございます……なんとなく哀れになりまして」
平蔵を演じるのは、のちに初代白鸚を名乗ることになる、八代目松本幸四郎。
すなわち、今では鬼平と言えばあの顔が浮かぶようになった中村吉右衛門のお父さんである。
親子だから当たり前だが、良く似てるなぁ。
ちなみに当時60才くらい。
史実では、平蔵は50才で亡くなってるんだけどね!!
しばらくして、松吉はすっかり明るさを取り戻して仕事に精を出していたが、好事魔多し、そこに突然あらわれたのが、音次と言う昔の盗賊仲間であった。
松吉は近くの小料理屋で、兄貴分の仙太と再会する。
仙太はずっと前から、お縄になったはずの松吉が小間物屋をしているのを知っていたと言う。

仙太「だが、手は出さなかったよ、足を洗ったおめえの気持ちがいてえほど良くわかったからさ」
松吉「それじゃ、あっしを許して下さるんで?」
仙太「素走りの仙太も弱気になったと言われたかねえが、人間年を取れば落ち着くところが欲しくなるもんだ」
盗賊の頭の割りに話の分かる仙太は、自分も足を洗うつもりだと言って松吉を安堵させる。
だが、だとすればわざわざ松吉を呼び出す訳がなく、案の定、新しい暮らしを始める為の金が要るから、最後にもう一度だけ仕事をやると言い、松吉にその手助けをしろと言う。
松吉は、かつてムササビの松と言う二つ名を持ち、その人間離れした身軽さで、狙う家の塀を乗り越えることを得意技にしていたのである。
無論、松吉にいまさら盗みを働く気など毛頭なかったが、下手に断るとその場で殺されかねないと考え、表面上は納得したように見せてその仕事を引き受ける。
その日の夜、他の仲間と会って詳しい打ち合わせをすることになるが、松吉は合図の笠を店の前にぶら下げて、酒井に助けを求める。
仲間が集まっているところを一網打尽にしてもらうつもりなのだ。
ところが、その日に限って、一向に酒井が姿を見せない。

おふく「どうしたんだい、そわそわして……誰か来る人でも」
松吉「この陽気だ、家の中にいると、鬱陶しくてやりきれないのさ」

おふく「でも……」
おふくが不思議そうな顔で亭主の顔を見ていると、鐘の音が聞こえてくる。
松吉「あの鐘は?」
おふく「暮れ六つ(午後6時)じゃありませんか」
ついで、おふくがふとくめのことを口にすると、松吉は痛いところを触られたように過剰な反応を見せる。
松吉「おやめ!!」
おふく「……」
松吉「いい加減で、おくめ坊の心配はやめなさい、朝から晩まで言い続けじゃないか」
おふく「だってえ、年は行ってもほんとにまだ子供なんだから」
松吉「子供と言ってももう15だ、なんとかやっていけるさ」
松吉はじりじりしながら酒井の来るのを待っていたが、結局酒井はあらわれなかった。
一方、くめの奉公先では、くめが初めて永山吉十郎の目に留まる。

永山「この娘は?」
おその「新しく下働きとしてまいりました、くめでございます」
永山「面を上げい」

言われたとおり、子犬のようにキュートな顔を上向けるくめタン。
それを見た永ちゃんは、
永山「萌えーーーーーっ!!」 おその(また始まったよ……)
じゃなくて、
永山「……」
じっとその顔を見詰めていたが、何も言わずに自分の部屋に入る。
なお、どっかで見たことあるなぁと思ったら、「狙われた街」でメトロン星人がタバコに仕込んでばら撒いた赤い結晶体の分析をした隊員ではないか。
伊藤久哉さんね。
一方、松吉はやむなく、仙太たちの待つ料亭の一室へ赴く。
松吉がいかにも気乗り薄なのを見た音次は、突然激昂し、
音次「いいか、松、盗人のつとめは命懸けだ、だが兄貴がおめえに割り振った仕事はな、塀を乗り越えて中から裏戸を開ける、それだけだ、たったそれだけでおめえのつとめは終わりなんだ、それだけじゃねえぞ」
さらに、懐から切餅(25両?)を取り出して松吉の目の前に置き、
音次「兄貴はよくよくおめえのことを考えていてくださるんだ」
松吉「……」
仙太「まさか、前金で渡すと言ってるんじゃねえ、だがな、この仕事は急ぎ働きだ。仕事がおわりゃ俺たちはすぐに江戸を発つ。おめえに分け前を渡してる暇もねえ、だから何もしらねえ使いのもんにあくる日、この金をおめえのとこに届けさせる。どうだ、人に気付かれる心配もねえだろう」
松吉「兄貴、そこまであっしのことを……」
松吉、仙太の行き届いたやり方についほろりとしてしまい、本気で協力する気になる。
ところが、店に戻ると、ぶら下げていた笠が裏返っている。
すなわち、松吉が出掛けた後、酒井がここに来たことを示していた。
松吉はすぐ例の場所に出向いて酒井と会うが、仙太たちのことは一切喋らず、あれは自分の勘違いだったと言い訳する。
松吉は、仙太たちが仕事をして江戸からいなくなれば、自分が手伝ったこともバレず、何事もなかったように平穏な暮らしを続けられるのだと甘い考えを抱いていた。
二日後、いよいよ決行の日がやってくる。
昼、松吉は料亭で最後の打ち合わせを済ませて帰ろうとすると、仙太が呼び止める。
仙太「今夜はもう口を聞く暇もねえだろう、無理やり引っ張り出してすまなかったな」
松吉「いいえ、そんな……ただ、くどいようですが、本当にこれっきりってことに」
仙太「ああ、わかってるとも」
松吉が念を押すと、仙太は好々爺然とした温顔をほころばせて約束する。
さて、くめはあれから甲斐甲斐しく働いていたが、同じ日、

菊「殿様の言いつけで今日は私もおそのさんも奥様のご実家のほうへ参ります」
くめ「えっ、それでは殿様のお世話は?」
さすがにくめが戸惑った声を上げるが、

菊「あなたひとりでよいと殿様の仰せです」
あ、誰かと思えば、「仮面ライダー」76話でシードラゴンの缶詰売ってた由起艶子さんではないですか。
こっちの方が先だけどね。

くめ「そんな、私にはとても……」
菊「だいじょうぶ、私が教えるとおりにすればよいのです、なれぬあなたのこと、殿様も少々のことは大目に見てくださいますよ」
くめ「はい、一生懸命やってみます」
おその「……」
菊の悪意に満ちた目付きや、心配そうにくめを見るおそのの様子から、永山が何か企んでいるのは明らかであったが、純朴なくめは何も気付かず健気に答える。
おそらく、永山は過去にも似たような狼藉を働いていて、奥女中たちもそのことは知っているのだろう。
永山の妻が実家に戻っているのも、永山の不行跡と関係があるのかもしれない。
後編に続く。
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