第4話「魔法の石焼きイモ」(1984年2月3日)
いつものように健がバイクを走らせている。

ボールボーイ「ニック、今日もこんなに朝早くから真紀さんのところに出勤かい」
健「俺は彼女の用心棒だからな」
ボールボーイ「好きなんでしょう、だったら早くプロポーズを、うふふ」
健「黙れ」
懐から顔を出したボールボーイが健を冷やかしてからかうが、まだ付き合ってもいない相手にプロポーズしろって、およそ正気とは思えない発想だが、健全明朗なちびっ子向け特撮においては、「恋人になる」=「結婚する」ことなので、それほど奇矯な発言ではない。
要するに、「告白しろ」と勧めてる訳なのである。
それはともかく、だだっぴろい公園の横を通り掛かった健は、勝たちが落ち葉を集めて何かを燃やしているのを見て、てっきり火遊びをしているのだと思い込み、ちょうどそこにあったバケツに水道の水を溜め、

健「さあさあさあ、どいた、どいた」
勝「ああ、何をするんだよーっ!!」
健「火遊びなんかしちゃダメじゃないか」
美佐「私たち、おイモ焼いてたのよ」
健「ええっ」
まだ地球に来たばかりで日本の風俗に疎い健、美佐に言われて目を丸くする。

勝「ああ、これじゃ食べられやしないや」
勝、水に濡れたイモを掴んで嘆いて見せるが、焼いてるうちに乾くから、別に問題ないのでは?
バケツの水に漬けたわけじゃなく、落ち葉の上から掛けただけだしね。
一方、葉山家の庭では、
真紀「おっそいわねえ、勝、何してんだろう、もう」
真紀が時計と睨めっこをしながら勝の帰りを待っていた。
真紀は朝食代わりに焼き芋を食べるつもりなのだ。
そこへとぼとぼと勝がやってきて、

勝「……」
無言で、真っ黒に焦げた焼き芋を差し出す。
真紀「なによ、これえ、食べられやしないわ、こんなの」
しかし、水をぶっかけられて生焼けならともかく、黒焦げというのは、感覚的に納得しにくい。
まあ、水に濡れた分、長い時間焼くことになり、それで焦げたと言うことなのかなぁ?
勝「お姉ちゃん、ご飯にしようよ」
真紀「何言ってるの、旨い焼き芋を焼いてくるから、ご飯は要らないって言ったのはあんたでしょう、もぉ、今日は朝食抜き。早く学校に行きなさい」
勝「はぁーい」
顔に似合わずスパルタンな真紀は、無情の宣告を勝に下す。
さて、ここに、田舎から出稼ぎに来たものの、勤めた工場がその日に倒産してしまった、留造と言う不運な男がいた。
留造が、潰れた工場の中で溜息をついていると、

男「おっさん、仕事が欲しいのか? だったら焼き芋屋をやってみな」
留造「焼き芋?」
まるっきりフーテンの寅みたいな恰好をした男に話し掛けられる。
外に出てみると、石焼き芋屋の軽トラが置いてあり、すぐにでも商売が始められる状態になっていた。

男「こいつは魔法の焼き芋だ」
留造「魔法?」
男「車ごと全部やるぜ」
留造「えっ、あ、あのう、全部? ほんとかね」
男「ただし、条件がある、子供たちにはタダでくれてやることだ」
普通ならあまりにうまい話に何か裏があるのではないかと疑うところだが、藁にもすがりたい心境だった留造は飛びつくようにその話に乗る。
そして、最初に留造が芋を売ったのが、下校中の三郎、浩、豊の三人だった。
ま、売ったと言っても、男に言われたとおり無料でプレゼントしたのだが。
三人が焼き芋を頬張りながら公園を突っ切っていると、あの寅さん風の男が現われ、
男「お前たちは大変なものを食っちまったな、その焼き芋には特殊な薬が塗ってある、そのため、焼き芋を食うとクシャミが出る」

三郎「嘘だーっ」
三郎が思わず叫ぶが、その直後、三人の顔が一瞬緑色になったかと思うと、男の言うとおり、三人ともコショウを鼻の穴に突っ込まれたような、盛大なクシャミをし始める。
男「ほらほらほら、そのうちクシャミが止まらなくなり、お前たちは苦しみのうたち死ぬのだ、あっはっはっはっ……」
豊「待って、死ぬのはいやだよ」
男「助かりたかったら、食べかけの焼き芋を他の者に食べさせるのだ」
男は、まるで「リング」のビデオテープの呪いから逃れるための方法のような奇妙な治療法を教えてやる。
まあ、これは、風邪を人にうつすと治ると言う、何の根拠もない俗説から来てるんだろうけどね。
男……オノ男の人間態は、一旦テンタクルの本部に戻る。

男「焼き芋クシャミ作戦、開始いたしました」
K「ワシはこれまでクシャミに梃子摺っていたが、子供たちにクシャミをうつしたお陰でこの通り、治ったわい。だがそれだけが目的ではないのだ、今回はにっくき子供たちの間にお互いに不信感を植えつけ、友情を引き裂き、憎しみを駆り立てることにある。人間と言う奴はおろかなもので、自分だけが助かりたい、そのため、他人がどうなろうと構わん、ワシは、愚かなその姿を見ると、体の中からゾクゾクと嬉しさがこみ上げてくる……ワシのクシャミを元に作ったエキスは効能が良い」
ここで、理科の実験器具を組み合わせて作ったような装置で、Kが使っているハンカチから、「クシャミの成分」なるものが抽出され、それが緑色のエキスに加工されて芋に注射される様子が映し出される。

オウム「このクシャミのエキスは他人に伝染すると消えるのだ、そう言う特殊なエキスなのだ、はっはっはっ」
なんとなく、「セブン」のポール星人を思わせるキンキン声で、ハイテンションで喋るロボットオウム。
クシャミをしながら歩いていた三人の前に、勝があらわれる。

勝「風邪かい」
浩「焼き芋やるよ」
三郎「うまいんだぜ」
豊「早く食べなよ」
勝「俺、腹ペコなんだ。おい、こんなにもらっていいのかよ」
自分たちが助かりたい為に、何も知らない友人に毒入りの芋を食わせるという、Kの目論みどおりの卑劣な行為に走る三人。
しかし、おもいっきり食べかけの、しかもクシャミを連発している人間からそんなものもらっても、普通なら気色悪がって食べないと思うんだけどね。
あと、腹ペコと言うことは、勝はこれから学校に行くところなのだろうか?
それはともかく、律儀に三つの芋を食べた勝の顔が緑色になると、三人のクシャミがピタリと止まる。
豊「助かって良かったーっ」
三郎「今度は勝がクシャミで苦しむ番だ」
勝「ハックション!!」
自分たちが助かったことを喜ぶだけでなく、代わりにクシャミをし始めた勝を、良い気味だといわんばかりに囃し立てるクソ野郎どもであった。
勝は友人たちを恨むどころの騒ぎではなく、クシャミを切れ目なく続けながら帰宅する。
……あれ、と言うことはやっぱり下校中だったのか?
でも、朝飯は抜きでも、学校で給食を食べてるだろうから、腹ペコと言うのは変だよなぁ。
いや、当時はまだ週休二日制じゃなかったから、今日が土曜日だったら辻褄は合うか。
勝は家の前にいた健に、ちょうどそこにやってきた焼き芋屋で芋を買ってくれるよう頼む。
状況が良くわからない健であったが、とりあえず焼き芋を買おうとするが、

留造「一万円だ」
健「一万円? おじさん、焼き芋ってそんなに高いものなの」
留造「あったりめいだ、うちのは魔法の焼き芋だぞ」
健「おじさん、高いよ」
留造「じゃあ、やめるべ」
健「ああ、それがなきゃ」
留造「困るんだべ、だったら2万円出しな」
健「2万円?」
留造は健の足元を見て、1分もしないあいだに値段が倍になると言う、ジンバブエ並みの超インフレーション攻撃を仕掛けてくる。
ただ、このやりとり、全体的におかしい。
まず、なんで留造がそんな高い値段で売ろうとしているのか。
彼はその焼き芋がクシャミを起こすことは知らない筈で、それを1本1万円などという、普通考えたら絶対売れない価格設定にすると言うのは変である。
また、健にしても、それが勝の命に関わるものとは知らない筈なのだから、そんなバカバカしい値段で買う筈がない。
一方で、焼き芋の効果を知らない留造が、あたかも知っているかのように健の足元を見るというのもおかしい。
それはともかく、健はやむなく2万円で芋を買う。
と、健が戻る前に、真紀が車で自宅に帰ってくる。

勝「お姉ちゃん、助けて、ハックション、早く焼き芋!!」
真紀「えっ、焼き芋?」
意味もなく貼ってしまう真紀の美しいお顔。
勝「死んじゃうんだよ」
真紀「おかしいわねえ、あちこちで焼き芋を食べるとクシャミをする病気が流行ってるみたい」
と、健があらわれて、
健「俺の故郷じゃ、クシャミを止めるには数分間息を止めてりゃイチコロさ」
真紀「えっ、そんなことしたら死んじゃうじゃないの、変なこと言わないで」
地球人のことを良く知らない健は、得々とアイビー星での止め方を披露して真紀に白い目で見られる。
健「はい、焼き芋買って来たよ」
勝は健から貰った芋を一口齧ると、
勝「この焼き芋、誰か食べてよ、そうしないとクシャミが治らないんだよ」
健「……」
真紀「……」
健がその芋を食べようとするが、一瞬早く真紀が取り、

黒くて太くて熱いイモを、豪快に頬張って噛み千切る。
ドラマでは、焼き芋が出て来ても、若くて綺麗な女優さんは、青少年の健全育成のために実際に食べることは少ない(例・ケータイ刑事「銭形雷」)のだが、そのタブーを易々と乗り越えて実食した塚田さんこそ、特撮ヒロインの鑑と言えるだろう。
真紀「弟のあなたを死なせてたまるもんですか!!」
真紀が食べると勝はケロリと治り、代わりに真紀が可愛らしいクシャミをする。
もっとも、大人は子供に比べて耐性があるらしく、
真紀「クシャミをする焼き芋か、編者長に知らせなきゃ」
真紀は食べかけの芋を手に、再び車を発進させて週刊ヒット社に向かう。
しかし、別の人間が食べたら、最初に食べたものがそれで治ると言うのは変だよなぁ。
また、すでに感染している人間が二度目を食べた場合はどうなるのか?
勝の場合、三本同時に食べていたが、厳密には三郎、浩、豊の誰かの芋を最初に食べて、その瞬間に感染した筈で、それが三人とも治ったということは、感染済みの人間が食べても有効と言うことになる。
それに、すでに感染した勝が新たに食べた芋を真紀が食べて治るのだから、そう考えるのが自然だろう。
と、すれば、たとえば、AとBという人間がいて、それぞれ芋を食べて感染したとする。
その上で、互いの芋を交換して、同時に食べた場合、理屈の上では二人とも治らないとおかしいんだけどね。
にしても、クシャミをしたり、他人の食べかけの芋を食べたり、全体的にばっちい感じのするエピソードである。
それはそれとして、真紀はクシャミをしながら編集長の前にあらわれる。

真紀「編集長、大変です」
編集長「聞き飽きたよ、その台詞」
真紀「……」
真紀が無言で食べかけの芋を置くと、
編集長「おお、焼き芋」
真紀「待って下さい!!」
オークションに出せば1800億円は下らないと思われる、塚田さんの食べかけの焼き芋を見て目の色を輝かせる編集長にストップを掛けると、

真紀「は」

真紀「はっくしょん!!」
ひときわ豪快にクシャミをする真紀。
真の美人と言うのは、クシャミをしても美人だと言うことを証明した貴重なカットである。
編集長「人と話すとき、クシャミをするな、行儀悪いぞ」
真紀「この焼き芋をようく見てください」
編集長「ただの焼き芋じゃないか」
真紀「ところが不思議な焼き芋なんです」
真紀が説明しようとするが、食い意地の張った編集長は皆まで聞かず、いきなり芋にかぶりつく。
真紀「ああ、食べちゃった!!」
思わず大声を出す真紀。
でも、自分が助かるためには友人も売るような三郎たちと違って、編集長にすすめるどころか止めようとするあたり、真紀の善良な性格が滲み出ているシーンである。

真紀「その焼き芋は魔法の焼き芋なんです」
編集長「うん」
真紀「食べるとクシャミが連発し、死んでしまうんで、今、流行りの病気です」
だが、もう手遅れで、

編集長「あ……」
編集長の顔が、見る見る、「カリオストロの城」で大量の食べ物を一気に詰め込んだ時のルパンのように物凄い色になる。
そして永遠のクシャミ地獄が始まる。
真紀「クシャミを止めるには自分の食べた焼き芋を他人に食べさせるしかないんです」
編集長「ルミ子、焼き芋買って来い」
だが、編集長は芋を全部食べてしまったので、勝と同じく新たに買うしかない。
編集長「俺には家庭がある、女房子供がいるんだ、あーくしょんっ!! 死んだら化けて出てやる」
真紀「……」
絶え間なくクシャミをしながら、苦しそうに呻く編集長を痛ましげな目で見る真紀。
やがてルミ子が戻ってくるが、手ぶらであった。
編集長「芋、芋くれえ」
ルミ子「バカらしいから買うのやめました」
編集長「なにぃ」
ルミ子「だって1本10万円もするんですよー」
編集長「10万円?」

留造「へっへっへっへっへっ」
留造、相手の弱みに漬け込んで荒稼ぎした金を数えて天にも昇る気持ちであった。
しかし、さっきも書いたが、元々そんなに悪い人間ではないと思うのだが、オノ男に入れ知恵されたわけでもあるまいに、こんな因業な商売をすると言うのはなんか釈然としない。
まあ、子供ならただで貰えるのだが、そんなことは知らない編集長はやむなく10万円を払って芋を買う。

真紀「要らない、要らない!!」
編集長「頼む、誰か焼き芋食ってくれ、一生のお願いだ」
だが、日頃の人望がモノを言ってか、編集部の誰も食べてくれない。
と、突然そこに健が飛び込んでくる。
健「俺が貰いますよ」
健は芋を受け取って齧ると、すぐに社から飛び出す。
そして一気に歩道橋の階段を駆け上がり、

健「へっくしょん」
ボールボーイ「止まったかい、クシャミ」
健「ああ、どうにかね、でもクシャミって苦しいもんだね」
さすがアイビー星人の健、自力でクシャミを治してしまう。
ただ、さっきは数分間息を止めると言っていたのに、わざわざ全力でダッシュする意味が分からず、この後のシーンと比べてもなんか矛盾してるような気がする。
健はこんなアホなことをするのはテンタクル以外にないと考え、手分けしてあの焼き芋屋を探すことにする。

留造「さあ、食べて頂戴」
留造、今度は数人の女児に焼き芋を頬張らせようとするが、そこにボールボーイからの知らせを聞いた健が駆けつけ、
健「ちょっと待った、その焼き芋を食べたら、クシャミをして苦しむんだ。嘘じゃない、ほんとなんだ」
女児たちは健の警告に、気持ち悪そうに芋を放り投げて走り去る。
留造「おい、おらの商売にケチをつける気だか」
健「あんた、テンタクルだな」
留造「なんだそりゃ、おら留造ってんだ、商売の邪魔をすると承知しねえぞ」
健「あんたが売ってる焼き芋にはクシャミをする薬が混ざってるんだ」
留造「ばかっ」
健「あんた、知らないのか?」
留造「この野郎、おらの焼き芋にイチャモンつけやがって!!」
留造は健が止めるのも聞かずに自分で芋を食べ、自分もクシャミエキスに冒される。
前述したように、これによって留造が、クシャミのことを知らされていなかったことが分かるが、だったら何故、焼き芋をあんな高値で売っていたのか、その辺が分からなくなる。
それはともかく、因果応報、今度は留造が止まらないクシャミに苦しめられることになる。
ただ、口の中に焼き芋を入れたままクシャミをするのはやめて欲しかった。
健「そのクシャミは一生止まらないんだ」
留造「えっ、死んじまうよ……助けてくれ、死にたくねえだ」
健「クシャミを止めるにはその焼き芋を他人に食べさせるしかないんだ」
留造「誰かって、あんたのほかには誰もいねえじゃねえか」
健「俺が食べよう」
相手がテンタクルに利用されただけだと知った健は、自らその芋を食べて再び感染する。
と、今度は何故か走り出さずにその場で息を止め、仰向けにぶっ倒れて動かなくなる。

留造「おい、だいじょぶか……おらのために死んじまった。勘弁してくれ、おらが悪かった、金はけえすから、なぁ、生き返ってくれ、おいっ」
留造は健が死んだものと思い込み、その体に縋り付いて泣いて頼むが、健はピクリとも動かない。
しかし、これでは、さっきの治し方と明らかに異なるので、どうにも解せない。
留造「あの野郎、おらを騙しやがったな」
元々別に悪人ではない留造は、海より深く反省すると同時に、あの男への怒りを燃やし、健を放置して、あの廃工場へ軽トラを走らせる。
この後、色々あって、オノ男とマシンマンの無駄に長いラス殺陣となる。
無論、マシンマンの勝利に終わるが、今回は留造がすでに改心しているので、カタルシスウェーブは使っていない。
ただ、これっきり留造がフェードアウトしてしまうのは物足りない。
留造「すいませんでした、これからは真面目に働きます」
マシンマン「うむ」
みたいなことを、戦いの後に言わせて欲しかった。
ラスト、再び勝たちが焼き芋を焼いている。

勝「おい、焼けたぜ」
浩「この間はごめんよ」
三郎「勝、お先にどうぞ」
豊「本当に悪かったよな」
ここで、とってつけたように三郎たちがさっきのことを謝罪しているが、三人が自分たちのしたことを悔やむシーンもなければ、勝がそのことで恨むシーンもなかったので、まさにとってつけたようにしか見えないのであった。
結局、子供たちの友情にヒビを入れ、不信感を芽生えさせるというKの壮大な実験も、勝たちのケースでしか見られず、それも極めて中途半端なものだったので、プロット自体が空回りしているような印象は拭えない。
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