第5話「三億円の切手泥棒」(1984年2月10日)
のっけから、真紀の気合の入った声が響く。
真紀「えーいっ、やっ!!」

自宅の庭で、空手の稽古をしているのだ。

間の悪いことに、その背後にミカンの箱を抱えた亀太がやってきて、真紀の強烈な後ろ回し蹴りを食らってぶっ倒れる.
石森先生の息子の小野寺丈さん演じる三枚目キャラ・亀太の初登場シーンであった。
真紀「あ、亀太さん、ごめんごめん、ごくろうさま」
優しい真紀は、散らばったミカンを箱に戻すのを手伝ってやる。
真紀「運動の後はビタミンを豊富に取らなきゃね」
亀太「うちのミカンはビタミンたっぷりですからね」
真紀(ミカンはみんなそうだろっ!!) 早速調子の良いことを口にする亀太に心の中でツッコミを入れる真紀であったが、嘘である。
亀太「でも、ほんと、真紀さんて綺麗だな」
亀太、真紀の美貌に見惚れて感嘆の声を上げる。

真紀「えっ? うふっ、どうも、ありがとっ」
ああ、かわええ……
と、そこに勝に引っ張られるようにして健があらわれる。

勝「健さん、連れてきたよ……なぁんだ、亀、来てたのか」
真紀「勝、なんですか、年上の人に向かって亀だなんて」
普段から子供たちに舐められているのか、勝は平然と呼び捨てにするが、弟の躾にうるさい真紀は眉を怒らせて𠮟りつける。
亀太「いや、いいんですよ、別に、俺、亀太だから亀で……で、あの人、どなた」
勝「うちの用心棒さ」
亀太「用心棒?」
健「俺、高瀬健、よろしく……あ、真紀さん、俺に用ってなんだい」
真紀「話があるの、私と一緒に来て」
真紀はそう言って健を何処かへ連れて行こうとする。
亀太も一緒に行きたいとねだるが、

真紀「あなたは商売があるんでしょ、道草食ってちゃお父さんに𠮟られるわ」
と、まるっきり子ども扱いされる。
劇中では特に説明はないが、亀太は実家の八百屋を手伝っているのだろう。
勝「ああ、ふられたーっ!!」
亀太「ぐぐぐ」
亀太が轟沈したのを見てはしゃぐ勝と、悔しさのあまり売り物のミカンを口に詰め込む亀太であった。
健「えっ、アルバイト?」
真紀「大の男がぶらぶら遊んでちゃいけないわ、私がいいアルバイト紹介してあげるから働きなさいね」
そして真紀の用件と言うのは、一見ニートにしか見えない自称大学生(アイビー星の大学生であることは事実なのだが……)の健に仕事を世話しようと言うものだった。
ちなみに、アイビー星ではそもそも労働や賃金と言う概念がなく、仕事は全て機械がやってくれるので、健は生まれてこの方一度も働いたことがないのである。
言わば、筋金入りのニートなのである!!
ともあれ、真紀は強引に健を車に乗せると、現在、「世界の切手展」と言う催しが行われている文化ホールのようなところに連れて行く。

真紀「森口警備主任はね、勝のお友達のお父様なの、さ、あなたからお願いして」
健「え」
真紀「早く」
健「ああ、僕、高瀬健です、よろしく」
その様子はまるっきり母親同伴で就職活動している情けない大学生のそれだったが、なにしろ働いたことがないのだから仕方ない。

森口「真紀さんが保証人なら太鼓判だがね、私の一存じゃあ……明日にでも上司に相談してみよう」
森口を演じるのは、怪人の声でお馴染みの依田英助さん。

真紀「よろしくお願いします」
健「よろしくお願いします」
何がなんだか良く分からないが、とにかく頭を下げる健であった。
森口はついでだからと、二人を展示場に案内してくれる。
会場には世界中の様々な珍しい切手が展示されて、なかなかの盛況であった。
森口は、自分の息子の姿を見つけると、その肩を叩く。

森山「ケイスケ」
ケイスケ「あ、お父さん、イギリス領ギアナの1セント切手、本当に凄いね、俺、欲しくなっちゃった」
森山「こら、そんなこと言っちゃいかん。この切手はな、切手を愛する人、みんなの宝なんだ」
森山は、二人を息子に紹介すると、

森山「これがイギリス領ギアの1セント切手だ」
今回の展示の目玉である希少な切手を見せてくれる。

健「へえーっ」
ほんとは何の興味もなかったであろうが、地球に来てはや一月経ち、健もそれなりの社交辞令を身につけたと見える。
にしても、真紀のその場がパッと明るくなるような笑顔の素晴らしさ!!
はっきり言って、そんな紙切れなんかよりよっぽど価値がある存在だと思う。
そして偶然にも、Kがその貴重な切手を狙っていた。

K「これは世界で最初に印刷された切手で、イギリス領ギアナの1セント切手だ」
モンス「はーっ」(日本語訳・知るか)
K「私も自他共に認める切手のコレクターだが、英領ギアナの1セント切手に比べればこんなものは二束三文の値打ちしかない。英領ギアナの切手は世界中で1枚しかなく、文字通りの珍品なのだ。この間、アメリカで落札された時は3億円だった、子供は切手が好きだ、あの切手が盗まれれば子供たちは悲しむ」
と言う訳で、今回は自分の欲しいものを盗み、ついでに憎い子供たちを落胆させるという、趣味と実益を兼ねた一石二鳥の作戦なのだった。
どうでもいいが、「自他」の「自」は分かるけど、「他」って誰だよ?
「悪の組織」の首領が切手コレクターだと認められる、どんな機会があると言うのだ?
同窓会?
展示場では、展示のない夜間も厳重な警備体制が敷かれていた。

西村「主任、窓やショーケースの鍵は全部ロックされています、異常ありません」
森口「ごくろうさん、全員表へ出てくれ、赤外線警報装置のスイッチを入れる」
森口は部下を部屋の外へ移動させると、入り口脇の警報装置をオンにして、念のため、赤外線ゴーグルで確認する。

部屋の中には、スパイ映画みたいに、赤外線が縦横に張り巡らされていた。
森口は入り口のガラスドアを締め、それにもしっかり鍵を掛ける。
ただ、その後の映像を見ると、警備員は常に入り口を見張っている訳ではないので、ドアの鍵を開けて、警報装置を切れば簡単に忍び込めるので、鉄壁には程遠い警備体制のように見える。
警報装置のスイッチが部屋の奥か、警備員の詰め所にあるのならだいぶ違うのだが。
もっとも、見張りが常駐していると、森口が盗んだという話にしにくいので、仕方ないんだけどね。
その後、警報装置が鳴り響き、西村ともうひとりの警備員が真っ先に駆けつける。
ただ、ここ、めちゃくちゃ変なのは、西村がドアの戸を掴んで動かそうとして鍵が掛かっていることを確かめてから、
西村「主任に知らせるんだっ」
と、もうひとりの警備員を立ち去らせた後、ごくフツーに西村がドアを開けていることである。
鍵掛かってたんとちゃうんかいっ!! もっとも、主任たちが来る前に西村には部屋に入って「あること」をしなければならず、そのためにどうしても西村を入らせる必要が(スタッフには)あったんだけどね。
しかし、どうやって西村が鍵を開けたのか、何の説明も無く、誰も聞こうとしないのは変だろう。
合鍵を持っていたのだろうか?
それはともかく、やがて森口たちが駆けつける。

森口「西村、どうした」
西村「主任、あれを見てください」
果たして、イギリス領ギアナの切手が忽然と消えており、また、それ以外の切手も少しだけ盗まれていた。
直ちに警察が駆けつけ、捜査が行われる。

刑事「すると、第一発見者の君がこの展示場に入ったときには本当に人影はなかったんだな」
西村「はい」
刑事を演じるのは、毎度お馴染み五野上力さん。
警備員の中には、これまた毎度お馴染みの鎌田功さんの姿もある。
警察の手で館内が徹底的に調べられるが、切手は発見されない。
事件が発生した直後に建物は封鎖されたので、まだ切手は建物の何処かに隠されている筈なのだが……
週刊ヒット編集部。
編集長「盗まれた切手は時価3億円の代物だ、おまけに密室の犯罪と来ている、犯人を見つけたら大スクープだ、このところわが社の雑誌の売れ行きはダウン、このままじゃ俺の首が飛ぶ、真紀ーっ!!」
真紀「はっ、はいっ」
編集長「真紀、スクープをものにしてくれ、頼む」
編集長、珍しく下手に出て、両手を合わせて拝まんばかりに真紀にすがる。

真紀「オッケイ」

真紀「まかしといて!!」
それに対し、まるで友達のように気軽に引き受ける真紀。
……
可愛過ぎやろっ!! ああ、なんでこの可愛らしさが、これより遥かに巨額の予算を投じられた「ジャスピオン」で1/10も発揮されなかったのか、大いなる謎である。
ところが、その後、意外な展開となる。
森口は、洗面所のゴミ箱の陰に、ギアナ切手と一緒に盗まれた数枚の切手が隠されているのを発見する。
と、そこに刑事たちがあらわれ、

刑事「おい、この切手はどうしたんだ」
森口「い……」
刑事「そうか、切手を盗んだのはお前だな」
森口「何を言うんだ、私は……」
刑事「俺たちはね、警備の担当者全員をマークしていたんだ」
森口「私はここで……」
刑事ドラマ以外のドラマに出てくる刑事はボンクラと相場が決まっているので、彼らは森口の弁明に耳を貸さず、その場で逮捕してしまう。
無論、切手を隠したのは真犯人なのだが、森口が気付いてくれなかったらどうするつもりだったのだろう?
なので、この場合は、森口のロッカーにでも入れておくのが吉である。
こうして森口の顔写真が、窃盗犯として新聞にでかでかと載る事態となる。
しかし、警報が鳴った時には森口は他の警備員と一緒にいたのだから、一体いつ切手を盗むチャンスがあったのか、それだけでも森口が犯人であることはありえないのだが……

真紀「驚いたわー、あの森口さんが犯人だったなんて」
健「信じられない、でも、どうやってあの密室から切手を盗み出したんだろう?」
真紀「うーん」
健「何かの間違いだ、あの人はあんな悪いことができる人じゃないんだ」
真紀「でも森口さんは切手のコレクターだったそうだし……盗まれた切手を持ってたことが動かしがたい証拠になってるのよ」
健「これには何か訳がありそうだ、俺は森口さんちに行ってみるよ」
珍しく真紀がミニスカートを履いてくれているのは嬉しいが、飛んだり跳ねたりしてくれないので可能性はゼロである。
ちくしょう。
次のシーンでは、健が森口家でケイスケとその母親から話を聞いている。
ケイスケ「俺、小学校1年の時から切手を集め始めたんだ。そしたらお父さんが、一緒に二人で日本一の切手コレクションを作ろうって……俺が切手なんか集めなきゃ」
健「何をするんだっ!!」
ケイスケが自暴自棄になって切手アルバムを引き裂こうとするのを、健が慌てて止める。
健「君はお父さんがほんとうに切手を盗んだと思ってるのかい」
ケイスケ「だって、警察じゃ、お父さんが犯人だって……」

健「俺は君のお父さんは無実だって信じてるよ」
ケイスケ「えっ」
健「だから、君もお父さんのことを信じるんだ」
ケイスケ「うんっ」
健の言葉にケイスケは力強く頷き、母親も思わず涙ぐむ。
それにしても、どいつもこいつも切手を集めるのを趣味にしていると言うのは、まさに隔世の感のある設定だね。
あんなもん集めて何が楽しいのか?
……まぁ、かくいう私も子供の頃は集めていたので、あまりえらそうなことは言えない。
夜、健は現場を調べてみようと、マシンマンに変身して展示場に忍び込む。

その際、ビニール状のマントが光に包まれて消えるビジュアルが初めて使われている。

マシンマン「サーチライトビーム!!」
マシンマンは宇宙刑事のように、両目を光らせて部屋の中をくまなく探査する。
室内には相変わらず赤外線センサーが張り巡らせてあったが、マシンマンはフランス人形の目が異様な光を放つのに気付き、
マシンマン「あのフランス人形がどうもおかしい、俺は基地に帰って調べる、ここで監視を頼む」
ボールボーイ「おまかせ」
ボールボーイに命じると、自分はセンサーに触れないように床を滑り、フランス人形のところまで移動する。
ケースからフランス人形を取り出したマシンマンは、
マシンマン「そもそもなんでフランス人形があるんだよっ!!」 と言う、根本的な疑問に突き当たるのであったが、嘘である。
でも、劇中では全員「見て見ぬふり」で処理しているが、切手の展示場になんで麗々しくフランス人形が飾ってあるのか、めちゃくちゃ不自然なのは事実である。
CM後、持ち帰った人形をスペースコロニーのメカで調べている健。

健「そうかぁ、この人形は赤外線を通してしまう材質で作られていたんだな」
健はまず赤外線を当ててみて、その秘密を見抜く。
また、両目にはICチップが埋め込まれていた。
健「わかったぞ、これは精巧なリモコン装置だ、とすると、犯人はリモコン装置をこの人形に内蔵して、英領ギアナの切手を盗ませたんだ。人形はそれ自体、赤外線を通すように作られている。だから警報装置は鳴らない」
ここで実際に人形がひとりでに動いてケースから抜け出し、ギアナ切手のケースの鍵を壊す様子が映し出される。
ただ、だとすると、なんで警報装置が鳴ったのかと言う疑問が湧くが、人形が何か別のものをセンサーに触れさせてわざと警報を鳴らしたのだろう。
駆けつけた真犯人が、騒ぎに乗じて切手を隠すためである。
つまり、警報が鳴った時にはまだ切手は人形の手にあったのだが、真っ先に駆けつけた犯人がひとりになった隙に、別の場所に隠したのである。
健「しかし、人形が盗んだ英領ギアナの切手は一体何処に消えたんだろう?」
密室トリックの謎は解けたが、依然として切手の行方は分からない。
意外にも、そのありかはKも知らなかった。
K「世界一の珍品、英領ギアナの切手はどうしたのだ」
モンス「あの切手はある場所に隠してあります」
翌日、展示場にやってきた警備員の西村は、あのフランス人形がなくなっていることに気付く。
西村「人形がないっ」
警備員「えっ、人形?」
西村「いや、別に……」
その様子は、ゴミ箱の中に隠れていたボールボーイに見られていた。
もっとも、ある筈のフランス人形がなくなっていたら驚くのが普通で、それを気にしない警備員の方がおかしいんだけどね。
色々あって、健はケイスケにある頼みごとをする。
その後、西村がそのケイスケに呼び出されて、建物内の人気のない場所にやってくる。

西村「俺に話があるってなんだい」
ケイスケ「……」
西村「どうしたんだい、この人形」
ケイスケ「この人形がイギリス領ギアナの切手を盗んだ真犯人を知っているんだ」
西村「なんだって? ふっはっはっ、ぼうや、ここじゃ話が出来ない、ちょっと操車場まで来てくれ」
無論、ケイスケは健の言われたとおりにやっているのだが、西村はあっさりその罠に引っ掛かり、ケイスケを操車場に連れ出すと、

西村「ああーっ!!」
3話にも出て来た犯罪ヘルメットを被り、たちまちイイ顔になる。

カッチュウ男「知られたからにはお前を生かしてはおけん」
そう、真犯人は第一発見者の西村だったのだ。
ちなみに、制作上は完全なスーツの使い回しなのだが、外見は同じでも中身が違う設定なので、見てる方もあまり使い回しと言う感じがしないのが利点である。
ラス殺陣自体に興味のない管理人としては、毎回これでもいいくらいで、その分、予算を別のところに使って欲しいところだが、さすがにキッズにはウケが悪かったのか、カッチュウ男はこれでお役御免となる。
この後、健がマシンマンとなって駆けつけ、ケイスケを助けてカッチュウ男と戦う。

西村「ぐわっ」
人間にしては善戦するが、3話の大下同様、最後はヘルメットを割られ、胸にMマークを刻まれて、実にイイ顔で悶絶する西村。
でも、悪役がこういう強化スーツを使ってヒーローと戦うのって、めっちゃ斬新なアイディアだと思う。
言ってみれば、悪人版コンバットスーツみたいなものだからね。
カタルシスウェーブを浴びた西村はたちまち善人になる。
マシンマン「リモコン人形に盗ませた英領ギアナの切手は何処にあるんだ?」
西村「あの切手は私が人形から取って森口主任たちが駆けつける前に他の切手の裏に隠し、そして警戒が緩んでから取り出すつもりだったんだ」
西村はすらすらと隠し場所を吐くと、
西村「欲に目が眩みテンタクルから金を貰ってしまった。これから警察に自首します」
こうして事件は解決し、森口の無実も証明される。
別の切手の裏に隠すというのは「盗まれた手紙」っぽいトリックで面白いが、同時に盗まれた切手についての説明が抜けている。
映像では、西村がその場で盗んだとしか思えないが、警備員は全員身体検査をされただろうに、一体何処に隠していたのか、いささか疑問である。
洗面所に隠していたとすれば、最初に警察が調べた時に見付かってる筈だしね。
さて、ケイスケと母親、そして健と真紀が森口が釈放されるのを警察署の前で待っている。

真紀「犯人、自首しちゃったのね、何故もっと早く知らせてくれなかったのよ、スクープだったのに」
健「もうすぐ森口さんが釈放になる、それを撮ればいいさ」
真紀「だってそれじゃスクープにならないじゃない」
健「無実の父親と家族が再会するんだぜ、みんなの心を打ついい写真が撮れると思うよ」
真紀「あっ、そっか、いただき!!」
健に言われて真紀もその気になるが、肝心のところでまたしても亀太が邪魔をして、家族が感激の抱擁をしているところを撮り損ねる。
亀太がその場で八つ裂きにされたのは言うまでもないが、嘘である。
しかし、新聞にでかでかと載った冤罪事件なのに、真紀以外のマスコミ関係者が一切取材に来ないと言うのは変だよなぁ。

それはともかく、最後は真紀の飛び切りの笑顔で締めましょう!!
以上、密室での盗難事件、意外な犯人、意外な隠し場所と、三拍子揃ったミステリー色の強い佳作であった。
- 関連記事
-
スポンサーサイト