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「気まぐれ天使」 第23回「あなた代わりはないですか」 後編



 忍、榎本と一緒に外を歩いていたが、道端に藤平がキョロキョロしながら立っているのを見つけて声を掛ける。

 
 榎本「何してるんですか、こんなところで」
 藤平「榎本君、さっきはありがとう、重役に会ってくれたんだってね」
 榎本「いえ、お役に立てませんで……」
 藤平「いやいや、どうも……聞きましたよ、女部長のご意見とやらも。人を羨んでも仕方がないだろ。元はと言えば自分に力がないんだから」

 藤平、本社復帰をすっかり諦めた様子で、さばさばと現実を受け入れ、改めて忍に謝罪する。

 忍「で、あのー、どうするんですか?」
 藤平「ま、しょうがないだろ、当分九州で我慢するより……サラリーマンなんだから」
 榎本「で、奥さんのことは?」
 藤平「うん、行ったり来たりでね、まぁ、自分ひとりが忙しい思いすればそれでいいんだから……おかしいなぁ」
 忍「は?」
 藤平「いやいや、娘と待ち合わせしてるんでね、ちょっと探してくる……それじゃ元気でね」

 藤平、名残惜しそうに二人に別れを告げると、悄然と人込みの中に消えていく。

 さて、仕事を済ませた渚、忍と一緒に帰ろうと元気良く宣伝部に顔を出すが、オフィスには忍どころか社員の姿はひとりもなく、友江が残っているだけだった。

 友江は渚に椅子をすすめると、

 
 友江「加茂さん、この頃、童話書いてる?」
 渚「ううん、駄目みたい」
 友江「駄目って書けないの?」
 渚「そ」
 友江「どうして? 『山彦ホー太郎』みたいな素敵なお話書いた人が?」
 渚「うん、あれ読んだの?」
 友江「ええ、感動したわ」
 渚「良かったよね、私さ、ああいうのどんどん書いてもらいたいの。だからさ、おっちゃんが九州に行ったら良いなぁってそう思ったの」
 友江「どうして?」
 渚「だってこんなところにいるよりよっぽど落ち着けるでしょ」

 天真爛漫な渚、その会社の人間に向かって「こんなところ」と甚だ失礼なことを言うが、友江も渚の性格はよく知っているので、いちいち気分を害したりはしない。

 と、その時、オフィスの入り口に、コートを着た15、6才の可愛い女の子があらわれる。

 
 悠子「すいません」
 友江「はい」
 悠子「あのー、こちらに藤平伺わなかったでしょうか?」
 友江「もうだいぶ前よ、見えたのは……お嬢さん?」

 
 悠子「はい、うんー、何処行っちゃったんだろう」

 藤平の娘・悠子を演じるのは、そう、自分も初めて見たときはびっくりしたが、「ロボット刑事」にレギュラー出演していたロリロリ美少女・加賀由美子さんなのである!!

 あれから4年くらい経ってるが、すっかり大人っぽくなってしまって、嬉しいやら、悲しいやら(なんで?)

 友江は、とりあえず渚と悠子をシックなパーラーへ連れて行く。

 
 渚「お姉さん、チョコレートパフェひとつ」
 悠子「本社に帰れることになったって、お父さん、とっても喜んで……今日は私にセーター買ってくれるって」
 友江「そう……」
 悠子「だって私、病気のお母さんひとりでずっと面倒見てたでしょ?」
 友江(知らんけど……)
 悠子「だからそのご褒美なの、でも、もう安心だわ、家族三人一緒に暮らせるんですもの」
 友江「そう、ね……」

 東京に戻れる望みが絶たれたとも知らず、無邪気に喜んでいる悠子に、さすがの巴御前も何と言っていいか分からず、困惑する。

 なにしろ藤平の宣伝部復帰の芽を潰したのは、他ならぬ自分なのだから、気まずいことこの上ない。

 悠子「お父さんの代わりに九州に行って下さる人にようくお礼言っといてくださいね」
 友江「ええ……」

 口を濁して俯く友江の代わりに、渚が気軽な調子で、

 渚「それなら私に任しといて」

 
 悠子「えっ?」

 怪訝そうな顔で渚の顔を見る悠子。

 この素人っぽい、正真正銘の処女!! と言う感じのイノセントな雰囲気、実に良いですなぁ。

 ぶっちゃけ、今回の話をレビューしようと思った最大の動機は、彼女の存在があったからである。勿論、ストーリーも面白いんだけどね。

 渚「だってうちのおっちゃんだもん」
 悠子「おっちゃん?」
 渚「うん、ね、部長さん、そうだよね?」
 友江「ええ……」

 裏返りそうな声で、そう答えるしかない友江であった。

 その後、渚は悠子を下宿に連れて行く。

 
 綾乃「ああ、こちらのお嬢さんが九州にいらしたの?」
 悠子「うん、おばあちゃん、あっちの話聞きたいって言ったからさ、連れて来ちゃった」

 
 綾乃「はあ、懐かしいわぁ、九州はどちら?」
 悠子「ふ、福岡です」

 緊張のせいか、思わず声が震えてしまう悠子タンが可愛いのである!!

 綾乃「福岡? 伊集院てとこありますでしょ?」
 悠子「さあ、聞いたことありませんけど」
 綾乃「あら、あんな有名な場所知らないなんて」
 渚「ほんとにあんのー、そんなとこ」
 綾乃「何言ってんの、お前、あちらにはご先祖の親戚がまだどっさりいらっしゃるの、あそこ行くとね、町中、みんな伊集院」
 光政「あったよ、おばあちゃん」

 綾乃の傍らで熱心に地図を見ていた光政が声を上げるが、伊集院と言う地名があるのは福岡ではなく鹿児島であった。

 綾乃がなおもあることないことまくし立てていると、忍が疲れた様子で帰ってくる。

 
 忍「ただいま」
 渚「お帰りー」
 綾乃「お邪魔してます」
 忍「あれ?」
 渚「この人だよ、あんたのお父さんの代わりに九州行く人って」
 忍「なに、お父さん?」

 悠子は居住まいを正すと、

 
 悠子「藤平です、父の代わりに行ってくださるそうで、ほんっとにありがとうございました」

 心から忍に礼を言う。

 
 忍「渚、これは一体どういうことなんだ、ええっ?」
 綾乃「ちょっとちょっと、これ、私今ね、伊集院家のね、この場所が……」
 忍「うるさい、黙れ、ババア!!」

 大事な話をしてる横でなおもごしゃごしゃ言う綾乃に、忍がキレる。

 
 綾乃「あっ……ババアって……」
 忍「渚、誰に聞いたんだ、その話を?」
 渚「女の部長さん、おっちゃんを九州に転勤させるって私に約束したんだよ、あの人」
 忍「ちくしょう、あの巴御前めっ」
 綾乃「ババアって……」

 ひとりで怒り狂って再び家を飛び出す忍と、しつこく「ババア」と呼ばれたことにこだわる綾乃の対比が、抱腹絶倒の名シーンとなっている。

 で、残念ながら、悠子タンの出番はこれで終了となり、藤平と顔を合わせることもないままフェードアウトしてしまう。

 さて、忍、友江と真紀のマンションに喧嘩腰で乗り込むと、友江の一方的な転勤命令(だと忍が思い込んでるだけなのだが……)に断固抗議する。

 
 忍「そんなのむちゃくちゃですよ、部下の意向を聞かない人事なんて私は認めませんからね!! 僕はね、作家になろうとするためにですね、色んなコネを作りました。それが九州なんか飛ばされたらパーになっちゃうじゃないですか!! 九州なんか行ったら絶対ね、出版なんかしてくれないんです」
 真紀「そんなことない、そんなことない、ほら、こないだ『子育てごっこ』で直木賞貰った人、岩手県の分校の先生だって……ま、才能さえありゃね、何処でだって平気」
 忍「そ、才能があればだいじょぶだけどね、僕の場合、才能が……うるさい、黙れ、お前は学生なんだから、向こうで勉強してろ!!

 横から無責任な茶々を入れてくる真紀を、怒鳴りつけて黙らせる忍。

 ちなみに「子育てごっこ」を書いたのは三好京三氏だが、岸田秀の「不惑の雑考」では、穂積さんの「積み木くずし」と並んで、親が子供のことを書いて本にするのは、「子供に対して絶対やっちゃいけないことだ」って槍玉に挙げられている。

 忍「ねえ、とにかく、部長、僕は今ここで九州に飛ばされたらね、全部身の破滅なんですよ、どうしてそんなことするんですか? お願いです、聞かせてください!!」

 友江に縋りつき、泣きべそ掻かんばかりに懇願する忍であったが、友江はあくまで冷静に、

 
 友江「そう、分かったわ、でも答える前にこっちが聞きたいわ」
 忍「何をですか?」
 友江「あなた、作家作家って仰るけど、あたしが(会社に)来てから一度も書いたことないわねえ」
 忍「いや、それは……部長が来てから、いそ、忙しかったから」
 友江「あ、そう、それじゃやっぱり地方へ行ったほうが暇が出来ると思うけど」
 忍「いや、地方に行ったら出版社のコネが……」

 何とかの一つ覚えのようにコネコネ言う忍に、

 友江「忙しいから駄目、コネがなければ駄目、それで本当の作家って言えるの? 『山彦ホー太郎』みたいな良いお話書いた人が、どうしたって言うの?」
 忍「えっ、部長、それじゃあの話を?」
 真紀「そ、友江姉さんね、読んで素晴らしいって言ってくれたのよ」
 忍「……」

 黙り込んだ忍の顔を見詰めていた友江は、にっこり笑うと、

 友江「どうやら渚ちゃんの言ってることが正しいようね」
 忍「な、何言ったんですか、あいつが?」
 友江「なんでもいいわ、あなたのその毒された頭は地方の空気で洗い流されたほうが良さそう。やっぱり明日提案しましょ、九州転勤」
 忍「そんな部長……」
 友江「いやだったら、書いて見せて頂戴、素晴らしい童話を読ませて頂戴……そうしたら認めてあげるわ」

 友江に挑発気味に焚き付けられた忍、例によってすぐ発奮し、立派な作品を書いてみせると宣言して部屋を出て行く。

 友江、少し考え込んでいたが、やがてヘルメットを二つ手にして出掛ける。

 榎本が自宅アパートでコーヒーを淹れていると、どこかで聞いたようなキンキン声が聞こえてくる。

 友江「榎本さん、すぐ出て来て頂戴!! 榎本さん!!」
 榎本「あれ、あの声は部長の声だ」

 榎本が何事かと通路へ出ると、アパートの前に友江がバイクに乗って待っていた。

 
 榎本「どうしたんすか、こんな時間に」
 友江「いいから早く後ろ乗って!!」
 榎本「えっ?」
 友江「早く!! 行くところが一杯あるの!! 話は乗ってから」

 友江、榎本を急かすと早くもキックペダルを踏んでエンジンを始動させる。

 忍、カッカッしながら帰宅すると、万年筆を握って綺麗さっぱり片付けられた机に向かう。

 忍「九州なんか行かないぞーっ!!」

 と、渚がどたどた上がってきて、

 渚「おっちゃーん、ねえ、どうして九州行かないの?」
 忍「九州なんか行かないの、もうずっと行かないの」
 渚「そんなかわいそうだよ、あの子」
 忍「何が」
 渚「おっちゃんにくれぐれもよろしくって、今送ってきたんだよ、あの子ね、一家が離れ離れになんなくて済むって、泣いて喜んでたんだから……」
 忍「俺はね……」

 何か言おうとした忍の体を押すと、

 渚「どうして九州行かないのよっ?」
 忍「……人の犠牲にはもうならないんだよ!!」
 渚「そんな冷たいおっちゃん大嫌いだよ!!」
 忍「なにぃ」
 渚「人のことでさ、バカばっかり見てるおっちゃん好きだったのよ」
 忍「冗談じゃないよ、もうね、人のことでバカばっかり見てる暇はないの!!」
 渚「だって自分のためにも伸び伸びするって言ったじゃない」
 忍「お前たちが来て伸び伸び出来るわけねえじゃねえか!!」
 渚「そんな……私、くっついていかないよ!!」

 
 忍「なにぃ?」

 激しい言い争いの末、渚の放った意外な宣言に思わず振り向く忍。

 と、すかさず隣の部屋から綾乃が出て来て、

 綾乃「渚、お前、一緒に行かないつもりなの?」
 渚「おっちゃんと別れんのつらいけどさ、これ以上おっちゃんの荷物になったら悪いもん」
 忍「……」
 渚「私ね、おっちゃんに頑張ってもらって、早く有名な作家になってもらいたいんだ」

 忍、震えるような声で言う渚の顔をまじまじと見詰める。

 
 渚「だからさ、悲しいけど我慢するんだ」
 忍「……」

 渚の健気な言葉に、胸が詰まって何も言えなくなる忍であった。

 
 渚「ね、おっちゃん、九州行ったら伸び伸び出来るだろう、いい童話だって書けるしさ。あの子の家だってバラバラになんなくて済むかもしれないしさ」
 綾乃「でも、私たちはバラバラになってしまうから」
 渚「贅沢言わないの、おっちゃんがえらくなるためだったらさ、ね、おっちゃん、九州行って……おっちゃん」

 忍、唇を噛んで、黙って渚の言葉を聞いていたが、不意に、たまらなくなったように顔を伏せると、机をドンドン拳で叩きながら、

 忍「お前たちみんな、向こう行けーっ!!」

 駄々っ子のように喚くのだった。

 九州に行きたくないという自分の気持ちと、九州に行って良い童話を書いて欲しいという渚の無私の願いとの板ばさみになって、気持ちの制御が出来なくなったのであろう。

 だが一夜明けると、忍は妙に堂々とした足取りで会社にやってくると、同僚たちに明るく朝の挨拶をする。

 榎本「えらいご機嫌ですね、また今日は」
 忍「うん、踏ん切りをつけたからね、人間ひとつ割り切ると、この心身ともスカーッとするもんだねえ」

 そこへ友江があらわれる。

 忍「あ、部長、おはようございます」
 友江「珍しく早いのね」
 忍「早速ですが、私、九州に行かせていただきます」

 忍、挨拶もそこそこに、深々と頭を下げて九州行きを申し出る。

 由利「ほんとー?」
 忍「はい、みなさん、お揃いのようですから一言言わせていただきます」

 
 忍「みなさん、このたび、九州の営業所に転勤させていただくことになりました。本社在任中はみなさまにほんとうにご迷惑をかけました……」

 忍の呼びかけに他の社員もぞろぞろ周りに集まってきて、忍の声涙ともにくだるような、謙虚で胸に染み入る転勤の挨拶を拝聴する。

 ところがそれが終わるか終わらぬうちに、藤平が騒々しく入ってきて、

 
 藤平「いやー、ありがとう、ありがとう」
 忍「ありがとう……え?」
 藤平「あ、南條部長、重役から聞きました、あなたのお陰で助かりました。ありがとうございました」
 忍「いや、あの、部長のお陰じゃなくて僕のお陰で……」
 藤平「みんなにも色々心配をかけたけども、南條部長のお口添えで、私このたび、横浜の営業所に移ることになったんだよ」
 忍「え」
 藤平「これでね、また私、家族と一緒に暮らせることが出来る」
 忍「いや、だから、あのう、僕はあの、九州のほうは……」

 「寝耳に水」の展開に、忍は訳が分からずもぞもぞ口の中で言っていたが、

 藤平「九州の後任はね、やはりあの、南條部長のお口添えで横浜営業所の谷村さんと言う方が行ってくれることになったんだよ」

 
 忍「え、谷村さん?」

 ここへ来て、やっと忍も、いつの間にか状況が変わっていることに気付いて我に返る。

 由利「じゃ、加茂さんじゃないのーっ?」
 信子「どうなってんのーっ?」

 それは由利たちも初耳だったようで、忍と同じく狐に抓まれたような顔になる。

 笑っているのは友江と榎本だけで、忍はその二人の顔を見比べながら、

 忍「どういうこと、ですか?」

 
 友江「実はね、横浜で、私の下にいた人なの、福岡の出身でね、家が向こうだから帰りたかったんですって、ちょうど良かったのよ」
 由利「じゃ八方円満ですね」
 友江「そう、みんな上手く行ったの」

 友江、本社に来る前は、横浜営業所に勤めていたのだ。

 忍「あのー、お言葉ですが、私はどうすればいいんでしょうか?」
 榎本「先輩、何か、一人で空回りしてるみたいですね」
 友江「そうね、さっきのスピーチ、颯爽としててなかなか良かったわよ」
 忍「そりゃないですよ、それならそれと早く言ってくれればいいのに、参ったなぁ、もう」
 友江「加茂さん、いつまで遊んでるの? もう9時をとっくに回ってるのよ、デスクに戻りなさい」
 忍「はいっ!!」

 友江に言われて、小学生のように大きな声で返事をする忍であった。

 こうして転勤騒動はなんとか収まるが、その後、忍は、榎本から、ゆうべ友江がバイクで重役たちや人事部長の間を駆けずり回って、忍を本社に残してくれるよう、必死に口説き落としたのだと明かされる。

 榎本「僕も一緒だってこと、忘れないでくださいよ」
 忍「そうだったのか……」

 しかし、どうでもいいことだが、元々忍の転勤話は、藤平とのバーターだったのだから、藤平の本社復帰がおじゃんになった時点で、そちらも無効になってると思うのだが?

 それはさておき、ここ数日の鬱屈した気分から解放され、久しぶりに晴れ晴れした気分で帰宅した忍。

 相変わらず荻田夫妻は不在で、誰も出迎えるものはない。

 二階に上がって大声で帰宅を告げると、ひょこっと綾乃たちの部屋から光政が顔を出す。

 光政「いるよ、こっちに」
 忍「いるならいるで、お帰りなさいぐらい言ったらどうだよ。全くお前たちは躾と言うものが……」

 忍がぶつぶつ言いながら廊下伝いに綾乃たちの部屋に行くと、綾乃と渚が大きな風呂敷包みを前にしてお通夜のように沈んでいた。

 
 忍「あれ、何してんだ?」
 綾乃「見りゃお分かりになるでしょ」
 忍「拾い魔が急に荷造り魔になったって訳だ」
 渚「そうじゃないよ、おっちゃんが九州へ行っちゃったらさ、私たちだってここにいる訳行かないじゃない、だから出てくんだよ」
 光政「お母ちゃんたちが帰るまで待ってくれって頼んだんだけどさぁ……」

 光政も、渚たちと別れるのがつらいのでいかにも寂しそうであった。

 しかし、前回も書いたように、二人が自ら荷物をまとめて下宿を出て行くという展開が二話連続で続くのは、さすがにマンネリ気味で、このエピソードの配列はちょっと変えた方が良かったと思う。

 と、忍、いかにも心地よげに呵呵大笑をはじめ、笑いながら自分の部屋の襖を開ける。

 
 綾乃「なぁにがおかしいんでございますの、童話作家の癖にお別れが楽しいんでございますか?」

 トコトコついてきた綾乃がなじるように聞くが、忍はいかにも楽しそうに、

 忍「そうじゃねえよ、バサマ、渚、光政、ようく聞け、俺はな……何処にも行かない」
 綾乃「へっ」
 渚「九州は?」
 忍「行かなくて良いことになった」

 それを聞いた途端、綾乃が嬉しそうに笑い出し、渚も忍に飛びついてその頬にキスする。

 綾乃「良かった!!」
 渚「良かった、良かった」
 忍「何が良かっただ、行け行けっつったくせにぃ」
 渚「そうじゃないよぉ、おっちゃんがさ、騒ぐ(?)から無理してそう言ってんだよ、ほんとはね、ずーっとずーっと一緒にいたかった……」

 渚、感極まって忍に抱きつき、綾乃も忍の胸に顔をうずめる。

 忍「よーし、一緒にいさせてやろう、ただしこれだけは言っとくぞ、いいな、バサマ、俺の脚を引っぱるようなことするなよ」
 綾乃「うん、引っぱりませんわ」
 忍「ようし、それからな、俺が有名な作家になるためには全面的に応援する、いいな?」
 渚「一生懸命応援するよ、ねっ?」

 こうして「家族」がバラバラになることは未然に防がれてめでたし、めでたしとなるのだが、ひとつだけちょっと引っ掛かるのは、渚がしつこく九州行きを勧めたのは、忍のことだけじゃなくて、藤平一家と言うより、悠子への同情も混じっていたと思われるのに、ここではその点について一切気にしていないのは、いささか片手落ちのような気もするのである。
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