第23話「天井裏を歩く悪魔」(1980年7月5日)
冒頭、コケラーと言うベーダー怪人が、2階建ての安アパートの、ひときわ不潔で汚らしく、まるでゴミ溜めのようになっている一室に上がり込む。
部屋の主は不在で、手製のイラストがベタベタと壁に貼ってあった。
コケラー「全然掃除してないぞ、二ヶ月は洗濯してないな、歯も磨いてないし、風呂にも10日は入ってない、実に不潔だ。こういう人間を探していたんだ」

青梅「へったくそだなぁ、これがあきらちゃん?」
一方、青梅が、あきらのピカソ風の似顔絵を見ながら二人で何処かへ向かっている。
青梅の批評を聞いたあきらは我が意を得たとばかり、

あきら「でしょー、私をどうしても描かせてくれって言うの、あんまりしつこいから描かせて上げたのよ」
青梅「ああ、それで」
あきら「向こうから頼んだくせに、お金を払えって言うのよ」
青梅「とんでもない奴だなぁ」
あきらはちょっとしたトラブルに巻き込まれていて、その処理を下僕(註・下僕じゃありませんっ!!)の青梅に頼んだらしい。
あきらはいたく立腹しているが、

9話で描いてもらった絵に比べれば、まだマシではないかと……
あきらがとある公園に青梅を案内すると、まるっきり浮浪者のような恰好をした男が滑り台のそばに座り込んで、スケッチブックに何やら描いている。
青梅は指ポキポキさせながらその男のところに行き、「おい」と声を掛ける。

若松「……」

青梅「ああ……」
若松「お」
青梅「若松!!」
若松「おおお青梅!!」
ところが、振り向いたその顔を見た青梅は目を真ん丸にして驚き、相手もそれが青梅だと気付くと嬉しそうに叫び、二人は抱き合って再会を喜ぶのだった。
そう、相手は偶然にも、青梅の旧友だったのだ。
演じるのは、「ジャッカー電撃隊」の姫玉三郎こと、林家源平さん。
次のシーンでは、青梅が若松をアスレチッククラブの溜まり場に連れて来ている。

青梅「ほんとにいいのか、100円で」
若松「うん、どうもありがとう」
青梅はあきらの代わりに絵の代金を払うと、
青梅「安いもんだぜ、100円で似顔絵を描いてもらえるなんて」

青梅「上手い、実に上手い」
それを描いたのが友人だと分かると、手の平返しであの絵を絶賛し、額に入れて壁に飾る。
赤城たちはしらけきった顔をしていたが、舞い上がっている青梅の目には入らず、

青梅「あきらちゃん、綺麗だぜー」
あきらのぷにぷにのほっぺたを両手で触る。

あきら「……」
なお、今回チェックしてて気付いたが、あきらが不服そうにほっぺを膨らませているのが可愛いのである!!
青梅「さあ、みんな席について、今日は俺が思いっきりおごっちゃうもんね、さーさーさー」
青梅の威勢の良い掛け声に、赤城たちも「やれやれ」と言う顔でソファに座る。
青梅「みんなこれ食べてね、カツ丼、ジュース、あんぱん……」
当然だが、若松の体からは異臭が漂っているのだろう、黄山は顔をしかめて「その前にシャワーでも浴びたら」と勧めるが、
青梅「ダメだよ、カツ丼が冷えちまう……乾杯を祝して再会」
青梅は言下に却下すると、強引に乾杯の音頭を取り、みんなも仕方なくジュースの入ったグラスを手に持つ。
ところが、肝心の若松の反応が芳しくない。
若松「俺は帰るよ」
そう言って、ご馳走には手もつけずに立ち上がる。
青梅「どうしたんだよ、お前、腹減ってんだろ」
若松「お前みたいな堕落者の同情なんか欲しくないよ」
青梅「堕落?」
若松「俺とお前の約束を忘れたのか、俺は漫画家に、お前はサーカスのスターになると誓い合ったじゃないか。どんなに貧乏しても女なんかに目もくれず、頑張ろうと励ましあっただろ」
青梅「……」
若松「それなのにこの恰好はなんだ? サーカスは辞めて、その上、女の子なんかとデレデレしちゃって……お前を見損なったよ、共にね、貧乏してる時だったらあんぱんひとつでも喜んでもらうよ。しかし今のお前なんかからは何ももらいたくなんかないよ」
若松はそう言うと、さっき貰った100円を青梅に返し、憤然と出て行く。
見かけは浮浪者みたいだが、なかなか気骨のある青年であった。
ただ、このシーンの青梅を見て、「女の子とデレデレ」と表現するのは、いささか的外れなような気もする。
せっかくの親切を無駄にさせられた青梅だったが、むしろ嬉しそうに、
青梅「はは、あいつは昔のままだ、ちっとも変わっていない」
どっかとソファに腰を落とすと、

青梅「あきらちゃん」
あきら「……」
青梅「あいつのためにまたモデルになってやってくれないか、お願いだ」
真顔になって、あきらに頼む。
ちなみに何の説明もないのだが、二人は同郷の幼馴染で、互いに青雲の志を抱いて上京したと思われる。
だが、アパートに戻った若松を待ち構えていたコケラーが襲い、特殊な細菌に感染させる。
そう、冒頭に出て来た地獄のような部屋の主は、案の定、若松だったのである。
と、いくらなんでも早過ぎるが、そこへあきらが訪ねて来る。
コケラーは慌てて押入れに隠れる。
戦隊シリーズでもっとも性格が良いヒロインと(管理人に)言われるあきらは、部屋に充満する汚臭にもイヤな顔ひとつ見せず、もったいなくも、その美しいおみあしを、ヘドロの沼のような床にためらうことなく踏み入れる。

あきら「お邪魔します……どうしたんですか?」
と、若松がせんべい布団の上でぐったりしているので慌てて駆け寄り、その体を揺さぶる。

あきら「若松さん……」
若松「……」
若松が目を開けたのであきらはホッとするが、若松は異様な目付きであきらを見ると、左手を伸ばして、あきらの白い腕を掴む。
うう、この見えそで見えない絶妙のアングルが溜まりません!!
下手に見えてしまうよりエロいかもしれない。

と、若松に掴まれたところが、みるみるうちに緑色のコケのようなものに覆われる。
あきら「キャーッ!!」
これにはマザー・テレサのように優しいあきらも「なんじゃこりゃあああーっ!!」状態となる。
その悲鳴は、アパートの近くにいた青梅の耳にも届く。
青梅は、あきらをアパートまで連れてきた帰りだったのだろう。
しかし、いくら喧嘩したあとで会いにくいとは言え、○○○○じゃないんだから、若い女性を独身男性の部屋にひとりで行かせるいうのは問題なのではあるまいか?

あきら「……」
ゾンビのようにふらふらと向かってくる若松に、険しい顔で対峙しているあきら。
これぞまさに、「掃き溜めに鶴」である。
青梅が飛び込んできて、
青梅「若松、何の真似だ?」
若松「うわーっ!!」
若松の肩を掴んで問い質すが、すでに正気を失っている若松は、野獣のような唸り声を上げて青梅を投げ飛ばす。
そして、壁に向かって体当たりすると、壁を人型に刳り貫いて部屋から飛び出し、路上に停まっていた軽トラの荷台に飛び乗る。
それに続いてコケラーも飛び移るが、正直、このシーン、何がどうなってるのか良く分からない。
ともあれ、コケラーは荷台に若松を乗せて走り去る。
一見、意味不明のベーダーの作戦であったが、
ヘドラー「人類ベーダー奴隷化実験のモルモット作りは順調に進んでおります」
ヘドリアン「ほおーっ、近頃の人間どもは
中流階級の生活をしておると聞いたが、あっはっはっはっ、そんなにモルモットにふさわしい人間がおるのか」
ヘドラー「いつの世にも不健康で不潔な生活を余儀なくさせられているものはいるものです」
ヘドリアン「ベーダーの未来にとって頼もしいことじゃ」
続くヘドラーの台詞で、ベーダーにしては長期的な視野に立った、なかなか生産的なプロジェクトであることが分かる。
それにしても、時代を感じさせるやりとりだなぁ。
ヤングは知らないだろうが、昔、「一億総中流」と言う言葉があったのだよ。
一方、嫁入り前の大事な体を浮浪者のような男に(性的な意味ではなく)汚されて、あきらはカンカンであった。

あきら「いくらなんでもひどいわ、私に恨みがあるって言うのかしら」
青梅「おい、ちょっと待ってくれ、なんかの間違いだ」
青梅は必死になって友達を庇うが、このやりとり、なんか変だよね。
映像を見ると、青梅たちはコケラーの姿をはっきりと見てないまでも、ベーダー怪人が関与していることは分かっているように思えるからである。
つーか、ただの人間に、壁を突き破るなんてことが出来る訳がないのだから、その時点でおかしいと気付くべきだろう。
赤城「しかし、生活が荒れると心まで荒むというからな」
青梅「違う、そんなんじゃない!!」
一般論を当て嵌めようとする赤城に、青梅が激しく反発する。
青梅「あいつはボロは着てても心は錦、そう言う心意気の男なんだ」
あきら「それじゃあ、何故?」
青梅「う……」
青梅が言葉に詰まっていると、チーコと友子巡査が足音高く階段を降りてくる。

千恵子「怪しい男を見なかった?」
緑川「どうしたんだ、チーコ」
千恵子「このところ、妙な事件が立て続けに起こってるのよ」
千恵子の台詞に続けて、顔にあの緑色のコケのようなものをつけたむさ苦しい男たちが、狂ったように花屋の花をめちゃくちゃにしたり、道を歩いていたセレブな奥様に泥水をぶっかけたりする様子が映し出される。

友子「それでパトロールを強化するように言われて、パトロールしてたら」
千恵子「もう、失礼しちゃうのよ」
今度はその千恵子たちに同じような男が襲い掛かってきたというのだ。
ちなみにタイトスカートの二人が歩いているのを、男が両手をワシワシさせながら後ろから迫るシーンが出てくるので、てっきり、スカートをめくるとか、めくった上にパンツをずり下ろすとか、二人のおっぱいを同時に鷲掴みにするとか、そう言うのを期待した管理人であったが、その期待はあえなく裏切られる。
千恵子が、掴まれた腕に緑色のコケがついていたと気持ち悪そうに話すのを聞いた青梅は、異様な顔つきになる。
千恵子「一体本官をなんだと思ってんのかしらっ」
友子「女性の敵、草の根を分けても逮捕しましょう」
千恵子「うんっ」
青梅「……」

その後、青梅が街を歩いていると、洋品店から男が飛び出し、続いて二人の女性が大声で文句を言いながら出て来る。
二人の服はペンキでもぶちまけられたように汚れていた。

青梅「どうしたんですか」
女性「あの人がこんなに汚しちゃったのよ~」
青梅「……」
それを見て、
「若い女性がスカートの裾を持ち上げてるのって、なんかイイなぁ」と思う青梅であったが、嘘である。
管理人がそう思ったのは事実だけどね。
これでもうちょっとスカートが短ければ良いのだが、悲しいことに、猫も杓子もミニスカを履いていた奇跡のようなあの時代は、もう終わってしまったのである。
それでは聴いてください、「あの素晴らしいミニをもう一度」!!
……え、要らん? そうか……
青梅はその男を追いかけるが、男は、水門のところで何者かに撃たれて口を封じられる。
撃ったのはコケラーであった。
怪人が銃で人を殺すというのは珍しい。
青梅「やはりお前たちが背後にいたのか、何を企んでいる?」
コケラー「知れたこと、我らが狙いは地球をベーダー化すること」
青梅「なにぃ……おい、若松を何処へやった?」
昔の特撮の怪人は、基本、聞いたら教えてくれるタイプなのだが、さすがにそこまでは教えてくれず、一対一のバトルの末、結局逃げられてしまう。
だが、青梅の体には、あのコケのようなものが付着していた。
青梅はそれをデンジランドに持ち帰り、黄山に分析してもらう。

黄山「生きている、これは地球にはない細菌だ。この細菌は人間の美的感覚を鈍らせて美しいもの、綺麗なものへの憎しみを掻き立てるらしい」
青梅「そうか、若松も若者たちもこの細菌にやられたんだ。だからあきらちゃんを襲ったんだ」
千恵子たちが聞いたら喜ぶだろうな……
黄山「しかもこの細菌は人間の体温と不潔な環境でもっとも活発に作用する」
青梅「そうか、それでみんな若松のようにボロアパートで食うや食わずの生活をしているものばかりが狙われたんだ」
赤城「黄山、あの細菌をもっと研究して対策を考えてみてくれ」
一方、ベーダー城では、
ヘドリアン「おお、なんと、ベーダー星とそっくりではないか」
ヘドラー「ベーダー奴隷化実験の舞台にするため、ベーダー魔境を作ったのでございます。コケラーの作ったモルモットがどの程度耐久性があるか、労働力として役立つか、調べております」
ヘドラーが、スモッグとヘドロに満ちた特殊な空間で黙々と働いているモルモットたちの姿をモニターに映し出して、得々とヘドリアンに説明していた。
ヘドリアン「素晴らしい、もっともっとベーダー奴隷を増やすのじゃ」
その後、デンジマンはとある作戦を実行する。

赤城「何か変わったことは」
あきら「この三日間、何もないわ」
緑川「急に四畳半の生活始めても無理なんじゃないのかな」
例のボロアパートに隣接するマンションか何かの一室から、双眼鏡でボロアパートを監視しているあきらたち。
ところで、あきらの冷ややかな眼差しが、
「ああ、汚らわしい、あんな下層階級の住居を見るだけで、私のダイヤモンドみたいに綺麗な目が汚れるようだわっ!!」と言ってるように見えるのは、管理人の幻覚です。

彼らの視線の先には、若松の部屋(?)で、若松に負けないくらい汚らしい恰好をした青梅が寝転がっていた。
青梅「今や俺は東京中で一番不潔で汚い男だと思うんだけどなぁ……そろそろ出て来てもいいのになぁ」
そう、緑川は甚だ懐疑的だったが、青梅自らが囮になってコケラーをおびき出し、敵の内部に潜入しようと言う捨て身の作戦だった。
と、青梅が寝返りを打った途端、彼が乗っている畳が「どんでん」して、青梅は下の階の部屋に落とされる。
すかさず、その体にコケラーが覆い被さる。
コケラー「はいはいはいはい、出て来ました、出て来ましたよ、はい、いらっしゃいませ!!」
ふざけた口調でまくしたてるコケラー。
この爆笑必至の台詞回しは、是非実際に映像で確認して頂きたい。
今更だけど、この作品における飯塚昭三さんの貢献度はでかいよね。
それはともかく、青梅は細菌に感染させられ、仲間たちも気付かないうちに、ベーダー魔境に連れてこられる。
ヘドリアン「ほほほっ」
ヘドラー「ヘドリアン女王様、これからもっと面白い光景をご覧に入れましょう」
その顔をモニターで見る二人の様子から、最初からそれが青梅だと言うことには気付いているようなのだが……
コケラーはモルモットたちを集めると、

コケラー「いいか、向こうを見ろ、あれから先はガスが濃くて非常に危険である。だが、ベーダー魔境建設の為には入っていかねばならん、ベーダーのために働くものたちよ、誰か命を捧げる覚悟で入っていくものはおらんか?」
コケラーの問い掛けにモルモットたちは押し黙っていたが、コケラーは若松を指差して危険地帯行きを命じる。
青梅「危ない、やめるんだ、若松!!」
ふらふらと歩いていく若松を凝視していた青梅だが、無論、友を見捨てることなどできず、モルモットになったふりをやめて飛び出し、間一髪で引き止める。
コケラー「やはり俺を騙していたのか」
青梅「お前のばら撒く細菌の免疫を打っておいたのさ」
コケラー「おのれ、だが、青梅大五郎、デンジブルー、馬脚をあらわしたからには生きては返さん」
と言うのだが、コケラーだって相手が青梅と言うことは最初から知っていたのだろうから、馬脚もクソも、最初からモルモットにしようなどとはせず、捕まえたらとっとと殺せば良かったのである。
知っていたのなら、最悪、デンジリングを没収しておかないと……
なので、ここは、コケラーもヘドリアンたちも、それが青梅だとは知らなかった……と言う方が分かりやすかったかもしれない。
どっちでも、結果は同じことだからね。
青梅はデンジブルーに変身して獅子奮迅の活躍を見せるが、さすがにひとりではベーダー怪人には太刀打ちできない。
仲間に救援を求めようとするが、

ブルー「こちらデンジブルー、応答せよ!! ……駄目か」
コケラー「ふふふふ、無駄なこと、妨害電波を出しているんだ」
ブルーの発した信号は、コケラーが持つ小型のジャミング装置に弾かれてしまう。
が、ブルーがそのメカをコケラーの手から蹴り飛ばすと、電波が届き、たちまちデンジタイガーが飛んでくる。
ここまで来れば特に説明の必要はない。
若松たちをデンジシャワーで治し、脱出させてから、ラス殺陣&巨大ロボバトルをこなして事件解決。
今回のベーダーの作戦、途中までは実に上手く行っていたのに、相手が青梅だと知りつつ拉致したのが明白な敗因であった。
エピローグ、戦いの中で、青梅がデンジブルーとして地球の平和を守っていると知った若松は、青梅に謝罪し、仲直りする。
若松「俺、お前のこと誤解してたよ、すまん」
青梅「おお、いいってことよ、俺の分まで頑張ってくれ」
と、紙袋を持ったあきらが進み出て、

あきら「はい、召し上がって」
紙袋から菓子パンを取り出して若松にあげる。

若松「あ、どうも、ありがとう」
若松も、今度はその厚意をありがたく受けるのだった。
若松、どうやらあきらに惚れちゃったらしく、貰ったパンを抱き締めていつまでもニヤニヤしている。

若松「いやぁ、嬉しいなぁ」
青梅「おい、若松、どうしたの?」
青梅に聞かれて、若松は我に返ったように、
若松「うん、うう……俺、女なんかに目もくれず漫画家目指して頑張るぞ」
青梅「その意気だ」
学生時代に戻ったように、肩を組んで歌を歌って歩き出す二人。

そんな二人の後ろ姿を見送るあきら。
ああ、かわええ……
以上、ストーリーは特にどうと言うことはないのだが、あきらの優しさと美しさを改めて確認できるのが嬉しいエピソードであった。
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