第8話「闘え一也!死のドグマ裁判」(1980年12月5日)
冒頭、ひとりのサラリーマン風の中年男性が、両側から戦闘員に腕を取られ、海岸沿いの岩場に口を開けた小さな洞窟の中に連れて行かれる。

洞窟の奥には、岩を削り出して作った裁判所のような部屋がしつらえてあり、ナチス風の制服を着た戦闘員や、黒いトンガリ頭巾を被った裁判官たちが所定の位置について、被告人の到着を待っていた。
テロップにあるとおり、ここはドグマ王国の法廷なのである。
裁判長「これより、我がドグマ王国の裁判を開始する。被告人は前へ」

海野「これは何の真似だ、お前たちは一体誰なんだ」
被告人・海野広吉を演じるのは、洋画の吹き替えでお馴染み、坂口芳貞さん。
裁判長「静粛に!! 検事、被告の容疑を述べたまえ」

検事「はーっ、被告・海野広吉は、我がドグマ王国の基地建設予定地に許可も受けずに勝手にマイホームを新築し、平然と住もうとしていたのであります。あれをご覧下さい。これがその証拠です」
検事の正面にあるモニターに、海野の新居が映し出される。
その途端、海野の背後にいる戦闘員たちが「死刑だ、殺せ殺せ!!」と口々に騒ぎ立てる。
海野「なにを言うんだ、あの土地は不動産会社から正式に買ったんだ」
裁判長「静かに、勝手な発言は許さん、ここは神聖な法廷だぞ」
海野「……」
カフカの「審判」の主人公よろしく、不条理な悪夢の世界に迷い込んでしまったような戸惑いの色を浮かべる海野であった。
ちなみに裁判長が「静かに」と言いながら、でかい金槌で机の上を叩くのだが、アメリカの裁判で見られるような木を叩く乾いた音ではなく、ボクシングのゴングでも叩いてるようなカーンカーンと言う甲高い音が出るのが、若干違和感がある。
ついで、郊外の造成地に建てられたその海野の新居の様子にカメラが飛ぶ。
新居には客が来ていて、息子の勝と一緒に庭仕事をしていたが、

秋江「ハルミさん、素敵なお祝いどうもありがとう。なんて言うお花?」
ハルミ「あれですか、カルミアって言って、初夏になると薄いピンク色の金平糖のような花が咲くんです」
その客と言うのが、ハルミ以下、いつものメンバーと言うのが、前回に続いて、いくらなんでも偶然の度が過ぎると言うものだろう。
客間には谷と一也の姿もあった。

谷「いや、都心から1時間、これだけの庭が持てりゃ大したもんだ」
一也「いつもエンジンの音に囲まれて暮らしてるマスターには夢のまた夢ですね」
谷「まったくだ」
秋江「思い切って建てたのはいいけど、これからがローンや何かで思い遣られるわ」
谷「いやいや、奥さん、その点、海野なら大丈夫、あいつは学生時代から名うての頑張り屋だったからローンの一つや二つ」
秋江「うふふふふ」
とても「仮面ライダー」とは思えない、ほとんどホームドラマのような大人の会話を交わす谷たち。
と、突然アラーム音が聞こえ、飼い犬がキャンキャン吠え立てる。

チョロ「なんですか、今、門のところを通ったら、突然チャイムが鳴り出しちゃって」
庭から、一升瓶を抱えたチョロが顔を出し、怪訝な顔で尋ねる。
秋江「ごめんなさい、主人が作ったレザー光線で鳴る防犯ベルなの、スイッチ切り忘れちゃって……」
秋江の言葉に膝を叩くと、
谷「海野はな、日本一の鍵職人なんだ」
一也「そうなんですか、
それと何の関係があるんですか?」
谷「……」
途中から嘘だが、ほんと、何の関係があるんだろう?
谷「海野は防犯装置を作る会社に勤めてるんだ」
とかなら分かるんだけどね。
再びゴングの音が鳴り、カメラは法廷の様子に切り替わる。
検事の熱弁はまだ続いていた。
検事「以上のことからも、被告人が我が聖なるドグマ王国の土地を無断で使用したことは明白な事実であり、これだけでも死刑に値する犯罪なのであります。しかもさらにあの男はあの土地の中央に置かれていた我がドグマ王国の標識たる赤い石を壊し、その上に家を建てたのだ。私はこの罪を恐れぬ犯罪者に最も残酷で苦しい方法の死刑を求刑するものであります」
検事の弁論は終わるが、弁護士の反論はされず……と言うより、最初から弁護士など存在しないので、
裁判長「この男は無罪か、有罪か」
陪審員「有罪だ、死刑だ!!」
どうやら海野の後ろにいたのはギャラリーではなく陪審員だったようで、そのテキトーな評決によって、あっさり有罪となってしまう。
裁判長「有罪と認め、被告をドグマ時間3時、絞首刑に処す」
海野「おーれが何をした、なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ?」
当然、納得できない海野は大声で喚くが、

裁判長「勝手な発言をしたな、法廷侮辱罪を追加し、被告の刑を首切りの刑に変更する」
海野「めちゃくちゃだ、こんな裁判、インチキだ。ここは日本だぞ、こんなことあっていいのか?」
裁判長「黙れ、ここはドグマ王国だぞ、またまた追加する、不敬罪と叛乱教唆罪により、家族もろとも火炙りの刑だ」
まさに口は災いの元、文句を言うたびに倍々ゲームで罪が重くなり、遂には一家皆殺しの刑にされてしまう。
この辺、
「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」と言う、チャップリンの言葉通り、本人にとってはオオゴトでも、視聴者からするとほとんどギャグの世界に突入しているようなドライブ感がある。
無論、この一連の描写は、ファシズム体制や軍事独裁政権においては、個人の人権や尊厳がいかにたやすく踏み躙られるかと言う恐ろしさ、不条理さを見事にカリカチュアライズしたものであり、「仮面ライダー」シリーズを通して、ひときわ印象的なシーンではあるのだが、ちびっ子たちには少々難解だったのではないかと思われる。
抗議も空しく、海野は土牢に押し込められるが、谷が言ったように、海野はそれくらいで諦めてしまうようなヤワなオヤジではなかった。
日本一と言う鍵職人の腕を活かして、なんとか脱獄を果たす。
一方、海野家では、テーブルに並べられたご馳走を前に、一也たちがお腹を空かして主人の帰りを待っていた。
つまみ食いしようとしたチョロの手を良が叩く。

秋江「すいません、みなさん、どうぞお先に食べ始めて下さい」
谷「奥さん、ご心配なく」
秋江「それにしても、どうしたのかしら、あの人……」
ハルミ「お店のほうに電話してみましょうか」
秋江「夕方から三度もして見たんですけど」
谷「出ないんですか」
秋江「ええ」
一也「それはおかしいな」
ここに来て、漸く一也たちの表情が険しくなる。
ちなみに店と言うからには、海野はサラリーマンではなく、個人で錠前店を経営しているのだろう。さっきの警報装置も、そこで取り扱っている商品のひとつなのかもしれない。
チョロ「まさか、事故にでも……」
ハルミ「……」
チョロ「いっててててっ!!」
口を滑らせかけたチョロの足を、ハルミが思いっきり踏む。
そこで玄関のチャイムが鳴ったので、やっと海野が帰ってきたのかとホッとする面々だったが、無論、それは海野ではなく、ドグマからの命令書であった。

秋江「これが玄関に……」
一也「死神岬に出頭せよ、奥さんも勝君も一緒に処刑?」
この葉書の格式ばった書面も、なんか「赤紙」を連想させて、ちょっと不気味である。
谷「12月6日……明日だ」
秋江「ドグマってなんですの? 主人は誰に誘拐されたんですっ?」
一也「落ち着いてください、谷さん、僕は死神岬へ行ってみます。奥さんたちはどこか安全な場所に行ってもらったほうがいいと思うんです」
谷「西湖のところにいいところがある」
と言う訳で、取るものも取りあえず、谷は二人を西湖の隠れ家に連れて行く。
さて、ドグマの本部では、

親衛隊「メガール将軍、どうやら囚人が脱走したようだな」
メガール「申し訳ない、しかし、たかが人間一匹、ドグマ警察の厳しい網を突破できる訳がない」
親衛隊「ええい、言い訳は許さん!!」
メガール(いや、言い訳はしてないんですけど……) 微妙に噛み合ってない会話。
テラーマクロがあくまで穏やかな口調で割って入る。
テラーマクロ「良いではないか、ただ、大事なのは逃亡の前例を作らぬことだなぁ、のう、メガール将軍」
メガール「ははーっ!!」
メガール、畏まって拝命すると、後ろに控えていた怪人に向き直り、
メガール「スネークコブラン、必ず脱走者を捕まえるのだ!!」
スネークコブラン「ドグマ警察の名誉に懸けましても」
深夜になってから、スーパー1に変身済みの一也が死神岬に到着する。
その一帯にはドグマ警察に属する戦闘員たちがうようよいて、海野の捜索を行っていた。
やがて、プレハブ小屋に潜んでいた海野が戦闘員に発見され、連行されそうになるが、スーパー1が駆けつけ、秋江たちの所在を告げてその場から逃がす。
翌朝になって、漸く秋江たちを乗せた谷のジープが、西湖の近くの農家までやってくる。
何の説明もないが、谷がドグマとの戦いに備えて用意している、緊急時の隠れ家なのだろう。
谷、二人に屋根裏に隠れているよう言いつけると、ひとりで近くの店まで食料を仕入れに行く。

店主「全部で3600円ですな」
谷「2000円でおつり頂戴」
店主「無理です」
じゃなくて、
谷「4000円でおつり頂戴」
店主「はいはい、じゃちょっとお待ちを」
ちなみに今だったら、さらに288円の税金を取られるわけである。
物が売れなくなる筈である。
と、ちょうどその時店に助けを求めに入ってきたのが海野であった。
海野「頼む、水をくれ」
谷「海野、海野じゃないか」
海野「谷!! 勝は、女房は?」
谷「大丈夫、この上の農家に……」
言いかけて、すぐ後ろに店主が立っているのに気づき、
谷「なんだ」
店主「え、いえ、おつりを」
谷「ああ、ありがとう」
谷、おつりを受け取ると、買い物袋を抱えて海野と一緒に農家に向かう。

それを怪しい目付きで見送っていた店主、

自分の顔の皮を剥ぐと、

それは精巧に作られたマスクで、その正体は戦闘員だったことが分かる。
戦闘員が人間に化けていたというのは良くあるパターンだが、こんなに丁寧な変装解除の描写は珍しい。
ま、別にここで変装を解く必要はないんだけどね!!
二人が農家に着くと、既に秋江たちはスネークコブランの手中に落ちていた。

スネークコブラン「これを見ろ!! 愚か者め、ドグマ警察から逃げられると思っているのか。連れて行け」
結局三人は連行されるが、スネークコブランは何故か谷を殺さず、殴って気絶させるだけで放置してしまう。
ドグマがまだスーパー1のことを甘く見ている証拠で、この場でさっさと谷を殺していれば、一也の物心両面にかなりのダメージを与えることができただろうに。
ちなみにこの農家、「スカイライダー」の45話「蛇女が筑波洋を呪う!」にも使われている場所だが、どちらも蛇系の怪人なのが面白い。
で、今回の怖いところは、冗談みたいな裁判で決められた量刑がきっちり守られるところで、

スネークコブランは三人を死神岬に連れて行くと、下に薪や柴を積み上げた柱に縛り付け、ガチの火炙りの刑で殺そうとする。
海野「頼む、俺はどうなってもいい、家族だけは助けてくれ、頼む!!」
海野はせめて家族だけでもと泣訴するが、
スネークコブラン「ドグマに逆らったものは一族の死をもって償うのが掟だぁーっ!!」
海野「助けてくれーっ、頼む、助けてくれーっ!!」
スネークコブラン「ドグマ時間3時に点火する、そのときが楽しみだ。ふふはは、うわーっはっはっはっはっ」
海「そんな無茶苦茶な、助けてくれ!!」
秋江「助けてーっ!!」
海野たちの死に物狂いの絶叫を心地よげに聞きながら、処刑の時間が来るのを待つスネークコブランであった。
「悪の組織」と言うものは、何故か時間に厳格なのである。

スーパー1もあらわれないまま、ドグマ時間3時となり、容赦なく三人の足元に火がつけられる。
スネークコブラン「あーっははははっ、泣け、喚け、叫べ、苦しみぬいて死んでしまえ!! うわーっはっはっはっ!!」
特撮において、無辜の市民が「悪の組織」に殺されそうになると言うのは定番のストーリーだが、今回ほど理不尽且つ不条理な処刑は見たことがない。
なにしろ「ワシらの秘密基地建設予定地に勝手に家建てたからコロす」って、ほとんど子供の発想、あるいは、キチガイの発想だもんね。

スネークコブラン「あーっはっはっはっはっ、わーっはっはっは」
また、子役もいるのに、しっかり火をつけているのも凄い。

だが、スネークコブランの高笑いは長くは続かず、横合いから冷凍ガスが噴射され、あっという間に火を消してしまう。
スネークコブラン「これは一体?」
驚いて周囲を見回すと、背後の丘の上に、スーパー1が立っていた。

ライダー「冷熱ハンドの威力、見たか」
スネークコブラン「貴様、いつの間に」
冷熱ハンドを掲げて叫ぶスーパー1であったが、

冷凍ガスとは別に、明らかに誰かが水をぶっ掛けて消していたことには、気付かないふりをしてあげて欲しいのデス。
この後、無駄に長いラス殺陣となり、スーパー1がスネークコブランを倒し、事件は解決する。
以上、前半のドグマ裁判の描写はめちゃくちゃ面白いのだが、その後のストーリーにひねりや意外性がないのが惜しい力作であった。
サブタイトルから、一也自身もドグマに捕まり、理不尽な裁判にかけられる……なんていうシーンを期待したのだが。
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