第38話「遥かなる故郷」(1980年6月29日)
冒頭、線路下の電話ボックスに駆け込んだ若い女性が、110番して助けを求めるが、名前を告げる間もなく数発の銃弾を浴びて斃れる。
直ちに大門軍団の出動となるが、犯人の手掛かりはおろか、被害者の身元すら分からない。
ジンと組んで聞き込みをしていた源田は、近くの小料理屋から「人殺し」と言う女の叫び声を聞きつけ、調べに行くが、

千恵「くやしかー、人殺しが大手振って街ん中歩いとっとよーっ、くやしか、もうーっ!!」
それは、ぐでんぐでんに酔っ払った若い女性が、八つ当たり気味に心の鬱屈を撒き散らしていると言う、目下の事件とは無関係の出来事だった。
否、その時は、無関係だと思われたのだが……
女将「ちーちゃん、いい加減にしなさい、お客さんだよ」
千恵「女将さん、もう一杯だけ」
女将「何言ってんだよ、店のモンがお客さんの前でそんなに酔っ払ってちゃ、商売になんないじゃないか、さ、奥へ行って、酔い覚ましといで!!」
どうやらその女性、客ではなく店の従業員らしかった。
女将に怒鳴られた千恵、立ち上がろうとするが、足元がふらつき、源田に支えられるようにして近くの席に座り込む。
今回のヒロイン千恵を演じるのは、竹井みどりさん。
「ウルトラマン80」にゲスト出演する一ヶ月くらい前である。

源田「冗談にしちゃ、物騒なこというじゃないか、それに若い身空でそんなに飲んじゃあ体に毒だぞ」
千恵「あんた、親切じゃねー」
源田「おいも九州出身たい。大分県○○郡○○町、あんたは?」
千恵「私、久住」
源田「おお、すぐ近くじゃ、久住高原か、あそこはいいところじゃけん」
相手が同郷の人間だと知って、たちまち上機嫌になる源田。
千恵「心配してくれるのはありがたいんだけどね、私、飲んでないときが狂いそうなんだよね」
源田「困ったことがあったら何でも言ってくれ。相談に乗るから……西部署の源田って言えば分かる」

千恵「……」
源田の言葉に、急に静かになってまじまじとそのいかつい顔を見詰める千恵。
源田「どうした」
千恵「あんた、刑事さん?」
源田「ああ」
千恵「……」
源田「いつでも電話してくれ」
源田は、千恵の食い入るような視線に戸惑ったように立ち上がり、ジンに目で促す。
ジン「じゃ、女将さん、何か不審なものに気がついたら電話して下さい」
女将「はい、どうもご苦労様です」
翌日、依然として被害者の身元が分からず、大門たちは途方に暮れていた。
唯一の手掛かりは、被害者がペー中、つまり、ヘロインの中毒者だと言うことで、刑事たちはその線から洗うことにする。
そこへあの千恵から源田に電話が掛かってきて、耳寄りな情報を伝える。
昨夜の事件の犯人を目撃し、その名前も知っているというのだ。
源田たちは千恵の情報を元に、パチンコ店の従業員の星野と言う男を連行し、取調べを行う。

リュウ「ハジキは何処にやった」
星野「知らないですよ、そんなもの持ってないって、何度も言ってるでしょう」
源田「嘘をつくなよ、犯行現場であんたを見たって人がいるんだよ」
しかし、真偽のわからない通報だけで、ここまで乱暴な取調べをするだろうか?
いつものように容疑者を殴る蹴るして口を割らそうとして、相手が恐怖のあまり自白していたら、たちまち冤罪の一丁上がりである。
だが、その後、星野にはしっかりしたアリバイがあることが分かり、千恵の通報がガセネタだったと判明する。
リキ「星野の奴、えらく腹立ててゲンを訴えてやるって息巻いてるんですよ」
リキが、まるで他人事のように言うのだが、犯人扱いして取り調べた点では源田と同じなんだから、あまりに無責任な態度と言えよう。
もっとも、それくらいでいちいち訴えられては、西部署はとっくの昔に潰れているので、この話はそれっきり有耶無耶にされる。
源田は、当然、千恵のところに怒鳴り込む。

源田「なんだってデタラメ言ったんだ?」
千恵「ごめんなさい」
源田「警察をからかうのもいい加減にしろ」
千恵「からかった訳じゃないわ」
源田「じゃあ何故嘘言ったんだ」
千恵「刑事さんを試したのよ」
源田「試したぁ?」
千恵「一生懸命仕事をするかどうか、それが知りたかったの」
源田「生意気言うな!! 何でそんなことを知る必要があるんだ?」
千恵「お兄ちゃんを助けてもらいたいの!!」
源田「……」
千恵「でもダメね、刑事さん怒ってばっかりいるんだもん」
千恵、不貞腐れたように言うと、さっさと店の奥へ引っ込んでしまう。
源田「一体こりゃどういうことなんすか」
訳が分からない源田は、助けを求めるように女将に問い質す。

女将「千恵ちゃんの兄さん、死刑囚なんですよ。あの子は無実を信じててね……警察に何度も調べ直してくれって頼むんだけど、この頃じゃ誰も相手にしてくれなくてね。時々警察を人殺し呼ばわりして昨夜みたいに荒れるんですよ」
女将を演じるのは、「気まぐれ天使」でプリンセス下着のコワモテ専務を演じていた若松和子さん。
源田「どんな事件なんです」
女将「5年前に東部署管内で起きた強盗殺人事件ですよ」
源田はその足で東部署を訪ね、昔の捜査資料を閲覧させてもらう。

西山「5年前の強盗殺人事件を担当した西山だが、あんたも前川千恵に騙されて来たのかね」
源田「騙されて?」
西山「そう、時々うちの若いモンも口車に乗せられてコイツを読みたがるんだよ。あの女嘘つきだ、悪いことは言わん、時間の無駄になるだけだ」
源田「……」
おためごかしに源田の邪魔をする西山を演じるのは、part2の静岡ロケ編で、自分たちの刑事部屋を大門たちにのっとられて泣きそうになっていた井上博一さん。
西山「既に判決も出た5年前の事件だ。それを他の署のものが調べてると聞いちゃ私としても黙ってられなくてね」
源田「すいません、ちょっと引っ掛かることがあったモンすから」
西山「あの強盗殺人は間違いなく前川信次がやったんだ。我々の捜査に誤りはない。前川って奴は、札付きのチンピラだった。窃盗、恐喝の常習犯でね……」
ムキになって断言する西山の台詞にあわせ、犯行の様子が描かれる。
西山「犯行は冷酷非情、あんなむごたらしい現状は初めてだった」
西山は押し入った民家で、夫婦を殺し、

さらに、騒ぎに驚いて出て来た幼い娘も、

容赦なく撃ち殺すという鬼畜ぶりを見せ付ける。
実際に殺される映像こそないものの、「西部警察」で子供の命が奪われるというのは滅多にないことである。
その上で、源田は改めて千恵の言い分を聞く。

千恵「お兄ちゃんはそんな酷いことのできる人じゃありませんっ!! お兄ちゃんが当時、仕事をしないでぶらぶらしていたのは事実です、でも人殺しなんて……子供まで殺すなんてそんなこと絶対にしてません」
源田「じゃけんどなぁ、前川信次の指紋が現場に残されちょった凶器の拳銃から検出されちょる、おまけに彼のアパートから被害者の血のついた1万円札が3枚見つかった、まあ、これだけ証拠が揃っちゃ、なんぼ犯人じゃねえと言われても信用するわけにはいかんのじゃ」
千恵「……」
紋切り型の見解を口にする源田を、裏切られたような顔で睨む千恵。
源田「じゃあな」
千恵「バカヤロウ!!」
源田「……」
歩き出した源田の広い背中に、千恵の罵声が飛ぶ。
千恵「何にも知らんくせに、えらそうなこと言うな!!」
源田「……」
千恵は相手の反応も待たずに、背を向けて走り去る。
しかし、断片的なデータを並べただけでも、この事件の状況にはおかしなところが多過ぎる。
まず、強盗犯人が、わざわざ拳銃をその場に残して行くだろうかと言う疑問。
しかも、源田の口ぶりでは指紋はその拳銃にしか残っていなかったらしいが、だったら現場にも指紋が残ってないとおかしいし、仮に犯人が犯行後に拭き去ったとしたら、そんな周到な犯人が拳銃を「うっかり」置き忘れるだろうかと言うことになる。
もし前川が犯人だったら、自分が前科者で、指紋を残せばすぐバレると承知していたと思われるのに、わざわざ拳銃に
だけ指紋を残していたと言うのも、ちょっと考えればありえない話だと分かりそうなものである。
また、奪った金の一部がアパートで見付かった件についても、だったらそれ以外の金は何処に行ったんだ? と言うことになり、東部署がその辺を疑念に思わなかったというのがこれまた信じがたい杜撰さである。
要するに、この事件に当たった刑事の捜査レベルは、時代劇で、殺害現場に留吉とネームの入ったノミが落ちていたから、留吉が犯人に違いないと思い込む同心と似たり寄ったりだったということである。
源田は署に戻ると、大門に単独行動を詫びてから、

源田「最初は兄貴を助けるためにデタラメ言ってるんだと思ったんです。しかし……団長、もう一度、東部署管轄の事件関係者当たらせて下さい。お願いします」
大門「うむ」
千恵の熱意にほだされたのか、再捜査の許可を求めるのだった。
正直、殺人事件の捜査の真っ只中だと言うのに、そんな酔狂を許すというのはありえないのだが、ここで大門が「だ~めっ」と言うと話が成立しなくなるので、大門はあっさりOKする。
一方、リキたちは、売人やペー中を虱潰しに当たり、遂に被害者が秋谷よしえだと突き止める。
よしえはバーのホステスだったが、完全なペー中で交友関係もほとんどなく、捜査はなかなか進展しない。
そんな折、千恵が源田に面会を求めに来る。
ちなみにその直前、捜査から戻って来た源田は「どう調べてみても(信次は)クロなんです」と、東部署のボンクラと全く同じ結論を下している。
素人の管理人でもすぐ気付くさっきの矛盾点に、どうして現職の刑事が気付かないの~っ?
まあ、元々源田はパワー重視の野獣刑事と言う設定なので、頭を使うのは苦手なのだろう。
源田は大門と一緒に、会議室(?)で千恵の話を聞く。

源田「いい加減にしろよ、まだなんか用があんのか?」
千恵「本当のことを話そうと思って」
源田「知ってる、調書を読んできたって言った筈だ」
千恵「お願いだから聞いて下さい、お兄ちゃんにはアリバイがあるんです。ちゃんとしたアリバイがあるのに警察の人は認めるどころか嘘だと決め付けて死刑にしたんです」
事件のあった時刻、千恵は当時勤めていたスナックに、兄と一緒にいたと主張し、

さらに、もうひとり、店に女性客がいたと訴える。
千恵「その人さえ見付かれば、お兄ちゃんの無実が証明できるんです」
源田「東部署もその女を捜したんだろう」
千恵「私がお兄ちゃんを庇ってるって言って、真剣にやってくれなかったんです」

千恵「自分でも5年間その人を探したんです。新聞広告を出したりして……でもどうしても見付からなかったんです」
そういって、悔しそうに唇を噛む千恵。

二宮「君、それは無茶を通り越して無謀と言うもんだよ。5年前の既に解決した事件を調べ直すなんてとんでもない話だ。第一管轄が違う、管轄が!!」
事情を知った事なかれ主義の二宮は、当然猛反対するが、
源田「団長、再捜査をお願いします。自分にはあの女がデタラメ言ってるとは思えんです」
二宮「いくら同郷の女性だからって私情をまじえちゃいかんよ」
源田「そりゃ確かに同郷人ですよ、しかしですね、係長、無実のものが死刑になって平気なんですか」
二宮「それなら聞くがね、前川信次がシロだと言う確証はあるのかね? 嘘つきと評判の妹の証言だけじゃないか」
二宮が源田をやり込めていると、つと大門が立ち上がり、
大門「係長、自分が責任を取ります、お願いします」
二宮「……」
大門「ありがとうございます」
部下に無茶なことをやらせるときの決め台詞を放ち、二宮を黙らせる大門であった。
ま、そんなこと言って、今まで一度も責任取ったことはないんだけどね!!
この「西部警察」の世界では、どんなに無茶な捜査をしようが、規律を破ろうが、容疑者をボコボコにしようが、犯人を逮捕or射殺してタバコを吸えば、全てチャラになることになっているのである。
張り切って出かけようとする源田を止め、大門は、無線でよしえの部屋にあった古新聞を持ってくるよう谷に頼む。
大門が睨んだとおり、その新聞に、一ヶ月前に千恵が出したと言う広告が掲載されていた。
大門「前川千恵に死体の確認をさせろ」
源田「スナックにいた客ってのは、殺された秋谷よしえ?」
例によって例のごとく、大門の見立てに狂いはなく、よしえの死体を見た千恵は、それが5年間探してきた唯一の生き証人だと認める。

その後、千恵が陸橋の手摺にもたれ、眼下を電車が走り抜けて行くのをぼんやり眺めていると、源田がその傍らに立つ。
千恵「私ね、お兄ちゃんが釈放になったら大分へ帰ろう思ぉとった。久住高原で牧場の手伝いでも何でもして楽しく暮らそう……5年間考えてた」
源田「……」
千恵「だけど、もうダメ」
源田「あきらめるんじゃなか、必ず俺がその夢実現させちゃる」
千恵「だってもう証人がおらんもん」
源田「有耶無耶にしちゃいかんよ。俺たちが再捜査してやる」
弱音を吐く千恵に、源田が力強く請け負うが、状況が絶望的なのは誰の目にも明らかで、千恵は、ただ涙を堪えるのが精一杯であった。
それはそれとして、昔の女性は、夏場はブラが丸見えになるのを全然気にしていらっしゃらないのが、大変好ましいですなぁ。
現代の女性にも、是非見習って頂きたい。
大門たちは改めて二つの事件の関連性について話し合う。

谷「秋谷よしえは、新聞広告を見て前川千恵に名乗り出ようとしていたんでしょうか」
大門「そうだと思います」
リキ「それで彼女が働いている『たもと』(料理屋の名前)の近くに来た訳か」
リュウ「だけど、何故殺されたんですかね」
大門「口封じだろう」
源田「彼女を消さなきゃ具合の悪いやつがいるんだよ」
リュウ「そりゃ、何モンすか」
源田「決まってるだろう、5年前の強盗殺人の本ボシだ」
リュウの疑問に、ためらうことなく答える大門と源田。
しかし、これだけの情報で、そこまで言い切っちゃっていいものだろうか?
絵に描いたような見込み捜査である。
もっとも、
・多分コイツが犯人だろう→だが証拠がない→取調室でボコる→白状させる
・多分アイツが犯人だろう→だが証拠がない→犯罪を行うよう仕向ける→そこを逮捕or射殺する→タバコを吸う
と言う捜査手法で今までやってきた大門軍団なので、特に問題はないのだった。
あと、よしえが名乗り出る気になったのなら、まずは広告に出ていた電話番号に連絡してくると思うんだけどね。
谷「こりゃ、秋谷よしえ殺しのホシを挙げりゃ、ゲンが首突っ込んでる死刑囚も助かりますね」
大門「おそらく」
リュウ「ようし、ゲンさん、俺達に任せといてよ」
ともあれ、みんなその線で動こうということになり、日本の再審請求の壁の高さを舐め切っているような台詞を放つリュウたちだったが、そこへ小暮っちが課長室から出てきて、

小暮「皆さんに水をさすようだが、今度の捜査はちょっときついぞ、東部署が5年間突き止められなかった事件の真相を二日で解明しなきゃならん」
大門「二日?」
谷「課長、そら、どういうことです?」
小暮「前川信次の刑の執行が既に確定してる」
小暮っちの衝撃の発言に、思わず立ち上がる大門。
小暮「念のために法務省に問い合わせたんだがね、法務大臣は三日前、死刑執行命令書にハンを押している」
大門「すると、執行日は?」
小暮「五日以内、遅くても明後日の朝には刑が執行される」
源田「そんな、バカな」
いや、何が凄いって、一番凄いのは、所轄署の一介の捜査課長が、死刑執行の予定日を知ってるってことなんだけどね。
ただ、正直、この設定は要らなかったようにも思う。
犯行から僅か5年で死刑が確定して執行なんて、いくらなんでもスピーディー過ぎるし、後述するように、執行命令が出ているというのに、真犯人らしき男が捕まって自供したから、それで無罪放免なんて、日本の司法がそこまで弾力的且つ人間味に溢れた判断を下すとは到底思えず、あまりにリアリティーが欠けているからである。
もっとも、このドラマにリアリティーを求めるのは、それこそお門違いかもしれないが。
大門、帰宅しても一向に寝ようとせず、5年前の事件の調書を丹念に読み返していた。
だが、大門も、管理人が指摘した5年前の事件の矛盾点について気付く素振りは全く見せない。
アリバイだけじゃなく、もっと客観的な反証を大門が挙げてくれれば、見てる方も納得できると思うのだが……
後編に続く。
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