第21話「さらば瞼の母」(1977年6月22日)
タイトルから分かるように、名作「瞼の母」を題材にしたエピソードである。
見たことないけど……
冒頭、鶴間千代と言うセレブなマダムが車で移動中、例によって例のごとく、夜桜組と言うダッカーの下部組織の戦闘員に襲撃され、拉致されそうになるが、例によって例のごとく、早川があらわれる。
戦闘員「なんだ、てめえは」
早川「人に名前を聞くなんざ、紳士のやるこった、すん、御婦人に手荒なことをする
虫っけらの言う台詞じゃねえや」
戦闘員「なんだとーっ!!」
早川の、あまりと言えばあんまりな言い草に、戦闘員の皆さんがトサカに来られたのも無理はない。
早川「おっとっとっと、よしなよしな、ザコには用はねえよ」
だが、すでにこの時点で殺し屋用心棒の存在に気付いているのか、早川は彼らを相手にしようとさえしない。
早川が一瞬で彼らをぶちのめすと、何処からかお皿が飛んでくる。
それをキャッチすると、

早川「そんなところに隠れてないで出て来たらどうだ?」
早川、その皿を思いっきり叩き付けると、その弾みで、立ったまま気絶していた戦闘員たちが一斉に倒れる。
だが、今回の用心棒は妙に引っ込み思案で、なかなか顔を出そうとしない。
早川「おいおい、まだかくれんぼする気か?」
続いて、何枚かの皿が飛んできて、細い木を切断する。
それでも用心棒は出て来ません。
早川「いい加減にしなよ、まさかお前のことを知らないとでも思ってるじゃないだろうな、ええ、伊魔平さんよ」

伊魔平「ふぇへへへ、俺のことを知ってんのかい」
ここでやっと恥ずかしがり屋の伊魔平さんが登場。
ちなみにこの変な名前、今村昌平の「イマヘイ」から来てるのかなぁ?
早川「ああ、知ってるさ、夜桜組の組長・夜叉丸の用心棒、地獄のコック・伊魔平……皿と包丁投げの名人、ただし……」
と言う訳で、例によって例のごとく、被害者そっちのけで珍芸対決となる。
正直、今回のようなシリアスなストーリーの場合、こういうコミカルでショー的な対決シーンを機械的に入れると、演出のバランスが崩れるので、ときにはあえて省略する勇気も大切だったと思う。
あるいは、せめて、もう少しまともなキャラにするとか……
第一、今回の珍技比べ、面白くもなんともない。

先攻の伊魔平、まず皿を一枚投げて、松の幹にお盆のように突き立てると、その上に何枚もの皿を重ねて見せる。
……
かつてこれほど地味&無意味な珍芸があっただろうか? いや、ないっ!!

技より、皿を必死に投げている伊魔平ちゃんの顔の方がよっぽど面白い。
早川も、
「……で?」 と言いたくて仕方なかったのではないかと思うが、同じ珍芸マニアとして、そんな殺生な真似はできず、
早川「ほぉー、凄いもんだ!!」
口を窄めて感心して見せるのだった。
伊魔平「ひひひひひ、今度はおめえがやってみろい」
早川「おーっと、俺は一枚で良い」
早川、皿を一枚だけ投げると、

ちょっと分かりにくいが、詰まれた皿の下に滑り込んで、それを持ち上げ、

伊魔平「ああっ!!」
伊魔平のところまで飛ばすという、ほとんど妖術使いのようなことをする。
……
ザッツ・無理!! 物理的に無理(註1)な上に地味で、これまた伊魔平のびっくり顔の方がよっぽど面白い。
註1……無理なのは毎度のことだが、今回は感覚的にも納得しにくい。
ともあれ、無駄に長い珍芸対決がやっと終わり、早川はずーーーっと放置されていたマダムのところに戻る。
気を失っていた千代は、良いタイミングで目を覚まし、
早川「さあ、もうだいじょうぶですよ」
千代「……」
早川に頭を下げるが、

早川「……」
その顔を見た途端、早川の目付きが変わる。

千代「どうかなさいまして?」
早川「はっ? あ、いえ……」
千代「ほんとに危ないところをありがとうございました。お礼はいずれ主人の方から改めて……」
千代は早川には気付かず、車でさっさと走り去ってしまう。
千代を演じるのは福田公子さん。宮内さんとは15才くらいしか離れておらず、母親と言うには若過ぎるが、それほど不自然ではない。
そう、偶然助けたその女性こそ、早川の生き別れの母親だったのだ!!

早川「……」
路上に立ったまま、幼い頃、母親と遊んだ時の様子を懐かしく思い出している早川。

と、「およよ?」と言う感じで、親友・東条がその後ろから顔を出す。
東条「早川……早川!!」
早川「……うん?」
思い出の世界に浸っていた早川、何度も名前を呼ばれてやっと我に返る。
早川「おお、お前か」
東条「一体何があったんだ、いつものお前らしくないぞ」
早川「ほぉ? ふっはっはっはっ」
早川、腹の底からこみ上げてくる嬉しさをどう表現すれば良いのか分からず、少年のようなはにかんだ笑みを見せる。
東条「お前、まさか……」
早川「そうそう、あの方が俺のお袋様、はっはっ、お母さんってわけだ」
東条「早川、お前は疲れてるんだよ、あの奥さんは財界の有名な大物・鶴間勇吉社長の奥方だ。それに冴子さんと言うお嬢さんまである」
早川「ほーっ、それじゃ俺の妹じゃないか」
東条が人違いだと断じるが、千代を母親だと信じ切っている早川は耳も貸さない。
なお、その口ぶりから、東条も早川の家庭のことはある程度知っていると思われる。
続いて、早くも「首領Lの部屋」となる。
L「いつまでグズグズしておるのだ、夜叉丸、鶴間勇吉の30億円の献金は、まだ届いておらんぞ」
夜叉丸「も、も、申し訳ございません、首領L」
前回は相手が相手だったので、あんまり威張れなかった反動か、今回は妙に強気のL、夜叉丸を思いっきり怒鳴りつけてビビらせる。
夜叉丸も、名前の割りに腰抜けで、その場に平伏すると、

夜叉丸「あの鶴間、なかなかの頑固者でして」

L「頭を使え!! 頭を!!」
L、ブーメランで自分のヘルメットをカンカン叩いて見せると、その切っ先を夜叉丸の首に押し当て、
L「娘だ、娘の冴子を責めるのだ」
夜叉丸「……」
恐怖のあまり、声すら出ない夜叉丸さん。
いくらなんでもビビり過ぎでは?
なお、Lの背後に控えている部下の人、
「こんな上司はイヤだなぁ」と思っていたことだろう。
次のシーンでは、早川が花束を手に、口笛を吹きながらスキップでも踏みそうな足取りで歩いている。
覆面パトカーに乗った東条が通り掛かり、
東条「早川、何はしゃいでんだ?」
早川「お、東条、ちょうど良いとこに来たな」
早川、渡りに船とばかり、ガードレールを踏み越えて運転席側のドアに回ると、

早川「おい、ちょちょちょっと」
東条「おいおい、なにやってんだ?」
一瞬、愛の告白でもされるのかとドキドキする東条だったが、早川は東条を押しのけて自分がハンドルを握る。
東条「これは警察の車だぞ」
早川「まあいいから、いいから、そんな固いこと言わない」
叙情的なメインストーリーとは別に、早川と東条のマブダチぶりがたっぷり見られるのが、今回のお楽しみである。
早川、勝手に車を運転しつつ、リボンをかけたプレゼントを取り出し、
早川「おい、東条、ちょっと見てくれ、これはな、お袋様へのプレゼント!! デパート7つも駆けずり回ってやっと探したんだ。あ、そしてな、こっちはまだ見たことのない妹に!!」
浮かれまくっている早川、そういって包装紙にキスまでする。
しかし、早川、いくらなんでも駆けずり回り過ぎてないか?
大体、ひとつの町に7つもデパートはあるまい。
天にも昇る気持ちで、東条と一緒に鶴間家の豪邸を訪ねた早川だったが……
早川「どうぞ」
千代「まあ、助けて頂いた私に花束を? それではあべこべですわ」
早川「いえ、いいんです」
千代「まあ、どうして?」
早川「私は……」
東条「受け取ってやって下さい、その花束は不肖の息子からのプレゼントです」
早川がすっかり「上がって」るのを見た東条が、優しく横から口添えしてやる。

千代「え、息子?」
早川「はい、健です!!」
少年の頃に戻ったような純朴な笑みを浮かべ、背筋を伸ばして名乗る早川。

健「22年前に別れたあなたの息子、早川健です」
千代「まぁ……」
健「お母さん!!」
千代、あまりに突然の出来事に我を忘れ、何も考えずに早川を抱き締めようとするが、

そこに絶妙のタイミングで入って来たのが、パフスリーブの白いドレスが良く似合う、いかにも育ちの良さそうな、ショートカットのロリロリ美少女であった。
早川の異父妹にあたる冴子である。
演じるのは斉藤浩子さん。
そう、19話の遠藤さんに続き、かつての美少女子役の美しく成長された姿を拝める訳で、特撮ファン的にはたまらないキャスティングであった。
ともあれ、冴子の出現が、千代を別人に変えてしまう。
千代「おかしなことをおっしゃいますわねえ、早川さんと仰いましたか、私の子供はこの冴子ひとりきりですよ」
急によそよそしい態度になると、はっきりと自分が早川の母親であることを否定する。
早川「お母さん!!」

冴子「……!!」
早川の言葉に、驚きを隠せない冴子。
いやぁ、子役の頃は、ぶっちゃけあまり好みの顔立ちではなかったが、僅か数年でジャストミート福澤的なルックスにお成り遊ばされたことよ(詠嘆)
遠藤さんといい、斉藤さんといい、子役が大人になってもその美しさを保っていると、なんとなく、未来が明るいものに思えてくるなぁ。
ともあれ、千代の態度はひたすら冷たく、
千代「馴れ馴れしく呼ばないで下さいまし、そりゃあ、助けて頂いたことは感謝しております、でも、そのような言いがかりは」
早川「すっ、言いがかり……?」
母親の口から信じられない言葉を聞いて、愕然とする早川。
千代「言いがかりは迷惑だと申し上げているのです、お引き取りください!!」
さらに、あらかじめ用意していた封筒を早川に差し出し、
千代「これは僅かですが、昨日のお礼に……50万円あります。お持ち帰りください」
早川「すっ……」
早川、あまりのショックに、頭の中がぐちゃぐちゃになり、言葉が出ない。
今まで、どんな凶悪なボスや変態的な用心棒を見ても顔色ひとつ変えなかった早川にしては、異例の動揺であった。
早川が封筒など目に入らず立ち尽くしているのを見て、千代は封筒をテーブルにおいて再び座り込む。
見るに見かねて、
東条「奥さん、早川はそんなものが欲しくて人を助けたりするような男ではありません。どうか、少しでも早川の話を聞いてやってください」
東条が、ほとんど中学の担任みたいな口調で早川の代わりにお願いする。
早川もなんとか気を取り直して、
早川「お、お母さん、あまり突然なんで、それで動転して……だからそんな風におっしゃるんでしょ」
千代「……」
早川「健ですよ、あなたが家出したとき、まだ4つだった健です。僕ははっきり覚えてるんだ、あなたの右の胸には二つ並んだほくろがあったはずです」
千代「……」
早川、そんな、ちょっとエッチな証拠まで持ち出して自分が息子だと証明しようとする。
千代も、その言葉に、目の前にいるのが間違いなく健だと悟るが、あくまで鶴間千代としての立場を崩さず、
千代「そんなことまで何処で調べたかは知りませんが、50万で不足ならもう50万出しましょう、ですから、根も葉もないことを並べ立てて家庭の平和を乱すことはやめてください」
早川「お母さん!!」
千代「やめて、やめてください!!」
千代は針でも刺されたように勢い良く立ち上がり、窓際に行って早川に背を向ける。

早川「それじゃ、奥さん……もう一度伺います、22年前に別れた早川健、この名前、本当に覚えはないと仰るんですか」
早川、一縷の望みに縋って、しつこく念を押すが、
千代「これ以上答える必要はありません、東条さん、この人を連れて帰ってください」
早川「すっ、そうですか……わかりました、この22年間、瞼に描いていたおふくろとは別人でした。人違いをして申し訳ありませんでした」
早川、東条に見せびらかしていたプレゼントの箱をそこに置くと、断腸の思いで自分の間違いだと認め、深々と頭を下げて屋敷をあとにする。
「ズバット」でも一、ニを争う濃密な大人のやりとりだが、さすがに長過ぎる気がする。
まあ、宮内さん、「瞼の母」には特別に思い入れがあるらしいから、その気持ちを汲んでのノーカットだったのかもしれない。
早川(俺のおふくろはあんな女じゃない、俺の母さんはもっと優しい、日本一、世界一優しい人だっ!!)
それはともかく、早川、広い庭を突っ切りながら、駄々っ子のように心の中で叫ぶのだった。
千代「許して、健……」
一方で、ひとりになった千代が涙ながらに謝っていることから、さっきの態度が彼女の本意ではないことが分かる。
分かるのだが、具体的に何を考えて息子との再会を拒否したのか、それが良く分からない。
ちなみに、同年の「気まぐれ天使」の32話「母をたずねて今日も又……」にも、生き別れとなっていた実の母親に会いに来たら、拒絶された娘の話が出てくるのだが、実は、これ、今回の話と同じ日に放送されているのだ。
自分もついさっき知って驚いているのだが、こんな偶然ってあるんだね。
なお、「気まぐれ」のほうで拒否した理由は、現在の夫との関係を気にして……と言うものだったので、「ズバット」のほうもそれではなかったと思うのだが、肝心の鶴間勇吉がどんな人間なのか、千代との夫婦関係はどうなのか、視聴者には何の手掛かりも与えられていないので、推測のしようがないのがもどかしい。
また、そもそも千代がどういう事情で健を捨てて出て行ったのか、そしてどうやって今の旦那と知り合ったのか、その辺の説明が全くないので、我々は千代に同情すべきなのか、それとも金目当てに亭主と息子を捨てた腐れ外道だと非難すべきなのか、判断に困るのである。
つーか、原作「瞼の母」の頃ならともかく、電話もテレビも新聞もある現代の話だったら、経済的に何不自由のない千代が自分の息子を探そうと思えば割りと簡単に探せたはずで、今までそうしなかった千代の態度から見て、ただの腐れ外道説のほうが有力のような気もするのである。
まあ、そこまで行かずとも、早川を息子だと認めてしまうと、色々と波風が立ち、現在の幸せな家庭まで失ってしまうのではないか言う、漠然とした不安がそうさせたのかもしれない。
一方で、早川は早川で、今までなんで千代のことを探そうとしなかったのかと言う疑問が湧く。
それこそ、私立探偵なんだから、人探しはお手の物だろうに……
閑話休題、

早川「親を訪ねて泣く鳥は……」
夕暮れ、木の根元に座って、ギターをポロンポロンと弾きながら「浜千鳥」と言う童謡を涙混じりの途切れ声で歌っている早川。
この曲は、早川さんのチョイスらしい。

オサム「早川さんが泣いてる」
と、そこに、最近はほとんど通行人扱いの二人があらわれ、久しぶりに絡もうとするが、

東条にいぢわるく止められる。
オサム「だって早川さんが……」
東条「あれほどの男でもひとりで泣きたい時だってある。そっとしといてやるんだ」
今回、まるっきり早川の「お母さん」みたいな東条、早川の気持ちを慮って二人を近付けさせない。
オサムはまだ台詞があるからいいけど、みどりさんは台詞すらないのが不愍過ぎる。
ほんとは「まあ」みたいなことを言ってるのだが、アフレコにも呼ばれなかったようで、一切声は聞こえない。
ひとしきり泣いた早川であったが、ギターを強く握り締めると、頬を涙で濡らしたまま、サバサバした笑みを浮かべる。
泣いて少しは気分が落ち着き、なにはともあれ母親が生きていたことを喜ぶべきだと自分に言い聞かせたのかもしれない。
後編に続く。
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