第46話「狸がくれた五千両」(1989年3月14日)
なぜ突然「長七郎江戸日記」の、それもパート2の46話などと言う中途半端なエピソードのレビューが始まるのか、読者の皆さんも疑問に思っておられるだろうが、これには、のっぴきならない理由が隠されているのである。
その理由について、つまびらかに語ることは避けたいが、記事を読み進めて行くうちにおのずと明らかになるであろう。
冒頭、辰三郎こと辰と、大工の留吉が、雑木林の中の細道をぺちゃくちゃ喋りながら歩いている。

留吉「おいらの給金なんて飲み屋のツケを払ったら、あらかたなくなっちまうんですよぉ」
辰「だからさぁ、一分なんて大きなこと言ってないの、一朱でいいの、必ず倍にして返す」
どうやら、辰がバクチの金を友達の留吉から借りようとしているらしい。
初見の人のために説明しておくと、辰(火野正平)は、シリーズ通してのレギュラーで、よみうり屋の「夢楽堂」で(一応)働いているのである。
一方の留吉(本田博太郎)は、今回のゲストなのである。
どうでもいいが、半纏に「大工」って書いてる大工は、あまりいないんじゃないかと……
などとやってると、彼らの前方で、若い女が首吊りをしようとしているではないか。
二人は慌ててやめさせ、その理由を問い質す。
女「娘が病気で、お金がないとお医者様も診てくれません、生きて行く気力がなくなって……」
女は地面に突っ伏すようにして泣きじゃくりながら説明する。
病気の娘がいるのにひとりでさっさと死のうというのは考えてみればおかしな話だが、お人好しの留吉はいたく同情して、なけなしの一分を女の手に握らせる。
一分といえば一両の1/4なので、今で言うと3万円くらいか?
女は恐縮していたが、結局金を受け取ってその場を走り去る。
辰「トメ、お前、飲み屋のツケどうすんの?」
留吉「ははは、なに、わけを話して来月まで延ばしてもらいますよ」
案の定と言うべきか、女はひとりになると、貰った一分を放り投げて「甘いもんだね」と含み笑い。
だが、それをちょうど向こうから来た長七郎に見られてしまう。
女が逃げるようにそそくさと行ったあと、辰と留吉がやってくる。
二人から首吊りの一件を聞いた長七郎は、たちまち事情を見抜く。

長七郎「はっはっ、引っ掛かったな、あの女は騙りだ。金を弄んでニヤニヤして行ったよ」
辰「だから言っただろう、お前、かっこいいことするなって!!」
それを聞いた辰、まるで自分の金を巻き上げられたように騒ぎ立て、番屋に届けに行こうとするが、当の留吉がそれを止め、
留吉「逆らうようで申し訳ありませんが、あの女が騙りとはおいらには思えません」
長七郎「うん?」
辰「何言ってんの、トメ、長さん見たってじゃないか、ニヤニヤ笑ってお金こうやって持ってって……」
留吉「いや違う、きっと嬉しくて笑ってたんです、騙りじゃありません」
留吉、そうやって騙された自分を慰めようとしているのではなく、どうやら本気でそう信じているようで、道具箱を肩に担ぐと、ニコニコしながら去って行く。
辰「あいつの頭どうなってるのかね」
長七郎「まあ、いいじゃないか、金を騙し取られてもああ言える人物はそうはいない」
辰は留吉の人の良さに呆れ果てるが、長七郎はむしろ留吉の人間の大きさに感心していた。

ここで長七郎の顔がアップになり、
ナレ「四代将軍・家綱の治世、将軍のイトコに当たるひとりの男が自由闊達に世を生きていた、駿河大納言忠長卿の忘れ形見、松平長七郎長頼である」
いつものナレーションが入り、OPクレジットとなる。
パート1までは「三代将軍・家光の治世、将軍の甥にあたるやんごとなき……」なのだが、パート1の最後に家光が死んだので、パート2ではこういう内容に変わるのだ。
ただ、将軍のイトコと言うのが、いまひとつ迫力に欠ける身分なので、パート2でも引き続き家光が生きてる時代に設定した方が良かったんじゃないかなぁ。
OP後、利助(新田純一)が、日本橋の廻船問屋・大黒屋が3000両騙し取られたと言う特ダネを持って夢楽堂に飛び込んでくる。
利助も、ここで働く従業員のひとりである。
利助と宅兵衛が詳しい調査の為に出掛けて行き、辰もその後に続こうとすると、留吉が辰に助けを求めてやってくる。
ツケが払えず、飲み屋の女将に追いかけられているのだ。
留吉は昨日のことを話して許してもらおうとするが、女将は耳を貸さず、文字通り身ぐるみ剥がしてしまう。
ところが、続いて留吉の長屋の大家の吉兵衛が血相変えてやってくる。
吉兵衛「淀屋さんって知ってるだろ、その淀屋さんが殺されてな」
留吉「殺された? まさか、その下手人が俺だと言うんじゃないでしょうね」
吉兵衛「いやいや、押し入った盗人に殺されたらしいんだがな、その淀屋さんがお前に金を遺して下さったんだよ」

留吉「金?」
吉兵衛「それがな、ハンパな金じゃねえんだ、驚くなよぉ、5000両!!」
お光「5000両?」
辰「……」
それを聞いた辰、ショックのあまりその場にぶっ倒れてしまう。
だが、留吉にはそんなものを貰う心当たりは全くないと言う。
おれん「ばっかだね、自分の金でもないのに……でも、5000両とは大金ですね」
長七郎「うん……おい、淀屋と言うのはどんな商売をしていたんだ?」
吉兵衛「それが、皆目分かりません」
長七郎「わからん?」
気になった長七郎は、単身、淀屋の家を見に行く。
それは、なかなか立派な門構えの、大店の隠居が住んでいるような一軒家だったが、その周囲には役人も野次馬の姿もなく、強盗殺人事件が起きたのが嘘のように静まり返っていた。
声を掛けても返事がないので庭にまわり、座敷のほうをうかがうと、若い女性がこちらに背中を向けて座っていた。

はい、全国8兆7千億の杉浦幸ファンの皆さん、お待たせいたしました、ここでやっと今回のゲストヒロイン、杉浦幸ちゃんのおでましなのです!!
そう、管理人がこのエピソードを急遽レビューしようと思ったのは、この為だったのである。
これには読者の皆さんも意表を突かれたのではないかと思う。
えっ、思いっきり予想通りだったって?
おかしいなぁ……
無論、彼女が出ていることはずっと前から知っていたが、彼女のことが気になり始めたのはつい最近のことなので、今までレビューしようなどとは露ほども思わなかったのである。
長七郎「淀屋さんと言うウチはここかな」
お春「……」
長七郎の言葉に、お春は弾かれたように振り向く。
見れば、お春の前の畳の上に赤黒い血痕があった。

お春「どちらさまですか」
長七郎「夢楽堂と言うよみうり屋の居候だ」
しかし、やっぱり杉浦さんに時代劇のカツラは似合わんなぁ。

長七郎「淀屋が何故縁もゆかりもない留吉と言う男に5000両もの大金を与えると言い残したのか、それが知りたくてね」
お春「……」
長七郎「あんたは、誰かな」
お春「淀屋さんにお世話になっていたものです、お春と言います」
彼女の言い方では、まるで淀屋の妾だったようにも聞こえて紛らわしいが、実際は住み込みの女中のようなことをしていたのだろう。
にしても、事件は昨夜か一昨夜に起きたと思われるのに、あまりに静か過ぎるよなぁ。
お春は唯一の同居人で目撃者なのだから、番屋にしょっぴかれて訊問されてるのが(時代劇では)普通ではあるまいか。
長七郎「すっかり綺麗に片付いてるが、ここを出て行くのかね」
お春「はい、私も留吉さんのところに参ります」
長七郎「留吉のところに?」
お春「淀屋さんがそう言い残したんです、留吉さんに面倒見てもらいなさいって」
一方、留吉たちが長屋に戻ってくると、見知らぬ若い女が声を掛けてくる。

お喜久「留吉、私だよ、お前の姉さんだよ」
留吉「姉さん?」
お喜久「お前は知らないだろうけど、私たちはねえ、お前が三つの時に離れ離れになったんだよ。ほら、おっかさんから預かったお前のへその緒だよ」
辰「ほんとだーっ!!」
お喜久「留吉!! 会いたかったよ」
留吉「姉さん!!」
辰「トメ、5000両も手に入って、それで姉ちゃん急に現れて盆と正月一緒に来たな」
めちゃくちゃ怪しいタイミングでの「生き別れの姉」の出現であったが、底抜けにお人好しの留吉、疑うことなくその体を抱き締め、辰もそれを祝福する。
だが、
お春「ニセモノです!!」
そこにあらわれて鋭く指摘したのが、長七郎と一緒のお春だった。

お喜久「何を言うんだい、あんた」
お春「淀屋さんは仰ってました、留吉さんにはこの世に身寄りはないと……ちゃんとお調べになったんです」
長七郎「本当に兄弟と言うなら役人立会いで話し合ってもらおうか、どうする?」
お喜久「ふふ、ばれちゃしょうがないね、5000両、大事にしな」
女はあっさり正体をあらわして、憎々しげに言い放って走り去る。
ちなみに、彼女はただの詐欺師ではなく、淀屋を殺した盗賊の頭の情婦で、無論、留吉の相続する5000両が狙いなのだが、それにしてはあまりにやり方が稚拙な気がする。
留吉がお人好しだから上手く行きかけたが、実際は、仕掛ける方が恥ずかしくなって途中でやめたくなるくらい、見え見えの手口ではないか。
なので、ここに登場する騙りは、お喜久じゃなく、事件とは全然関係のない女にしておいたほうが良かったと思う。
それはともかく、長七郎は留吉にお春を引き合わせる。

留吉「えっ、おいらの世話になれって? 冗談じゃねえ、おめえみてえな若い娘の世話なんか、おいらできねえよ」
女将「そうだよ、信用しちゃダメだょ、まぁ、虫も殺さないような顔して……この娘の狙いもトメさん、あんたの5000両なんだよ」
留吉「いや、俺にはそうは見えねえけど……ああ、それにしてもわかんねえ、淀屋って人は誰なんだ、なんで俺に5000両も残したり、あんたを押し付けたりするんだ?」
お春によると、3年前、淀屋は茶店で財布をなくして支払いに困っているとき、たまたまその場に居合わせた留吉に5文もらったことがあるのだという。
お春「江戸に出て来て間もない頃だったので、とっても嬉しかったと仰ってました。それから留吉さんの後をつけて名前を確かめておいたんだそうです」
だが、留吉は全く覚えがないと言う。
留吉「お春さん、淀屋さんを殺したのは何処の誰だい」
お春「それは……押し込みらしいって言うことだけで相手のことは何もわからないんです」
留吉「それだ、淀屋さんはそいつを突き止めて欲しいに違いない、だから俺に金をくれたんだ、よしわかった、その下手人は必ず俺が突き止める」
淀屋は、いまわの際にそう言い残した訳ではなく、以前から留吉に金を遺すつもりだったのだから、その推理は外れているのだが、妙に頑固なところのある留吉は一人合点に決め付ける。

お春「……」
そんな留吉を悲しそうな目で見詰めるお春。
いやぁ、やっぱり杉浦さんの最大の魅力は、こういう憂愁を帯びた、思わずいぢめたくなるような暗い眼差しだよね。
一方、お喜久の尾行を命じられた辰は、その行方を見失ってしまう。
事件について話し合う長七郎たち。

長七郎「やはり消えたか」
辰「ごめん、でもさ、何者だろうね、トメの5000両のこと知ってたのも気になるしさ」
長七郎「うむ、ひょっとしたら、淀屋を殺したのはその女の一味かも知れんな」
おれん「そう、きっとそうですよ、そいつらの狙いは淀屋さんの5000両だった、ところが殺して家捜ししてもその金は見付からなかった」
辰「それでトメのこと聞いて、早速姉さんの振りして乗り込んできた?」
おれん「そう」
お光「でもぉ、5000両なんて大金、淀屋さん一体どうやって作ったんでしょうか」
長七郎「うん、そこにも大きな謎があるな、お春も淀屋は上方の人と言うだけで何の商売をしていたか、全く知らんといっていた」
ちなみにお光は利助と恋仲なのだが、夫婦になる前に利助は非業の死を遂げ、お光はなんと、死んだ利助と結婚式を挙げると言う、昔の純愛映画みたいな恐ろしいことをするのだった。
そう言えば、おれんの野川さんは、「このこ誰の子?」で、杉浦さんと共演してるんだよね。
宅兵衛と利助は、行方をくらましていた大黒屋の主人が夜中にこっそり店に戻って来たところを捕まえ、3000両を騙し取られた経緯を詳しく聞く。
大黒屋「10日ほど前のことでした、上方訛りの男が店に来まして南蛮抜け荷の品が取引の手違いで宙に浮いている、安く売りたいと言うのです」
大黒屋は倉に保管されたそれらの品を自分の目で確かめた上で、3000両を払い、代わりに倉の鍵を受け取ったのだが、もう一度倉の中に入ってみると、品物が煙のように消えていたと言う。
大黒屋「3000両作るためにあちこち借金して、もう文字通り首が回りません、と言って、抜け荷の品では番所に訴えることもできず……」
留吉は、辰たちと飲み屋で飲んでいたが、途中で雨が降り出す。
留吉「そうだ、あんときのじいさんだ……」
それがきっかけで、留吉は3年前の出来事を豁然と思い出す。
その時も土砂降りの雨が降っていて、軒下で雨宿りしていた留吉は、近くの茶店で無銭飲食を疑われて困っている淀屋を見掛けて、横から助け舟を出したのだった。
留吉「おやじさんよ、茶代で番所はねえだろ。いくらだい」
おやじ「5文です」
淀屋「払ってくれはるんだっか、見ず知らずのわてのために」
留吉「困ったときはお互い様」
そのことを思い出してすっきりする留吉だったが、それでも5000両は仇をとらない限り受け取らないと、あくまで意地を通すのだった。
同じ頃、長七郎は雨の中、留吉の長屋を訪れるが、留吉の家の向かいの軒下に、お春が傘も差さずに風呂敷包みを抱いて立っているではないか。
長七郎「他に行くところがないのか?」
お春「……」
長七郎が優しく尋ねると、お春はこくんと頷く。

長七郎「淀屋のことを話してくれないか」
お春「何も知らないと申し上げました」
長七郎「だから、知ってることだけで良いんだ。淀屋とはどういうかかわりがあったのだ」
お春「2年ほど前、拾われたんです、私、ふた親に死なれて、知り合いの家に奉公に出されて子守をしていました」
その時の様子が回想される。
杉浦さん、割りと背が高く、子守女にしてはいささかトウが立っているが、赤ちゃんみたいな童顔なので、それほど不自然さはない。
そこのおかみにいびられているお春の姿を見掛けた淀屋が、おかみに掛け合ってお春の身柄を引き取ってくれたのだと言う。
ただ、不幸な境遇の娘ならほかにいくらでもいるのに、何故お春を選んで引き取ったのか、その辺の理由がないのがいささか物足りない。
お春「それからずっと身の回りの世話をしてきました、とっても優しいおじいさんでした。でも三日前……」
お春によると、お春が淀屋の肩を揉んでいると、自分の身に何かあったら、留吉を頼れと言ったと言う。
長七郎「万一のこと? 淀屋は殺されることを察していたのか」
お春「わかりません」
長七郎「淀屋が殺されたときにあんたは何処にいたんだ。もしかしたらあんたは何もかも知っているのではないか」
お春「いえ、私はその時、お酒を買いに出かけてました。何も見てません、何も知りません!!」
長七郎が重ねて問うと、お春は強い口調で否定する。
などとやってると、留吉と辰が相合傘で帰ってくる。
留吉「思い出したよ、淀屋さんを……お前の言うとおりだった」
長七郎「淀屋はお前の親切に胸を打たれたんだ、だから、素直に好意に甘えることだ。あだ討ちのことなど考えるなよ」
辰「それがさぁ、長さん、こいつ、仇取らないと金は受け取らねえって言うんだよね、ね、言ってやってよ、そう言う金は有難く頂戴しとくほうがいいって」
留吉「やめろ、辰さん、バカなこと言うな!!」
留吉は辰の体を乱暴に突き飛ばすと、
留吉「俺は今まで随分と色んな人に施しをしてきた、けどそれは礼を貰おうなんてそんなことを考えてやったことじゃねえんだっ!! 俺は生まれてから何にもほんとに何にも良いことがなくてよぉ、けどそんな俺でも困ったときに助けてやればみんな闇夜に仏に会ったような顔で俺を見る、それが嬉しいから俺は施しを続けてきたんだ、誰のためでもねえ、俺のためだ」
お春「留吉さん……」
留吉「なのに、5000両も貰うなんてそんな馬鹿げた話はねえや、仇でも取らなきゃ気が済まねえっ!! そうだろ、お侍さん」
長七郎「気持ちは分かった、だが無茶はいかん、下手をすればこのお春まで命を狙われるかも知れんぞ」

捨てられた子犬のような目で、じっと留吉の顔を見るお春タン。
くぅぅ、これだよ、この目付きがたまらんのだよっ!!
留吉「入んな」
そんなお春を見捨てることなど出来ず、留吉は家の戸を開けてお春を招き入れるのだった。
普通なら、若い男女が一つ屋根の下に一夜を明かすことになったら、辰がめちゃくちゃ羨ましがったり騒ぎ立てたりすると思うのだが、全然そんな気配がないのは解せないなぁ。
まぁ、辰から見ればお春なんて赤ん坊みたいなものだからねえ。
翌朝、ニワトリの声で目を覚ました留吉は、台所で物音がするので怪訝な顔で仕切りの戸を開けると、前掛けをつけたお春が甲斐甲斐しく働いていて、すでに朝食の支度が出来ているではないか。
お春、留吉に気付くと畏まって正座し、

お春「おはようございます。お口に合うかどうか……勝手に作ってみました」
留吉「会うかどうかなんてお前、合わせなきゃ、バチが当たる」
だが、留吉を料理に手を付ける前に、辰と吉兵衛が慌てた様子で飛び込んでくる。
5000両預かっている名主が、早く金を引き取って欲しいとせっついているのだと言う。
留吉は他人に迷惑は掛けられないと、三人で金を受け取りに行く。
と言っても、そこに小判が置いてある訳ではなく、

名主「はい、5000両」
留吉「これが5000両?」
吉兵衛「手形だよぉ……当書状持参人に5000両お渡しくだされたく候、大坂船場・伊勢屋五兵衛」
辰「手形って何よ」
名主「それを日本橋の両替商、伊勢屋本店に持って行けば5000両渡してくれると言う訳だ。淀屋さんは大坂の伊勢屋さんの出店に5000両預けて、この手形を持って江戸に出かけてきたのだ」
辰「なるほどー、頭良い」
だが、留吉、すぐ伊勢屋には行かず、しばらく手形を持っていたいと言う。
その帰り道、数人の浪人が待ち伏せしていて、留吉から手形を奪おうと襲ってくるが、長七郎と宅兵衛が駆けつけ、あっという間に追い払う。
と、近くの木立の陰に、留吉の姉だと名乗ったお喜久と言う女がいて、こちらの様子を窺っているではないか。
辰「今度はまかれねえぞ」
辰は逃げて行く女を追いかけてその場から走り出す。
長七郎「無茶をするなと言っただろう」
留吉「けど」
長七郎「留吉、お前が5000両取りに行ったのは、淀屋の仇を突き止めるためだろう」
留吉「そうです、淀屋さんを殺したのもきっと5000両が狙いと思ったんです」
吉兵衛のすすめで、留吉は手形を長七郎に預ける。
長七郎は手形を持って逐電したと言う。
「長七郎江戸日記」part2 ―完― じゃなくて、五重塔をバックにお春と話している長七郎。

長七郎「そろそろ聞かしてくれたらどうだ、淀屋は5000両もの金をなんで稼いだんだ?」
お春「……」
長七郎「このままでは留吉も殺されてしまうぞ」
お春「……」
長七郎「それでもいいのか?」
お春「私が知ったのもついこないだでした、前の話には続きがあったんです」
お春も観念して洗い浚い打ち明ける。

淀屋「ワシに万一のことがあったらの話やがな」
お春は肩を揉む手を止め、淀屋の正面に座り直して、真っ向から問い質す。
お春「どうしてそんなこと仰るんですか、どうして万一のことがあるんですか?」
しかし、お春、下女にしては口紅がやたら赤くて、なんか、淀屋の妾みたいなんだよなぁ。

淀屋「お前には何もかも話しておこう、実はな、ワシは三年前まで上方を荒らしまわっていた、騙りの難波屋十兵衛じゃ」
お春「……」
淀屋「足を洗うたときの隠居金でな、5000両と少しあったんや、それを持って江戸へ出てきたんやが、そこですぐに出おうたのが留吉や……ワシはたまげた、生き馬の目を抜くと言われる江戸に、損得抜きの留吉のような男がいるとは信じられなんだ」
その時受けたショックを昨日のことのようにありありと思い出す淀屋であったが、たかが5文でそんなに驚かなくても……と言う気がしなくはない。
淀屋「ワシは自分のしてきたことが恥ずかしうてなぁ……それで残りの5000両をそっくり留吉さんに上げることにしたんじゃ……いずれ留吉さんに会うてワシの手で5000両渡そうと思たんやが、その暇ものうなった。噂に聞いた大黒屋の一件や」
お春「あの、3000両騙し取られたって言う?」
淀屋「うん、あれはワシが上方でやってた手口と同じや。やった奴も分かってる、いや、それでな、昨夜そいつの隠れ家へ投げ文をして呼び出したんや。ワシの目の黒いうちには二度とあないな真似はさすことはないと思うてな」
しかし、大黒屋が騙された具体的な手口は、宅兵衛たちが行方を晦ましていた大黒屋から直接聞いて初めて分かったのに、三日前の時点でなんで淀屋が知っていたのだろう?
あと、前記したように、留吉のほうは分かるけど、淀屋がなぜお春によくしてくれるのか、その理由が抜けているのが今回のシナリオの欠点である。
淀屋が、留吉とお春を一緒にさせようと思ったからには、お春にも似たようなエピソードをあてがわないと帳尻が合わない気がするんだよね。
それはともかく、二人が話している最中、その男が訪ねて来たが、淀屋はお春に酒を買ってくるよう命じて裏口から逃がす。
が、お春は淀屋のことが心配で、塀の外に留まって様子を窺っていたが、やがて人の争う声がしたかと思うと、淀屋の断末魔の呻き声が聞こえたのだと言う。
もっとも、お春はその男の顔は見ていない。
長七郎「よく話してくれた、これでおおよそのことは分かった」
お春「黙っていてすいませんでした、でも、あんなに良い人が騙りの頭目だなんて、どうしても言えなくて……」
長七郎「その下手人だが、(淀屋は)確かに才次と呼んでいたんだな」
お春「はい」
その才次とお喜久が、料亭で悪の親玉と密談しているのを、女を尾行した辰が天井裏で聞いている。
しかし、簡単に言うけど、料亭の屋根裏に上がるのはなかなか大変だと思うんだよね。
もっとも、辰はかつて泥棒やってたこともあるので、ひとよりはすばしっこいのである。
その晩、留吉が仕事から帰ると、お春の姿がなく、代わりに「お春を助けたかったら5000両持って来い」と言う、お決まりの手紙が残されていた。
留吉は夢楽堂に駆け込み、その手紙を見せる。
長七郎「留吉、5000両はお前のもんだ、どうするか決めるのもお前だ」
留吉「どうするもこうするもありません、俺は金を持って行きます、お春の命には代えられません」
長七郎「分かった」
で、次のシーンでは、宅兵衛と留吉が千両箱を大八車で指定された寺院に運んでいる図となるのだが、こんな夜中に、両替商が店を開いているのだろうか?
ともあれ、二人がやってくると、約束どおり、才次とその仲間たちが、お春を連れてあらわれる。
現代の感覚では別に不思議はないが、当時は街灯なんてものはなく、夜になればそれこそ真っ暗になるので、こういうデリケートな取引をするのは無理なんじゃないかなぁ。
おまけに、どっちも提灯持ってないし……
ま、たまたま月夜だったと言うことなのだろう。

留吉「お春!!」
お春「留吉さん、渡してはいけません!!」
杉浦さん、こういうしんねりむっつりした表情がデフォルトだが、そんな表情ばっかりしてるせいか、とうとう眉間に皺が出来るようになってしまった。
留吉「良いんだ、お春、こんなもの、元々なかったもんだ」
才次「持って来い」
宅兵衛「娘が先だ」
才次「本物かどうか、確かめるんや」
才次は部下をひとり行かせて、5000両あることを確認させる。

才次「連れて行け、ゆっくりとな……持って来い!!」
才次の合図で、お春を連れた部下と、大八車を引く留吉たちがゆっくりと歩き出す。

お春「……」
擦れ違いながら、留吉を切なそう目で見詰めるお春。
案の定、才次は留吉たちを消そうとするが、近くに隠れていた長七郎に邪魔され、金を持ってトンズラする。
ちなみに、5000両もの小判を載せた大八車を、ひとりが軽々と引っ張っているのが、時代劇ではありがちですが、ダウトです。
お春「留吉さん!!」
お春は縛られたまま、留吉の胸に飛び込む。

お春「留吉さん、どうして……どうして私みたいなもののため……」
留吉「いいんだ、もう何も言うんじゃねえ」
しっかりとお春の体を抱き締める留吉。
しかし、ちょっと一緒に暮らしただけで、もう夫婦みたいに愛し合うと言うのは、なんか不自然だよなぁ。
その辺の描写がほとんどないのも、今回の不満なところである。
ま、杉浦さん、どっちかと言うと芝居が下手だから、スタッフもあえて省略したのかもしれない。
ちなみにこのシーン、ちょっと変なのは、長七郎、才次たちを追いかけようとする宅兵衛を止めておきながら、
長七郎「さて、問題はこれからだ」
と、困ったような顔でつぶやくことである。
いや、だったら、なんで宅兵衛にそのまま追わせて敵のねじろを突き止めさせなかったの?
それはともかく、才次たち、今度は木曾屋と言う商人を大黒屋と同じ手口で詐欺に掛けようとする。
その交渉役はお喜久で、屋形船の中で差しつ差されつしながら密談する。
お喜久「では、明日4000両揃えて頂きましょうか」
木曾屋「わかった、しかし、噂に聞いたところでは大黒屋さんは抜け荷の品で大騙りに遭ったと聞く、まさか……」
お喜久「うっふふ、私、そんなインチキはいたしません、品物をお見せしてその場でお引取り致します」
木曾屋「おお、その場でか……それなら安心だね」
木曾屋は蔵の中にぎっしり積まれたご禁制の品々をその目で確かめると、
木曾屋「よろしい、金は表の船に積んである」
木曾屋は、一旦蔵の外に出ると、川岸につけた船ごと金を才次たちに渡し、代わりに鍵を受け取る。
ところが、蔵に戻ってみると、その僅かの間に品物が綺麗さっぱりなくなっているではないか。
と、壁際に置いてあった衝立が倒れると、その向こうの壁に大穴が開いているではないか。

番頭「旦那様!!」
そう、金の受け渡しをしている間に、その穴から品物を運び出すと言う、
アホみたいな豪快な手口だったのである。
しかし、彼らが正確にどれくらいその場を離れていたかは不明だが、そんな短時間にそれだけの品を運び出せるものだろうか。
しかも、彼らは箱はそのまま、品物だけ持ち去っているのだが、それだとなおさら時間が掛かるし、普通は箱ごと持って行くよね。
箱代だってバカにならないんだから。

木曾屋「そんなぁ……」
まんまと4000両騙し取られて、絶望のズンドコに叩き込まれる木曾屋を、長七郎は冷ややかに見ていた。
長七郎「欲と悪知恵の追いかけっこか、果てしないもんだ」
なお、このシーンにも疑問がある。
才次たちの船を、宅兵衛と利助が同じく船で尾行しているのだが、彼らがこの取引のことをどうやって知ったのか、何の説明もないではないか。
考えられるのは、辰がまた料亭の天井裏に上がって盗み聞きしたと言うことだが、ラスボスと才次たちがそう何度も会合するとは思えないし、仕事の内容をいちいちラスボスに話すとは思えず、説得力はない。
才次たちは千両箱を直接、ラスボス……平川泰造(江見俊太郎)という武家の屋敷に運び込む。

平川「ご苦労だったな、才次、お喜久」
才次「へい、何ごともご家老様のため、いえ、お家再興のためでおます」
平川「うーん、あわせて1万2千両になった、これだけの金子を賄賂として幕閣にばら撒けば、取り潰されたお家の再興も叶うであろう」
才次「お互い、どぶ水を飲んだもの同士、わしらとも長い付き合いをお願いいたしますよ」
お喜久「まずは一生安楽に暮らせる身分が欲しゅうございます」
平川「わかっておる、わかっておる、北山10万石のお家再興が叶わば、そちたちの望みはなんでもかなえてとらすぞ」
彼らのやりとりで、平川が自家の再興のためだと分かる。
分かるのだが、なんで才次たちは、そんなことに協力して金を貢いでいるのだろう?
自分たちで盗んだ金なら、自分たちで使えば良いやん。
北山10万石が再興できるという保証はない……と言うより、幕府が一度取り潰した大名家を復活させてくれるとは到底思えず、そんな空中楼閣に願いを託すより、自分たちで散財した方がよっぽど楽だろう。
と言って、平川が彼らの詐欺行為に便宜を図っているようにも見えず、どうにも不可解な関係である。
お喜久の言う「一生安楽に暮らせる身分」と言うのも、よく分からない。
いや、それこそ、盗んだ金で「一生安楽に暮らせ」ばええやん。
つーか、平川にしても、お家再興なんかに大金をつぎ込むより、その金で安楽に過ごした方がどれだけ良いか知れない。
だが、時代劇のお約束で、用済みとなった彼らはその場で斬り殺されてしまう。
これも、1万2千両で足りなくなったら、また才次たちに稼いでもらわねばならないので、なんでこのタイミングで始末せねばならないのか、謎である。
この後、長七郎と宅兵衛があらわれ、その場にいる全員を斬り殺す。
いつも思うんだけど、彼らの誰一人として、途中で逃げ出そうとしないのは立派だよね。
序盤はともかく、半分くらい殺された時点で、「あ、これ、絶対勝てない戦闘だ」と悟って逃げ出す奴がいても不思議はないと思うのだが。
あと、これだけ武士がいて、誰ひとり平川の悪行に異議を唱えないと言うのも、お約束とは言え、変だよなぁ。
つーか、取り潰しになった大名の家老の屋敷に、なんでこんなに武士がいるの?
色々と腑に落ちないことはあったが、事件は落着し、大黒屋と木曾屋は抜け荷の罪で闕所(追放の上、財産没収)となり、留吉の5000両もお上に没収されてしまう。
だが、留吉は幸せだった。

留吉「お春」
お春「はい、お弁当」
無論、お春と言う可愛い女房が出来たからである。

長七郎「はっはっ」
おれん「お春さんと所帯を持ったら、留吉さん、少しは騙されなくなるかしら」
長七郎「さあ、それはどうかな、なにしろ、人間、騙すより騙される方が良いからな、見ろ、留吉のあの幸せそうな顔が何よりの証拠だ」
と思ったけど、おれんの言い方では、まだ正式には結婚してないようにも聞こえる。
どっちにしても二人が結ばれるのは明らかで、爽やかなハッピーエンドとなるのだった。

最後は、留吉に食べさせてもらっているお春のサービスショットで締めましょう。
「長七郎」、ぶっちゃけ、パート2以降は全体的に出来が良くないのだが、本作は、その中では鑑賞に堪える貴重な一本であった。
杉浦ファン的には、もう少しお春の見せ場を作って欲しかったところだが、贅沢は言うまい。
ちなみに今回、殺人事件や詐欺事件が起きているのに、同心も岡っ引きも番所の役人も、ただのひとりも司法関係者が出て来ないと言う、珍しい作品であった。
それにしても、やっぱり時代劇のレビューはしんどいわ。
これでもだいぶ省略してるんだけどね。
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