翌日、出社した榎本は、友江からの手紙に目を通すや、天を仰いで溜息をつく。

榎本「やっぱり……」
忍「どうしたんだよ」
榎本「自宅謹慎ですよ、上からそう言われたらしいです」
由利「えっ、やめるんですか、部長は?」
忍「白々しいこと言いやがって、このぉ!!」
榎本「先輩……なぁ、これ誰が持ってきたんだ?」
榎本は、いきり立つ忍をなだめて尋ねるが、忍が喧嘩を吹っかけるようなことを大声で叫んでいるのに、由利も周りも何の反応の示さないというのは、ドラマとは言え不自然である。
信子「ターコの妹さんです。喫茶ルームで待ってますよ」
榎本と忍は、喫茶ルームで真紀と話していたが、その途中、榎本は我慢できなくなって人事部長のところにひとりで怒鳴り込む。
その間に忍は、真紀にあらましの事情を打ち明ける。

真紀「怪しいわね、確かに……」
忍「証拠なんだよなぁ、問題は……真紀ちゃん、悪いけどちょっと手伝ってくんないかな」
真紀「私が?」
と言う訳で、忍は真紀にシスターの恰好をさせて、両角のマンションに行き、真紀に強引に部屋の中に上がり込ませ、その内情を探らせる。
しかし、仮にも勤務時間なのに、忍がそんなことまでするというのは、いささかリアリティーに欠ける展開だ。
第一、シスターの衣装なんて、そんな簡単に調達できないと思うが……
ちなみに松木さん、こういうのが好きらしく、「気まぐれ本格派」の24話でも、ゲストヒロインがシスターの扮装をするというシーンが出て来る。

それと並行して、遊園地&動物園で所在なげに佇んでいる友江の姿が映し出されるが、美女と言うのはただ立ってるだけでも絵になるんだなぁと言うことが良く分かるシーンとなっている。
無論、父親の供養と言うのは嘘で、真紀にバレないように時間潰しをしているのだ。

とりあえず貼ってしまう酒井さんの美しいお顔。
続いて、真紀の手に入れた「成果」を、榎本に手柄顔で見せている忍。
忍「ほら、プレジールの名刺もあったんだよ」
真紀「プリンセス(下着)のね、写真だとかイラストだとか一杯あった」
榎本「ま、待てよ、こうなったら仕方ない、本人に確かめるほかないな」
榎本も物証を見せられては折れざるを得ず、次のシーンでは喫茶ルームで由利を二人で尋問している図となる。
しかし、撮影の都合もあろうが、そんな話をそんなオープンな場所でやるだろうか?
忍「どうなんだよ、はっきり言えよ!!」
榎本「先輩、声が大きいんだよ」
忍「俺はね、由利ちゃんの婚約にケチをつけようって訳じゃねえんだよ。ただ、どうしても人のものを盗むってのは許せないんだなぁ……」
そんな話をしているうちに、忍の脳裏に、身近にいるとある人物の姿が浮かび上がり、またしても妄想モードに突入する。

無論、人のものを盗むとなれば、綾乃以外になく、例の酒場のあちこちに出没しては、タバコの煙と得体の知れない笑いを振りまいていたが、階段を昇ろうとして躓き、服の中に溜め込んでいたさまざまな盗品を床にばら撒いてしまい、

それを必死に掻き集めると言う、ある意味、人間として最低の醜態を晒すのだった。
綾乃にはたいへん失礼な話だが、現実にも似たようなことやっているので、忍がそんな妄想を描いたとしても不思議はない。

由利「信じられないわ、彼がそんなことするなんて」
忍「しなきゃあ仕事もねえ男がどうしてあんな豪勢なマンションに住んでるんだよ、プレジールから絶対金貰ってんだよ」
榎本「君に資料見せろって言うのか、彼は」
由利「ええ、勉強になるから……新しい宣材が見たいって言うんで」
忍「それだ」
由利「でも、まさか……」
榎本「いやいや、そのまさかが命取りなんだよ」
現段階では状況証拠だけなのに、榎本も、忍につられていつの間にか両角犯人説に傾いてしまっていた。
それでも由利はあくまで彼氏の潔白を主張する。
由利「なんて言うのかなぁ、勘で分かるのよ、仕事のために私と付き合ってるんじゃないって言う……」
由利の「女の勘」は、半分当たって半分外れていたことが後に判明するのだが、それはそれとして、榎本は由利を通してニセの資料を両角に渡し、その結果で答えを出そうと言い出す。
忍もその案に賛成し、
忍「反応がなけりゃ君の恋人の潔白は証明されるわけだし、すっきりするじゃないか……やろう、な?」
由利「やってみます」
二人に押し切られる形で、由利も承諾する。

由利「いつものところで、あのね、今度売り出す新製品の広告資料持ってく……うん、写真のレイアウトが凄くいいの」
オフィスに戻った由利は早速両角に電話して会う約束をする。
榎本たちはその作戦に期待を寄せていたが、

出前持ち「……」
たまたま食器を回収に来ていた出前持ちが、由利の声に興味深そうに耳を欹てていることには全く気付かなかった。
そう、畠山さんが演じているので最初から丸分かりだったのだが、この出前持ちこそ本当のスパイだったのである。
会社が引けてから、街で由利と両角が会うシーンを挟み、そんな計画が進んでいるとは夢にも知らない友江がマンションに帰ってくる。
真紀「法事どうだった?」
友江「法事? ああ、そう、無事に済んだわ。お坊さんがお経上げて」
真紀「当たり前じゃない、お経上げるの」
友江「そうね、なんだか疲れた……会社でせっせと働いてる方がよっぽどラクチンだわ」
真紀は、友江がいかにも元気がないのを見て、その目の前に腰掛け、

真紀「明日も法事?」
友江「えっ」
真紀「そんな必要ないわよ、榎本さんと加茂さんがね、今スパイ狩りしてるから」
友江「なあに、それ?」
真紀「お姉さんだけ悩むなんて不公平だわ、話聞いてほんっとに頭来ちゃった!!」
友江「……」
おそらく、二人から口止めされていたであろうが、真紀は友江を励ますためにすべてぶちまけてしまう。
さて、今回はあまり出番のない渚は、忍が酔っ払って帰ってくると、綾乃にすすめられて水を持って行ってやる。
忍、酔眼で渚の顔をまじまじと見ていたが、ここでまたまた妄想モードに入る。
忍扮する軍人が酒場のカウンターで酔っ払っていると、誰かがスッとグラスの水を差し出す。

振り向けば、そこに歌姫チックなドレスを着た渚が座っていた。

そして、忍に大変いじらしい台詞を言う。
と、ここで、軍楽隊のドラムと、集合を知らせるラッパの音が聞こえてきたので、忍は渚に介添えされながら立ち上がり、軍隊式の敬礼を渚に対して施す。

で、それを見る渚のポートレートの美しいこと!!
言うまでもなく、これは日本で初めて字幕つきで公開された映画「モロッコ」のラストシーンのパロディーなのである。
ちなみに市川版「悪魔の手毬歌」でも同じシーンが引用されていることは有名で、てっきりそれを真似たのかと思いきや、実は「手毬歌」の公開日は4月2日で、このエピソードのほうが3日だけ早いのである!!
まあ、その前に試写をやってるから、それを見たこの番組の関係者が真似たとも考えられるが、公開前の映画のパクリをやるとも思えず、純然たる偶然の所産であろうか?
それはともかく、ふと我に返った忍は、コップを差し出している渚の顔をまじまじと見ていたが、

忍「どうも……女ってのは浅墓だね、男のためだったらなんでもするんだから」
コップを受け取ってから、カメラに向かって女性蔑視的な発言をする。

と、すかさず渚が水差しの水を忍の頭の上に注ぐのだった。
忍「ほんと、なーんでもする……」
翌朝、今度は友江に榎本ともども呼び出され、きつくお灸を据えられる。
友江「どういうつもりなの、あなたたち、由利ちゃんの幸せを踏み躙るつもり?」
忍「いやぁ、しかし、あの子の恋人はですね」
友江「女にとって結婚がどういうことなのかまるで分かってないわ、由利ちゃんの気持ちなんかどうでも良いんでしょ。なんてひどい人たちなの」
榎本「でもね、部長、あんな男と結婚するのは由利の為になりませんよ」
忍「そう、スパイなんてのは人間として最低の行為ですからね」
友江「自分だってスパイしてるじゃないの、その男の人のアパートに入り込んで……」
友江は、その部屋にプレジールの名刺があっただけで犯人扱いするのは不当だと断じ、直ちにオペレーションを中止して、由利に謝罪しろときつく申し渡す。
忍「参ったなぁ、喜んでくれると思ったのになぁ」
榎本「彼女の脳味噌はコンクリート製じゃないですかね」
二人は悄然とオフィスに戻ってくるが、

忍&榎本「……」
出前持ち「あはは、どうも、丼の位置が悪くてさ、あははは……」
ちょうど出前持ちが部屋から出て来て、盗んだ資料を岡持ちの中にしまうのを目撃する。
まあ、ミステリーではこういう人間を「インビジブルマン」と言い、「意外な犯人」のひとつのパターンになっているのだが、平々凡々とした顔じゃなく、一度見たら忘れられないような顔とキャラだから、今の今まで露ほども疑われなかったというのは、いささか嘘っぽい。
しかも社員の目を盗んで資料を岡持ちの中に入れるという原始的な方法では、今までバレなかったのが不思議なくらいである。
二人は出前持ちのあとをつけ、プレジールの社員に資料を渡して金を受け取っているのを確認すると、

忍「このスパイ野郎!!」

榎本「良かったですね、CIAだったら今頃」
マンツーマンで腐れ外道たちをとっちめ、今までの溜飲を下げるのだった。
結局忍の推理は的外れだったことが分かり、忍は由利にくっついて両角のマンションに謝りに行こうとする。

由利「いいから帰ってよ、もう」
忍「いや、しかしねえ、このままじゃ気が済まないんだよ。婚約話にヒビでも入ったら……」
由利「私、信じてたわ、あの人ね、人を騙したりね、利用したりできない人なの、若さもセンスもすべて加茂さんと大違い」
忍「由利ちゃん!!」
などと二人が廊下で揉み合っていると、両角の部屋のドアが開いて和服を着たあだっぽい中年女性が出て来る。

女「じゃあね、一郎ちゃん」
どう見ても両角の母親には見えないので、二人は咄嗟に物陰に身を隠して成り行きを見守る。
果たして、両角はドアから顔を出すと、女と唇を交わす。
女「明日の晩、また来るわ」
両角「遅くにね、由利と映画見る約束したんだ」
女「まあ、ぬけぬけと」
両角「あいてっ」

両角「だいじょうぶだよ、適当に遊んでものにしたら別れちまうさ、あんな子」
女「ほんと?」
両角「俺はね、若い子は全然駄目なの」
両角は、嘘かほんとかそう言って相手を喜ばせると、無言で右手を突き出す。
女「じゃあね、はい、お小遣い」
女はハンドバックから数枚の紙幣を取り出してその手に握らせる。
両角「ありがとう」
女「よして、帰れなくなっちゃうわ」
両角がもう一度キスしようとするのを拒んで、女はすたすたと歩き出す。
そう、両角はスパイではなかったが、それと同じくらいたちの悪い腐れ外道だったのである!!
しかも、両角が熟女マニアのヒモであることまで判明し、由利の乙女心がずたずたに引き裂かれたのは言うまでもない。
また、両角が分不相応な暮らしをしている理由も、これだったのである。
両角は女を見送って廊下の途中まで来て、そこで初めて由利たちの存在に気付く。
両角「ゆ、由利ちゃん」
由利「……」
由利は無言で両角の顔を引っ叩く。
忍は、まるで自分が引っ叩かれたかのように顔を引き攣らせる。
と、同時に、ここで最後の妄想モードとなり、さっきの女といちゃついている両角の前に由利があらわれ、いきなり女を撃ち殺す。

で、ここでの由利の顔が、めちゃくちゃ綺麗でカッコイイのである!!
この後、両角も射殺した由利だったが、ピストルを持つ手で十字を切ると、自分のこめかみに銃口を押し当てて自ら命を絶つのだった。

そして、今回のサブタイトルにもなっているタイトルが表示され、忍の脳内シアターは完結する。
翌日、榎本は友江のところに来ると、
榎本「部長、コンクリート製の頭は僕のほうでした」
友江「え」
榎本「しかし、分からないものですね」
友江「何が?」
榎本「人間がですよ」
友江「特に女が、でしょ?」
潔くかぶとを脱ぎ、自分の未熟さを真摯に反省して見せる。
友江「由利ちゃんが心配だわ……思い詰めて川に飛び込むとか」
榎本「脅かさないで下さいよ」
この後、色々あって、心配することもなく由利はすっかり元気を取り戻して出社し、みんなをホッとさせるのだった。
まあ、騙されたといっても、両角の台詞からも肉体関係までは結んでいなかったのだろうから、ダメージも軽くて済んだのだろう。
以上、荻田家のシーンがほとんどなく、ストーリーの大半がプリンセス下着を舞台に進むという、シリーズ中の異色回であった。
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