第10話「危うし!悪魔のクリスマスプレゼント」(1980年12月19日)
冒頭から、スーパー1に変身した一也が、赤い奇妙な霧のたなびく不可思議な世界に放り込まれて戸惑っている。
ライダー「一体此処はどこなんだ?」

と、煙霧の向こうから、白い、どっかの宗教団体みたいなお揃いのマントを着た谷たちがあらわれ、ゆっくりこちらに歩いてくる。

4人とも無表情で、額には、死人がつける三角形の布のようなものが巻かれていた。
やがて、谷が口から何かを吐いてスーパー1の体に付着させるが、それは緑色の大きな芋虫で、スーパー1が払い落とすと、戦闘員の姿になって次々と襲い掛かってくる。
本来なら戦闘員ごとき物の数ではないのだが、彼らは倒しても倒しても無限に蘇り、延々と立ち向かってくるので、さすがのスーパー1も苦戦を強いられる。
バクロンガー「ヒッハッハッハッ……」
さらにバクロンガーと言う怪人があらわれ、戦闘員に押さえられて身動きできないスーパー1の左足を、左手の巨大な爪で挟み、ぐりぐり痛めつける。
倒れたスーパー1の左足をなおも足で踏みつけるバクロンガー。
一也「うわぁああああーっ!!」
あまりの恐怖に、スーパー1から一也の姿に戻って絶叫するが、

一也「はっ、夢か……」
その拍子に目が醒め、それがただの夢であったことを知り、ホッとするのだった。
一也「うっかりうたた寝してしちまったらしい……」
苦笑して立ち上がろうとした一也であったが、左足に激痛を感じ、思わず腰を落とす。
一也「足が……足が……」
夢の中の出来事が現実にも反映されるという、ホラー映画ではお馴染みの現象であった。
もっとも、後のストーリーを見る限り、夢の中で実際に怪我をさせるのは不可能らしいので、これはバクロンガーにやられた傷ではなく、心理的ショックで子供の頃の古傷が蘇ったと見るべきか。
同じ頃、自宅の二段ベッドで寝ていた良も、悪夢にうなされていた。

良「あっ、1ばっかり」
それは、先生から渡された通知表を開くと、全ての教科が1で、おまけに「落第」と言う、現実にはありえないハンコまで押してあるという、いかにも学歴社会日本らしい悪夢だった。
さらに級友たちに散々囃し立てられバカにされ、良の繊細な心はズタズタに切り裂かれてしまう。
ハルミ「どうしたの、お腹でも痛いの?」
それはともかく、脂汗をかいてウンウン唸っている良に、上で寝ていたハルミが目を覚まして心配するが、
良「もういやだ、学校なんか行かないぞーっ!!」

ハルミ「夢を見てるんだわぁ、こら、良、しっかりしろーっ!!」
ただの夢だと思って、頭にヘアカーラーを一杯つけたハルミが、弟の鼻を抓んで叱り付ける。
翌日、ハルミがモーターショップに行くと、

チョロ「ああ、あと一日、あと一日で地球は滅びてしまうんですよ!! おやじさぁん、ああっ、ああっ!!」
今度はチョロが、チョロらしくない深刻な顔で大仰に騒いでいた。
谷がなだめようとするが、チョロはその手を振り払い、
チョロ「僕は貴重な一日を自分の自由にさせてもらいます」
谷「あ、あ……」
チョロ「くそぉーっ、どうせ死ぬんだーっ!!」
チョロ、ヤケクソになったように叫ぶと、捻り回していた帽子を床に叩きつけ、電話の前の椅子に座り込むと、
チョロ「カツ丼とうな丼と天丼をまとめて食ってやる!!」 と言う、こういう状況に置かれた人間の、世界ランキング最下位間違いなしのみみっちい野望を口にするのだった。
ハルミ「マスター、相当重症っぽいわよ」
谷「ああ、仕方がない、救急車を呼ぶか」
谷、やむなく電話を引き寄せ、チョロをしかるべき施設に収容してもらおうとするが、二人の間に割り込んできたチョロが受話器を奪い、

チョロ「もしもし、長寿庵ですか、こちら谷オートショップですが、カツ丼とうな丼と天丼、大盛りを大至急お願いします」
谷「ああ……」
さっきの夢を実現すべく、意味もなく声を潜めて出前を頼むのだった。
ま、ぶっちゃけ、今回の話のピークはこのチョロのくだりだよなぁ。
前回も書いたけど、この番組、竜頭蛇尾のシナリオが多過ぎる。
谷が頭を抱えていると、一也がランドセルを背負った良を伴ってやってくる。
一也「どうした、中へ入れ、良、ほら」
良「……」
ハルミ「良、あんた学校どうしたの?」
一也に半ば無理やり連れてこられた良を見て、たちまちハルミが噛み付く。

一也「この先の陸橋の上にしょんぼり立っていたんだよ」
ハルミ「陸橋の上にぃ?」
良、臆病な猫のように一也の背中にしがみつきながら、
良「僕、車に轢かれて死のうと思ったんだよ!!」
そう叫ぶと、しゃがんでしくしくと泣き始める。
ハルミ「良、あんたなんてこと言うの?」
良「僕、学校なんか行きたくない!!」
ハルミ「良!!」
谷「待て、ハルミ、待て」
一也「良、何があったんだ? 話してみろよ」
姉として、きつい口調で問い詰めようとするハルミを谷がなだめると、一也が優しい口調で尋ねる。
無論、あの夢のせいで、良は極度の学校恐怖症に取り憑かれてしまったのだ。
チョロ「手遅れですよ、どうせ、地球が滅びるんだ、学校なんか行ったって無駄ですよ!!」
谷「チョロ!! お前、なんてことを言うんだ!!」
ちびっ子向け番組にあるまじきチョロの言語道断の問題発言に思わずカッとなった谷、その襟首を掴んでその顔を引っ叩こうとするが、
チョロ「本当に地球は滅びるんです……」
谷「ようし、分かった分かった、おまえ熱があるんじゃないか」
チョロが掛け値なしでそう信じて怯え切っているのを知ると、殴る代わりに、いたわるようにその額に手を当てるのだった。
などとやってると、店の前を、何人もの人間が騒ぎながら通り過ぎて行く。
何事かと谷と一也が行ってみると、

近くのマンションの屋上に若い女が立っていて、その下に大勢の野次馬が集まっていた。
……
お嬢さん、飛び降りるんだったら、もう少し前に出よっか? ね? 良い子だから。
もっとも、彼女はテニスルックなので、どっちにしても追い風参考記録(なんの?)にしかならなかっただろうが……
二人は急いで屋上に上がり、

一也が彼女の死角から近づく一方、谷がその背後からゆっくりと歩み寄る。
谷に気付いた女性は振り向き、
女性「寄らないで!!」
谷「ようし、分かった。馬鹿な真似するんじゃないぞ」
谷は相手を刺激しないよう、両手を突き出してじりじりと距離をつめていく。

女性「どいて、それ以上近づいたら、ここから飛び降りてやる!!」
谷「ようし、わかった、わかった、あのな、おじさんの言うことをちょっと聞いてくれないか?」
女性「話なんか聞きたくない、私はどうせ病気で助からないのよ!! 苦しんで死ぬより、一思いに死んだほうがマシだわ」
谷「そんなこと言っちゃダメだ、思い直して精一杯生きるんだ」
女性「もうダメよ、とても生きていけない!!」
谷、あれこれと女性に話しかけながら、一也に目配せしていたが、

遂に飛び降りようとした女性を、左右から取り押さえてなんとか助けるのだった。
ちなみに、この画像、微かにパンツが見えているような気がする……と言うより、見えなければおかしいアングルなのだが、さすがにこれだけカメラが引いていると、確認は難しかった。
屋上には、バクロンガーたちもいた。

バクロンガー「はははーっ、実験は大成功だ、この調子で日本中の人間をみんな死なせてやるか!!」
ちなみにバクロンガーの名前&外見が、「スカイライダー」のオオバクロン同様、悪夢を食べると言われる伝説上の生き物、獏(バク)から来ているのは言うまでもない。
自殺騒動の後、チョロが、届けられた三つの丼を物凄い勢いで食っているのを、呆れ顔で眺めている三人。
なお、その食い方があまりに汚らしいので、画像は省略させて頂きます。

ハルミ「あーあ、あれだけ食欲旺盛なら、夢も希望もなくても十分生き抜いていけるわよ、全くぅ」
しみじみとつぶやくハルミに、ふと思い出したように谷が聞く。
谷「良は放っといて大丈夫なのか」
ハルミ「ええ、お母さんが見てるから」
当然といえば当然だが、ハルミと良にはちゃんと両親がいるんだよね。
ただ、ライダーガールって、純子さんにしろ誰にしろ、あまり自分の親のことは口にしないものなので、ハルミの台詞が妙に新鮮に感じられる。
谷は溜息をついてソファに腰掛けると、
谷「さっきの話だと、お前のその足が痛くなったのも、チョロや良がおかしくなったのも、夢のせいだってことになるな」
一也「ええ、さっき助けた女の子も、おかしな夢にうなされてから急に自分がもう治らない病気に罹ってると、思い込んでしまったらしいんです」
ハルミ「そうなると、変な夢を見た原因ね、問題なのは……」
そう言って視線を転じ、三つの丼をほとんど平らげてしまったチョロをぼんやり見ていたハルミの脳裏に、ある情景が思い浮かぶ。
それは、谷を除く4人でテニスボールで遊んでいた時のことで、ボールを掴んだ一也たちの手のひらに、青い汚れがついたというものだった。
ハルミ、思わず手を叩くと、

ハルミ「分かった、ボールだわ!!」
谷「ボール?」
ハルミ「良が商店街で貰ったテニスボール」
一也「そうか、きっとそれだ」
ハルミ「私はボールに触らなかったし、マスターはいなかったでしょ、だからボールに触ったのは一也さんと良とチョロ……」
一也「ちっくしょう、きっとボールに何かあったんだ」
この辺、推理小説の謎解きみたいで、なかなか面白い。
と、同時に、なんでさっきの女の子がテニスルックだったのかと言う答えにもなってるんだね。
ハルミの睨んだとおり、原因はやはりそのテニスボールで、ドグマのアジトで、テニスボールが青い染料のような液体を注射されている様子が映し出される。

バクロンガー「この私が発明した夢薬の入ったボールに触った人間はたちまち恐ろしい夢に取り憑かれ、やがて生きるのがイヤになって死んでしまうのです」
メガール「ほお、それは面白い」
バクロンガー「病気の夢、殺される夢、交通事故の夢、受験地獄の夢、地球が破滅する夢、お化けの夢、普段恐れていることが夢になってあらわれ、目が覚めてももはや夢の恐怖から逃れることはできません」
メガール「なるほど、しかし仮面ライダーがまた邪魔をしてくるかも知れんな」
バクロンガー「ご心配なく、奴も夢薬入りのボールに触った筈です」
メガール「だが仮面ライダーに怖いものがなければ効果はあるまい」
バクロンガー「ところが奴は、アンケートによると、
下着姿orビキニ姿の可愛い女子高生に迫られるのが何よりも怖いと回答しております」
メガールメガール(まんじゅう怖いかっ!!) じゃなくて、
バクロンガー「ところが奴は、子供の頃、崖から落ちて足の骨を折ったことがあるそうです」
メガール(誰に聞いたんだ?) と言うのは嘘だが、ほんと、どうやってそんなこと調べたのだろう?
一也の同級生とかに話を聞いたのだろうか?
バクロンガー「そのときの痛みや恐怖心が必ず心のどこかに残っている筈です」
その後、駅前でサンタクロースの格好してテニスボールをばら撒いている男がいた。
正直、いくらただでもそんなモン欲しがるやつがいるのかと思うが、ビンボーでビンボーで仕方のない、貰えるものなら淋病でも貰いたいと言う子供たちがゾンビのように群がっていた。
一也、そのボールを奪って人のいないところに投げつけると、ボールが爆発する。
いや、毒薬を染み込ませたからって、爆発はしないと思うんですが……

男「何をする」
一也「俺の目は誤魔化せんぞ、姿をあらわせ、ドグマの手先め」
男「さすがは沖一也、いかにも俺はドグマの怪人バクロンガー様よ」
男はサンタの衣装を脱ぎ捨て、バクロンガーの姿になる。
しかし、今更のツッコミだが、自分で自分のことを「怪人」すなわち「怪しい人」って言うのは変だよね。
場所を変え、スーパー1になってバクロンガーたちと戦う一也。
だがスーパー1に変身しても左足の痛みは消えず、冷凍ガスでバクロンガーを追い払うのが精一杯だった。
CM後、ボールに付着していた液体を、知り合いの科学者に分析してもらっている谷たち。
科学者「これは一種の自己催眠剤のようなものだな」
谷「自己催眠?」
科学者「君は以前、足に怪我をしたことがあると言ったね」
一也「ええ、子供の頃ですが、それが何か?」
科学者「そのときに感じた痛みや恐怖が、このボールに付着していた薬によって再び目覚め、恐らく君は無意識のうちに自分で歩けないと思い込んでしまったに違いない」
つまり、一也の足の痛みは心因性のものなので、いくらチェックマシーンで直そうとしても不可能なのだ。
谷「一也、もしやつらがその薬を水道にでも混ぜてみろ、えらいことになるぞ」
一也「こうなったら自分の精神力で自分に勝つしかない」
当然、物語後半のキーポイントは、一也がどうやって恐怖に打ち克つかと言うことになるのだが、これがあんまり面白くないのだよ。
とりあえず海に面した岩場で座禅を組み、雑念を捨て精神を集中させ、岩を手刀で砕いてトラウマを克服しようとするが、どうしても割れない。
玄海「無駄じゃ、一也!!」
一也「玄海老師!!」
そんな一也の前に忽然とあらわれたのが、久しぶりに登場の玄海老師と弁慶であった。
玄海「迷いの心でいくら打ってもその石は割れん、
つーか、それ、トラウマと関係ないやんっ!!」
一也「はうっ!!」
じゃなくて、
玄海「迷いの心でいくら打ってもその石は割れん、打てば打つほど心の迷いが深まるばかりじゃ」
一也「それではどうすれば?」
玄海「火炎の行で救いの道を開くのじゃ!!」
一也「火炎の行で?」
次のシーンでは早くも夜になり、

ナレ「火炎の行、これは燃え盛る炎の中を歩いて渡る荒行の中の荒行である。極限まで精神を集中しなければ全身焼かれて死ぬ、決死の行である」
帯状に燃えている炎のまわりに弁慶と同じ修行僧たちが座り、一心に読経している様子が映し出され、重々しいナレーションが被さる。
まあ、それこそ、トラウマと関係ないような気がするのだが……
あと、いくら精神を集中していようが、裸足で燃えている炎の上を歩いたら、焼け死ぬと思うですけどね……
実際に、行者が行う「火渡り」だって、一種の大道芸みたいなもので、松炭の上に塩をまいて歩くだけなので、精神を集中しようがしまいが、火傷はしないように出来ているのである。
ここは、もう一度眠って夢を見て、その夢の中で転落した時の恐怖を克服する……みたいな展開のほうが説得力があるし、面白かったと思う。
しかも、「火渡り」と言っても、

炎の上じゃなく、その横の砂地を歩いているのがバレバレなのだから、なおさらである。
まあ、炎のそばを歩くんだから、熱くはあっただろうが……
ともあれ、一也はなんとか炎を渡り切り、玄海老師の前に手を突く。
玄海「良くぞ自分に打ち克った、一也、もはや恐れるものは何もない。ゆけ、そして邪悪な夢に苦しむ人々を救うのじゃ」
一也「はいっ」
一也が行った後、
玄海「お、そろそろイモが焼けた頃じゃないか」
弁慶「そうっすね!!」
玄海「これだから『火炎の行』はやめられんのう」
みたいな会話が交わされたと……言いません。
この後、谷が恐れたとおり、バクロンガーたちが大量の夢薬を貯水池に運び込もうとしていると、浮浪者に化けた一也が戦闘員に連れてこられる。
一也は変装を解くと、

一也「バクロンガー、今日こそ貴様の最後だ」
バクロンガー「おのれ、小癪な、殺せ!!」
しかし、どうやって一也はアジトの場所を突き止めたのか、その説明がすっぽり抜けているのはどうかと思う。
この後、ラス殺陣となり、トラウマを克服したスーパー1がサクッとバクロンガーを倒し、事件は解決する。
もっとも、バクロンガーのばら撒いたテニスボールを全て回収するのは無理だろうから、実際にはほんとに自殺しちゃった人もいたんだろうけどね。
以上、何度も言うように、導入部は面白いのに、中盤以降に失速してしまうと言う、いつものパターンを踏んだ凡作であった。
良のことも、あれっきりノータッチだし……
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