「男はつらいよ」レビュー 第5作「男はつらいよ 望郷篇」（1970年）

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●作品鑑賞

　1970年に公開された実に3本目の作品で、再び山田洋次が監督を務める。

　
　アバンタイトルで、寅の見る夢。

　寅がとらやに帰ると、無限にふすまと部屋が続いていると言うシュールな映像である。

　
　夢の中では、おいちゃんが亡くなり、枕頭でさくらさんたちが悲しみに暮れている。

　寅も一緒に泣いて、それをさくらさんに揺さぶられていると、

　
　現実の、うらびれた宿屋でうたた寝しているのを、女中さんに起こされていると言う状況になる。
　で、寅さんを起こすのが、我らが谷よしのさん！　今回はいきなりツーショットである。

　
　その後、2作目でもやっていた、障子に背中をもたれて、そのままバランスを崩しておっこちるというギャグを披露する寅。

　そしてタイトル。
　
　寅が実際に帰ってくるのだが、事前の電話のやりとりでさくらたちが悪戯でおいちゃんが危篤みたいなことを口走ってしまい、寅は夢のこともあり、すっかり信じ込んでしまう。そして珍しくタクシーを飛ばして家に急行する。

　
　ちょうどその頃、おいちゃんは疲れたと言って寝ていたが、帰ってきた寅は当然、ほんとに危篤なんだと思い込み、一人芝居で愁嘆場を演じる。
　無論、すぐ冗談だと分かるのだが、ここに来るまでに気の早い寅は、御前様や葬儀屋や仕出屋などに今夜おいちゃんの葬式だと言いふらしており、例によって騒動となる。

　で、おいちゃんと大喧嘩になるが、普通のケースと違い、寅はさくらに引き止められて家を飛び出さないのである。

　
　これはその後にやってくる登と引き合わせ、恩義のある親分の面倒を見に北海道へ飛ぶだんどりになっているからであろう。

　登、前回の最後で植木職になっていた筈だが、ここでもまたコロッと渡世人に戻っている。もっとも、ここではちゃんと背広を着ている。

　
　なお、前回のレビューでとらやの従業員の「友ちゃん」は前回限りでいなくなると勝手なことを書いてしまったが、よく見たら第5作目にもちゃんとこうして登場していた。ははは。お詫びして訂正します。最近、自分の記憶力が信用できない。


　今回はマドンナ篇に入るまでがかなり長いのだ。

　
　　寅は登と北海道へ行き、大親分に会うものの、すっかり落ちぶれた親分は汚い慈善病院のようなところでたったひとりの子分に世話されていた。寅は、その姿にショックを受けるが、メカケか何かに生ませた子供に一目会いたいと言う親分の望みをかなえるべく、息子（松山省二）を探し出して、父親に会ってくれと頼む。

　しかし、産みっぱなしで何の世話もせず、嫌な思い出しかない父親になど会いたくないと、息子は頑なにそれを拒否し、寅も引き下がるしかなかった。

　そして、ほどなく親分の死を知らされる寅……。
　この辺は、渡世人の末路を鋭く描いて、ずしりと重い物がある。

　寅は、その夜、いつまで経っても夢みたいなことを言う登と大喧嘩をして別れてしまう。

　
　柴又に帰ってきた寅自身も改心したと言って、とにかく油まみれになって労働するんだとこういう可愛いなりをして、裏の印刷工場へ突撃していくのだった。

　寅「おはよう労働者諸君、今日から僕は君たちの仲間だぞ！」

　無論、寅にまともに仕事ができるはずがなく、行く先々で断られてしまう。

　
　いじけた寅は、江戸川にもやったボートの上でお昼寝しているうちに、ボートごとどこかに流れされてしまう。これで実際、別の街へ行ってしまうのだから、実にメルヘンチックな演出で、私は大好きである。

　
　やっとこれからマドンナが登場するのだが、寅は小さな豆腐屋で働いていた。

　さくらはどういう風の吹き回しか知れないが、とにかくまじめに働いているので喜ぶ。しかし、

　
　その家の娘（長山藍子）に対する寅の態度を見て、すぐにピンと来るのであった。

　
　呆れたような愛想笑いを見せるさくらさん。

　
　言うまでもないが、長山藍子はテレビ版でさくらを演じていた人で、その母親の杉山とく子はおばちゃん役、そして博役の井川比佐志も登場する。これはまあテレビ版のキャストへの敬意を込めての配役だろうか。

　ただ、杉山とく子は今後も、いろんなチョイ役でシリーズに顔を見せる。

　寅は長山藍子にぞっこん惚れて結婚する気満々だったが、彼女は井川比佐志と結婚することになって、いつものようにふられるのだった。

　
　エンディングでは、喧嘩別れした登と、海辺で偶然出会う。

　
　ここで、ふたりがわざと他人行儀に「お控えなすって～私　生まれも育ちも葛飾柴又です～」と「仁義を切る」真似をするのが微笑ましい。

　その後、子供のように波打ち際ではしゃぐ二人を映しつつ、終幕。

●名台詞・名シーン

　
　杉山、長山にとらやのことを誉められ、
　寅「なぁに、犬小屋に毛が生えたようなもんですよ」と謙遜し、

　さらに、
　杉山「帝釈様の門前町にあるんだろう、立派なもんだよ」
　寅「帝釈様なんて豚小屋みてえで」

　長山「有名なお寺じゃない、裏に江戸川が流れてて」
　寅「とんでもない、あんな川、どぶ川みたいもんですよ」

　エスカレートする寅に一言。
　杉山「ちょいと何も江戸川まで謙遜するこたぁないだろう」

●予告編

　
　北海道篇で、息子の乗務する汽車をタクシーで追い掛けるシーン。本編では晴天だが、

　
　予告編では何故か土砂降りであった。

　それと、最後の「仁義を切る」シーンでも、

　
　本編ではかなり距離を置いて挨拶しているのだが、予告編ではつい目の前に立って挨拶するカットが見える。

●評価

　個々のエピソードの関連性が薄く、全体的にまとまりを欠く。長山藍子もマドンナとしてはいまひとつ。

　★★★☆☆（3点/5点中）