「横溝正史シリーズ」の第2作目、「本陣殺人事件」である。
原作の「本陣~」は、金田一耕助のデビュー作にして第1回探偵作家クラブ賞受賞作である、言わずと知れた傑作。日本家屋を舞台にした密室殺人を扱った本格ミステリーだ。ただし、その特異な動機や構成のためか、映像化率は横溝の他の代表作と比べると低く、映像作品としての成功率はさらに低いようだ。
んで、この「横溝シリーズ」の「本陣」だが、一般的な評価は高いようだが、個人的にはどうも好きになれない。それにあまりに有名な作品で、ストーリーそのものは単純なので詳しく紹介する煩わしさを避けて、個人的に感じた長所、短所などを書き並べてみたい。
短所その1
・舞台設定が昭和23年になっている。
原作は昭和12年で、間に戦争を挟んだ10年以上の差は大きい。特にこの事件の特殊な動機、封建的な雰囲気などは戦前だからこそぎりぎり納得できるものだと思うので、昭和23年では根本から無理がある。まあ、この作品だけ戦前にするのは、ドラマの制作上、難しかったと言う事情もあるのだろうが。
長所その1
・映像はかなりハイグレード。セットもロケも、衣装もライティングも完璧に近い。

日輪を背にゆらめく本陣一柳家の屋敷を映したタイトル。
長所その2
キャストが豪華。
先年亡くなった淡島千景以下、佐藤慶、萩島真一、北村英三、内藤武敏、菅貫太郎、草野大悟など、錚々たる顔触れ。

婚礼の夜、一柳の当主糸子(淡島)と、長男の賢蔵(佐藤)の前で、琴を弾く花嫁の克子(真木洋子)の図。
こんなところに嫁ぐのやだなぁ。ほとんどホラーである。
特に佐藤慶の賢蔵は、まったく何を考えているのか掴めない、得体の知れない恐怖を醸し出している。原作の、自分の気持ちを他人に知られないようにしているキャラクターに忠実とも言えるが……。

原作における一輪の華、知恵遅れの鈴子を演じるのは西崎みどり(現・緑)さん。ま、ATG版の高沢順子には及ばないが、これはこれでありである。

また、日和警部が初登場。だから、この作品だけ、金田一とは初対面と言う設定になっている。
個人的には日和警部ってあまり好きじゃないんだけどね。外貌や言葉つきはユーモラスだけど、実はかなり高圧的で強権的なところが嫌いなのだ。
短所その2
・金田一が最初から登場する。
婚礼の席から物語は始まるが、金田一は花嫁の幼馴染ということで列席している。ドラマとしてはそうするしかないのだろうが、「黒猫亭事件」同様、最初から現場にいるのになかなか事件を解決できず、ヘボ探偵に見えてしまう。原作では、最初の事件が起き、ひととおり警察の捜査が行われてから、久保銀造(花嫁の叔父)が呼び寄せる形で、金田一が颯爽と登場する。

その婚礼の席で、次男(原作では三男)の三郎(萩島真一)に話しかけられる金田一。だが、ここでも、「探偵小説は苦手だ」と金田一は原作とは真逆のことを言う。原作では金田一が、三郎に探偵小説談義を仕掛けることになっている。
短所その3
・糸子と、大叔父の関係が爛れている。

淡島千景と、北村英三の熟年カップル。あまり見たくない。
これは原作には全くない要素で、この作品を評価する人はむしろここを誉めることが多いが、個人的には拒絶反応が出てしまう。この大叔父と言うキャラ、原作では単にイナカモノと言う感じで、ストーリー上も何の存在理由もないのだが、ドラマでは糸子未亡人としっぽり濡れていると言う余計な肉付けがされていて、退廃的な一柳家の雰囲気を決定的なものにしている。
確かに、封建的で、閉鎖的な雰囲気は原作にもあるんだけど、全体としてはカラッとした理知的な小説だと思うので、この脚色はどうも好きになれない。脚本の阿倍徹郎は、古谷一行の2時間版の「本陣」でも、似たようなことをやっていて、ウンザリしてしまった。
他にも、糸子と三郎の母子相姦めいたムードなんかもあって、要するに淡島千景が変に色っぽいのが問題なのだ。ついでに言うと、佐藤慶とは4歳しか離れていないので、親子役はさすがに無理がある。
短所その4
・金田一のキャラ。

探偵小説の好悪もそうだが、捜査会議の席に、県警本部長の菅貫太郎から、最敬礼をもって紹介されて、堂々と捜査会議に連なるのは、どうも金田一のキャラクターにそぐわない。
短所その5
・事件の底が割れるのが早い。
全三回なのだが、二回目の前半で、事件の解決の核心に近いことが金田一の口から語られるし、二回目の後半では、ほとんどトリックも解明されている感じになってしまう。その後、第二の事件が起きて、話は続くのだが、このテンポなら、二回で十分だったろう。
長所その3
・演出が斬新

日和警部の推理のなかでは、黒子のような犯人が、再現映像に現れる。
当時としては極めて斬新な演出ではないだろうか。感心してしまった。
長所その4
・なんだかんだで鈴子が可愛い。

愛猫の墓が掘り返された際に、愛猫の死体(どう見ても生きてるけど)を抱きかかえる鈴子。かなり可愛いです。
以上です。
改めて見ると、他にも密室殺人トリックの描写とか、優れた部分も多い。
それでもやはり、糸子を中心とするドラマの解釈がネックになって好きになれない管理人であった。