げげっプレミアついとる 夢野久作の傑作「ドグラ・マグラ」を映画化した作品。
内容については、いまさら書くこともないのだが、と言うか、説明しろと言われてもちょっと難しいんだよね。各自で調べてください。
原作をかなり良心的に映像化しているけれど、なにしろ大長編なのでかなり圧縮してある印象だ。ラストも変えてある。でも、キャストといい、美術といい、今後、これ以上の映像化作品は出てこないだろうと言えるほどの完成度に達している、と思う。
原作を知らないで見ても、ピンと来ないかもしれないので、どうせなら原作を読んでから見たほうが理解しやすい……かな。ただ、小栗虫太郎のように難解ではないけど、夢野の文章も、一種のアクがあって、しかもべらぼうに長いので読みづらいかもしれない。
たとえば(パラパラパラと日本探偵小説全集4を開いて)「ドグラ・マグラ」から、ちょっとだけ抜粋すると、
唇をアングリと開いた。
モノスゴイ純情の叫びであった。
タマラナイ絶体絶命の声であった。
チャント生き返って……
思いきってモリモリモリと引き伸ばして……
こんな感じである。
やたらとカタカナで副詞や連体詞を書きたがるのだ。ま、読みづらいと言うほどでもないが、気になる人は気になるかもしれない。
では、画像つきでちょっとだけ紹介する。

この不気味な歌は、原作の巻頭歌である。

精神病院の一室で目を覚ます青年。演じるのは松田洋治。彼は一切の記憶、自分が誰であるかも忘れていた。

主治医の若林博士(室田日出男)は全てを知っているようだが自分で思い出さないと意味がないと教えてくれない。いけず。

隣室には、彼のことを「お兄様」と呼ぶ謎の美少女(三沢恵里)が眠っていた。

若林博士は、直接素性に関わる話はしてはくれないが、記憶を取り戻すためのヒントを与えてくれ、青年も徐々に思い出して行く。

簡単に言うと、彼は眠っている間に母親を殺した容疑で逮捕されるが、精神病と言うことでここに収容されているらしい。
同じ病院の正木博士(桂枝雀)は解放治療と言う独特の治療を実践していた。彼もその療法を受けていたようだが……。

話が進み、徐々に全体像が見えてくるのだが、同時に、現実と夢想と狂気がいりまじった、悪夢のようなアラベスクが展開されることになる。
たとえば、青年がキチガイたちを相手に熱心に講義をしているのだが、

ふと気付くと、その自分自身がキチガイで、キチガイの実例として普通の学生たちの前で正木博士に紹介されていたりする、と言ったふうに。
中盤以降、青年を示唆して「遺伝する記憶」を呼び起こし(て殺人を犯させ)たのは誰なのか、と言うある種のミステリーの要素が濃くなる。あるいは、正木、若林、どちらが正しいことを言ってるのか、などね。
特に終盤のどんでん返しが強烈だ。

松田洋治が遂にハイパーなキチガイになる演技も素晴らしい。
桂枝雀も、異業種ならではの独特の雰囲気を醸し出している。

あと、江波杏子さんも出てます。
と言う訳で、自分でも書いてて何がなんだかさっぱり分からないけど、とにかく実際に見てもらわないとこの凄さは分からないだろう。
ただ数年前に自分が買ったときは普通にあったけど、今は廃盤になってるのか。うーむ。

意味はないけど、三沢絵里ちゃんの画像をもう一枚貼っておく。
なおDVDには、松本俊夫監督のコメントが入っているのだが、これがひとりでずーっと作品の解説をしていて、それはそれでありがたいのだが、しゃべりづめなので、はっきりいって疲れる。こういうのはやはり、聞き手を配してコントロールさせないとダメだね。しかも、DVDには英語字幕しかないので、解説を耳で聞いて、本編の内容は映像と字幕で追うと言う、鑑賞方法が使えないのも難点だ。
他に監督のインタビュー映像、予告編などが収録されている。