第26話「許せ!我が子よ」(1977年8月3日)
「ズバット」は子供向け特撮ドラマとは思えないハードなストーリーが多いが、この26話もそのうちのひとつ。
町医者の小山内勇治は悪を憎む熱血漢で、街に巣食う悪党を警察より先に片っ端から懲らしめて、東条から「またあなたでしたか」と感心されるほど。町の人たちからの信望も厚く、ひとり息子のきよしはそんな父親の姿を誇らしげに見詰めていた。
そんな小山内の存在が目障りでしょうがないブラック連合のムッシュ神は、部下を差し向けて愛犬カクを散歩させていたきよしを襲わせる。

部下「坊や、逃げても無駄なことだ」
き「逃げるもんか、僕は父さんの子供だぞ!」
細い足を踏ん張って、健気に立ち向かおうとするきよしくん。

吠え掛かったカクは、容赦なく蹴飛ばされる。
チンピラたちはきよしをどつきまわす。そこへ待ってましたとばかりにギターを抱えたあのお方が登場。
早川「子供をいじめる悪いお兄さんたちよ、大の大人がよってたかって子供をいじめるなんざ、あんまり格好がいいもんじゃねえぜ」
いつものように、一瞬でぶちのめされるチンピラたち。

その後、これまたいつも通り、殺し屋用心棒が現れる。
早川「いい加減に出て来たらどうだい、ドクターさんよ」
ドク「にゃーっお! 私を御存知とはね」
あんまり知り合いになりたくない。 早川「ヒゲが自慢のドクウッディ、もぐりの医者、患者を生かすよりも殺す方が得意な殺し屋、今はブラック連合の用心棒、メス使いの名人、ただし、その腕前は日本じゃあ二番目だ」
ドク「シャーッ! なに、では(以下略)」
と言う訳でいつもの技比べ。ちなみにドクウッディは、ドク・ホリディのもじり。

先行のドクは、メスを投げて、きよしのボーダーシャツの白い部分だけ切り抜いて後ろの幹に貼り付けると言う、神業を披露する。
子供に対する暴力を極端に嫌う早川、
「貴様、どうやら小児科専門らしいな」と吐き捨てる。
後攻の早川、メスを投げて、シャツを元通りにし、さらにドクのヒゲを片方だけそり落として見せる。
その後、ムッシュ神とドクはどうやったのか、カクを誘拐している。
ドク「これは作戦なんです。この犬を狂犬病にします。それも、私が開発した毒性が30倍も強い急性の狂犬病にね。この犬に噛まれた者は僅か3時間で発病……にゃーいっ!」
ドクは、奇声と共にカクの背中に太い注射をブスッと突き刺す。

が、その様子を、物陰から偶然みどりさんたちが見ていた。
みどり「大変」
オサム「早く街の人たちに知らせなくちゃ」
今回、みどりさんの台詞はほぼこの「大変」だけ。
二人は見付かってチンピラたちに襲われるが、早川ではなく、小山内によって助けられる。
ダッカーの首領Lは、早く小山内を片付けろとムッシュ神をせっつく。
ムッシュ「殺すことは簡単です。しかし、もしも小山内を殺してしまったら街の人々は怒り狂い、ますます結束してしまいます。人々を失望させるのです。そんな男だったのかと、小山内を憎むように仕向けるのです」
L「そんなことが出来るのか」
ムッシュ「出来ます、小山内に、愛する我が子を殺させるのです!」
みどりさんたちは、小山内や東条に狂犬病のことを話す。その犬の特徴を聞いて、小山内は息子の愛犬カクではないかと疑う。
きよしは元気のないカクを見付け、抱き上げてとぼとぼと歩く。
東条は緊急配備を敷いて、カクを見つけ次第射殺しろと命令する。
きよしは警察から逃げて、廃墟の2階部分にカクと一緒に座り込む。
下に、東条や小山内、みどりさんたちが集まって、懸命にカクを渡すよう説得する。

小山内「今の医学では治せない。殺すしかないんだ」
き「殺す? そんなことはできないよーっ!」
東条「放すんだ、今に噛み付かれるぞ」
き「カクは人を噛んだりしないーっ」
緊迫した状況と裏腹な暢気そうなワンコが可愛い……。
だが、きよしが叫んだ直後、病気の影響か、カクがその手を噛む。
と、きよしの前に早川が現れる。
き「早川さん」
早川「つらいだろうが、カクを渡すんだ」
き「いやだ、いやだーっ」
早川「カクが元で、街中の人が狂犬病にかかったらどうするんだ? 君は勇敢な小山内先生の子供じゃないか」

きよしは差し伸べる早川の手から離れ、自らカクを抱いて2階部分の端に立ち、
き「カク、ごめんよ、カク!」
と、カクを落とす。

ここも、実際に犬を地面に落としている。犬も割と良い迷惑である。
しかし、ハードな展開である。
小山内は愁眉を開くが、その後、やはりきよしがカクに噛まれていたことが判明する。

小山内「きよしは多分カクと一緒に遊んだ思い出の場所にいる筈です」
小山内は診察室のロッカーから猟銃を取り出す。
早川「小山内さん!」
小山内「きよしは狂犬病になっている。どうせ殺さなければならないのなら、私の手で」
早川「あなたは人の命を救う医者でしょう。まして自分の子を……血清を打てば助かるかもしれないじゃないですか」
小山内「無駄です。ただの狂犬病ならともかく、ドクウッディの作った毒性の強い物では……」
小山内は早川を殴り倒し、息子のところへ向かう。

きよしは小山内の想像したとおり、カクとの思い出の場所、河原にうずくまっていた。
小山内がその正面に立つと、きよしは自らの手足をロープで縛ろうとしていた。
き「僕の病気、暴れるんでしょう? 人に噛み付くんでしょう?」
小山内「きよし!」
き「父さん、僕死ぬんでしょう? でも怖くなんかないよ、母さんのいる天国に行けるんだもの、それに、カクもいるし」
小山内「そうだともきよし、お前だけを行かせはしないぞ、父さんもすぐ後から行くからな」
小山内は涙を流しながら、我が子に銃口を向ける。
小山内「きよし、許してくれ!」
銃声が響く。だが、間一髪で早川が駆け付けて銃口を反らし、きよしは無事だった。
早川「バカなことを考えるのはおやめなさい。死ぬとか殺すとか考える前に、もっと打つべき手がある筈です!」
小山内が息子を殺すのを期待して見ていたムッシュ神、計画が失敗したのでヤケクソになって早川たちに銃弾の雨を降らせる。
早川はきよしを抱いて崖から海へダイブ。小山内は捕まってしまう。

ムッシュ神は小山内に「自分が息子を殺した」と言う遺書を書かせ、首吊りに見せかけて殺そうとする。
息子が死んだと思っている小山内は意気消沈して悪人たちのなすがまま。
無論、このまま悪人たちの思うとおりになる訳もなく、ズバットがズバッカーに乗って飛んでくる。小山内を助け、悪人たちをぶちのめす。

ドク「ボスのところへ行く前に私の診察が残っているぞ」
ズバット「貴様ぁ、こともあろうに狂犬病の犬に子供を狙わせるとは、許すことは出来ん!」 ズバットが、最後の戦闘でボスではなく用心棒にこれだけ感情込めた台詞を叩き付けるのは異例のことだ。確かに、ドクウッディの悪辣さは歴代用心棒の中でも群を抜いている上、その外見や「にゃーお」などの奇声がユーモラスなだけに、余計際立って見える。
で、ドク、ムッシュ神を成敗して事件解決。
ラスト、夕陽の中、「早川さーん」と叫ぶきよしの姿を映して幕。
劇中で一切説明されていないが、結局きよしは助かったのだろう。
(シナリオでは、早川がきよしを東京の大病院へ連れて行くシーンがあったらしい)
ただ、だとしたらやっぱり最後は小山内親子の感激の再会にすべきだっただろう。