第20話「殺人回路」(1969年1月26日)
神谷物産の社長室で、社長・清五郎(宇佐美淳也)と息子で専務の清一郎(平田昭彦)が経営のことで口論している。

清五郎「いつ誰が林物産の援助を打ち切ると言った? たとえ親子でもこんな勝手な真似は……」
清一郎「お父さん、援助打ち切りはコンピューターの決めたことなんです」
清五郎「いいか、神谷商事の社長はこの私だ。コンピューターではない!」
豪華なツーショット。
清五郎「林物産は我が社創立以来の系列子会社だ。断じて見捨てん! う、おお……」
話しているうちに興奮して、自分の胸を押さえて苦しそうに呻く清五郎。心臓が悪いようだ。
清一郎「そうですか、じゃ、お好きなように」
息子は冷ややかに父親を一瞥し、部屋を出て行く。
清五郎はデスクの電話を取り、コンピューターに直接問い質す。
清五郎「林物産はどうしても潰れるのか? 何とか助ける方法はないのか?」
声「駄目デス」 清五郎「お前がなんと言おうとわしの目の黒いうちは絶対潰さんからな」
声「アナタノ命ハ後30秒デ終ワリデス」 清五郎「なんだとぉーっ」
と、部屋の照明が明滅し、やがて背後にかけてあった絵の女性(月の女神ダイアナ)が青白く発光する。

ダイアナは、にこやかに微笑みながら絵から抜け出て、本物の人間のようになる。
そして、手にした弓をひきしぼり、狙いを清五郎に向ける。

しかし、この金髪お姉ちゃんが、あまり怖くないのだよぉ。
演じているのはキャシー・ホーランと言う人で、上智大の女子大生だったそうな。
清五郎は怯えてあとずさるが、女神が矢を放つ前に心臓発作が起きたのか、その場にくたっと倒れてしまう。
SRIの的矢所長に、その神谷商事の機械計算課長・伊藤大助から電話がかかる。二人は古くからの親友らしい。
的矢「配置転換?」
伊藤「社長の神谷清五郎が五日前にぽっくり、心筋梗塞ってやつだ。その息子が社長になった途端に格下げさぁ。実は至急会いたいんだが……」
無論、的矢は快諾する。大助を演じているのは神田隆さん。
的矢はすぐ会社に来る。二人は屋上で話す。

大助「全く憂鬱だよ。この年になって中学のボウズから代数記号や
フレミングの法則を教わらなきゃいけないんだからなぁ。営業畑18年のベテランもコンピューター様の前じゃあ形無しさぁ」
的矢「コンピューター要員ってのがいるんだろう?」
大助「こいつらがまた特殊人種でなぁ。やたら奇妙な言葉を吹きかけてくるんだ」
フレミングの法則は関係ないような……。
大助が的矢をわざわざ呼んだのは、昨夜、仕事帰り、白い服を着た女の幽霊が廊下を歩いているのを見掛けたからだった。大助が後をつけると、女は社長室の扉の前でフッと消えてしまったとか。
さらに、その女の姿が、社長室に飾ってあるダイアナの絵とそっくりだと言う。
その話をSRI本部に持ち帰った的矢、相談の上、牧と二人で夜に社長室に行って、その絵を見ようと言うことになる。親友から持ち込まれた事件と言うことで、的矢所長もいつになく張り切っている。
ここまではまあいいんだけど、次の、新社長の清一郎と、大助の部下の岡と言うプログラマーのやりとりで、彼らが事件の犯人だと視聴者にネタばらしされるのが、ちょっと残念である。
清一郎「どうして昨夜約束どおり奴(大助)をやらなかった? その理由をまだ聞いてない」
岡「はぁ、あの時は……勿論、計算どおりことを運ぶ予定でした。ところが……」
昨夜の回想シーンとなる。機械の前で働いていた岡に、大助が「やってるな、ほれ」と、新聞紙の包みを投げて寄越す。岡が包みを開くと、焼き芋が出てきた。
大助「食え、俺はなぁ、5時を過ぎる無性に腹が減るんだ」
岡「どうも……」
機械計算室には他に誰もいない。既にダイアナが現れ、気持ち良さそうに歌っている大助に矢を向けていた。
だが、直前で岡はスイッチを切る。ダイアナはパッと消えてしまう。
清一郎「要するに君は伊藤のペースに飲まれたんだよ」
岡「そうかもしれませんが、課長のあの音痴な声がおやじに似てたもんで、つい……」
清一郎「君の個人的な感情で命令に背かれちゃかなわないね。伊藤は俺にとって近いうちに最強の敵になる。コンピューターがそう回答したじゃないか。機会を見付け次第やりたまえ」
清一郎は、分厚い書類の束を渡し、
清一郎「手配した各倉庫の在庫を調べて、最適発注量を出してくれ。遅くなっても今夜じゅうに」
その夜、的矢と牧は神谷商事に行く。
社長室に入り込んだ二人の眼前で、ダイアナが絵から抜け出て実体化する。
ダイアナは岡が残業している機械計算室へ向かう。
岡「社長の奴、俺を罠にかけやがったな! やめろ、誰か、誰か来てくれ!」
岡は即座に、清一郎の裏切りを察する。わざと大量の仕事を与えて残業させたのはこの為だったのだ。
的矢と牧はダイアナの矢から岡を守るようにして廊下を後退する。手近にあったものを投げつけても、ダイアナの体をすり抜けてしまう。

三人はエレベーター室に逃げ込む。二人がSRIだと知って、岡は何もかも打ち明けようとするが、その箱の中にもダイアナは侵入してきて、遂に矢を放つ。

矢は実際に岡の胸に突き刺さり、青く発光した後、消えてしまう。
しかし、立体映像から人を殺せる矢が出るわけがない。最初の清五郎社長の場合、ショックで心臓麻痺を起こしたようなので、納得できるのだが、この岡殺しについてはどうも釈然としない。
岡の体から血は出ていないので、光の矢が電気ショックでも与えたのだろうか?
的矢は本部に連絡し、CRTディスプレーの設計図を探し出して欲しいと頼む。これも、具体的にどのディスプレーの設計図なのか要領を得ないのだが、SRIの資料棚にあったので、CRTディスプレーの基本的な構造が知りたかったと言うことだろうか?

さおり「CRTディスプレーってなぁに?」
野村「コンピューターの答えを、絵や文字に変える装置のことさ」
当時はまだコンピューターの表示装置としてCRTは一般的ではなかったので、視聴者の為にこんなやりとりが加えられている。逆に、今では液晶にとってかわられたので、CRTと言う言葉が死語になりつつある。
牧たちはその設計図を調べて、ダイアナ出現のからくりを知る。
社長室にいた清一郎の前に、ダイアナが突然実体化して近付いてくる。
慌てて計算室に電話すると、
声「アナタハ死ヌ」
清一郎「なんだって? お前を動かしてるのは誰だ?」
声「こんぴゅうた、私ハ、オ前ヲ殺ス……私ハ、オ前ノ父ヲ殺シタ。ソシテぷろぐらまーモ殺シタ。私ノ殺人ノ秘密ヲ知ッテイルノハ、オ前シカイナイ」
清一郎「やめてくれ、私は誰にも喋らない」
声「私ハ人間ヲ信用シナイ……」 ダイアナはニッコリ微笑んで弓をひきしぼる。恐怖に凍りつく清一郎だが、そこでフッとダイアナが消えてしまう。的矢と町田警部が入ってきて、清一郎を犯人だと決め付ける。

町田警部がダイアナの絵を外すと、中にはこんな仕掛けが。
的矢「CRTディスプレー、つまりコンピューターが送り出す映像表示装置。殺人も随分科学的になったものだな」
清一郎は抵抗するが、警官に取り押さえられる。

計算室でダイアナを操っていた牧の横には、さおりちゃんがいた。さっきのダイアナの声は彼女が喋っていたのだ。
さおり「どうあたしのダイアナの声? ちょっとしたもんでしょ」
牧「いやぁこんどの事件はさおりちゃんと所長にすっかりやられたよ。我々は形無しだよ」
さおり「うっしっしっしっ!」 これは大橋巨泉のモノマネか?
こうして事件はなんとなく解決するのだった。

再び、会社の屋上。社員達が楽しくバレーボールをしている横で、的矢と大助が話している。
的矢「体だけは大事にしろよ」
大助「うん」
的矢「話し相手の出来にくい世の中になってきたからな。お前みたいな奴に先に死なれちゃ困るんだよ」 二人の友情が清々しい冬空でありました。
しかし、取り上げておいてなんだが、あまり面白くない。絵から抜け出るダイアナのビジュアルはインパクト大だが、ミステリーとしての妙味に乏しいシナリオだ。
同じように絵から人間が抜け出る「緊急指令10-4・10-10」第8話(1972年)では、最後に犯人の意外性があって、こちらより優れていた。