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珍しく2時間サスペンスの新作を見る。テレビ東京の水曜ミステリーだ(7/18)。
ところで、つい最近土屋隆夫の「天国は遠すぎる」を読んだのだが、内田康夫の「多摩湖畔殺人事件」は、これに着想を得てるんじゃないかなと、ふと思った。いや「多摩湖畔」に限らず、初期作品全体から、そう言う印象を受けた。○○でアリバイトリックを仕組んでるところなんかね。処女作「死者の木霊」なんかもそうだ。
ま、最近は内田康夫も全然読まなくなったが、「多摩湖畔」は30年近く前のかなり初期の作品で、ミステリーとしては弱いが、車椅子少女と老刑事の交流が楽しい佳作だ。
確か、マッチ主演などで過去に何度か映像化されていると思うが……山崎努だったっけ? まあ、2012年になって再度映像化されると聞いて、意外に思ったのは確かだ。
ただ、老刑事役を、男盛りの遠藤憲一がやるというのを知って、「その発想はなかったなぁ」とちょっと感心する。

冒頭から、胃潰瘍か何かで治療を受けている河内部長刑事、通称河チョーが、多摩湖畔で死体が発見されたという知らせを受けて、現場に駆けつける。
ドラマ化にあたって、登場人物に女性が増えているのが目立つ。河チョーの主治医は、原作では男だが、ドラマでは萬田久子がやっている。ワシは若村麻由美が良かった。

また、河チョーと組む若い平井刑事が、やたらでしゃばるのもドラマの特徴。原作では、当時で言う新人類っぽい若者の見本のような感じだったが、ドラマでは常にスマホを手放さない、態度のでかい現代的な刑事として描かれている。通称、スマホ刑事。

浅見光彦とならぶ名探偵である岡部刑事もちゃんと登場。ただし、このドラマではあくまで脇役である。河チョーのよき理解者。

被害者男性の娘が、本作におけるヒロインで、橋本千晶。演じるのは……名前、知らん。
まあ、可愛いけど、原作のイメージよりちょっと健康的過ぎて、車椅子の美少女と言うベタな設定にはそぐわない感じ。悪くないけどね。

橋本家の家政婦。ええっと名前忘れたけど、いい女優さん。健忘症かワシは。
彼女、要所要所で意味ありげな表情を抜かれているが、実際は、事件に何の関係もありません。

サブタイトル。
しかし、これだとスケールの大きなトリック……たとえば、丹波と北陸をまたぐ死体移動トリックみたいなのがあるようで、いささか誇大広告。

スマホ刑事は得々として持論を展開し、被害者(小木茂光)の生命保険が巨額だったことから、遺族、つまり橋本千晶が犯人だろうと先走る。
この辺、一介の平刑事としてはやや態度がでかくて、見てて違和感を覚えた。原作だと、平井刑事はあんまりやる気もない感じだったしね。まあ、遠藤憲一の泥臭さと、対比を強調させる狙いがあるんだろうが。
千晶に亡き愛娘の面影を見てい河チョーは、当然その説に反対するが、かといって他に妥当な説もない。

河チョーの娘の遺影。演じているのは千晶役と同じ女優さんである。妻もない河チョーはひたすら孤独であるが、岡部警部がやってきて一緒に酒飲んだり、それほど湿っぽくはない。原作だと、ほとんど死にそうな河チョーだが、ドラマでは、単に医者嫌いで胃潰瘍を悪化させているだけで、死を予感させるような影がないのが大きな違いだ。
原作だと、河チョーの娘が、岡部に惚れていて、岡部もそれを知っていたという微妙な人間関係が下敷きにあるが、ドラマではそこまで踏み込まない。原作と違い、岡部と河チョーの娘が、恋愛関係に発展するほど年齢が近くないというのもあるんだろう。

遠藤憲一さん、いいわぁ。

遺体のポケットに残されていた数字のメモを頼りに、千晶はひとりで日本中に電話をかけまくり、遂に、酒田の海冥寺というお寺だけ、該当する電話番号があったという。
原作でも、千晶の凄まじい執念が実を結ぶシーンだが、うーん、いまはどうなんだろう。警察の方でちゃちゃっと調べられそうな気もするが……。ただ、ドラマでは千晶が電話のチェックをパソコンで管理しているのが、ちょっと現代的なアレンジ。
河チョーは、被害者が死ぬ前に丹波篠山に行くと千晶に明言していることから、方角違いの酒田に行ってもしょうがないと消極的だが、

千晶はだったら自分がその寺に行ってみると、実際に車椅子で斜面を下りようとして、河チョーに止められる。
30年前だったら、身障者が腫れ物に触るような扱いだったのも分かるが、いまとなっては、車椅子の少女と言う一種の記号が、リアリティを持って伝わってこない憾みがあるが、こればっかりはしょうがない。それに、足が悪いだけじゃなく、千晶はそもそも病気がちという設定だからね。
(マメ知識・原作だと、家政婦が千晶の病気について意味ありげに何か言いかけるシーンがあるが、結局明かされないまま小説が終わる。内田康夫もうっかり忘れていたと思う)
で、千晶の執念に折れた河チョーは、ダメモトで、酒井に向かうのだった。
こういう、ちょっとした手掛かりやダイイングメッセージをたぐっていき、真相に辿り着くというのは、内田康夫作品ではよく見られるパターン。もっとも、最近の作品は全然読んでないので知らないけど。
う、こういうネタで引き伸ばしたくないが、とりあえず後編に続く。
関係ないが、マッチ主演の岡部警部シリーズ、そこそこ面白かったなぁ。再放送してくれ。
(2013/4/25追記・河チョーをカミチョーと誤記していました。まこちゃんさんのご指摘で気付き、直しました。まこちゃんさんありがとうございます)