「男はつらいよ」レビュー 第19作「寅次郎と殿様」(1977年)

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 「寅次郎と殿様」は、1977年8月6日公開のシリーズ19作目。

●作品鑑賞
 まずはいつもの寅の夢物語。主演にアラカンを迎えていると言うことで、モチーフはずばり「鞍馬天狗」である。寅の鞍馬天狗と満男(中村はやと)の杉作コンビに、腰元風女性のさくらが絡む。

 寅は橋の上で新撰組の近藤勇(吉田義夫)や浪人風の追手たちに囲まれて、大立ち回りを演じる。
 その中には、源ちゃんやタコ社長がおり、また、上条恒彦がカメオ出演している。
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 その最中、さくらが素になって、
 「お兄ちゃんどうしたの股引なんか履いて?」と尋ね、
 寅もつい「ちょっと風邪引いてんだよ」と応じてしまうくだりなどが笑える。

 さて、本編、子供の日と言うことでとらやの裏庭に鯉幟が上がっている。さくらたちが満男のために買ってやったものだ。
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 また、珍しくとらやに動物がいる。源ちゃんが拾ってきたと言う雑種犬で、いつの間にかとらやに住み付き、しかも「トラ」と言う名前まで付いていた。

 そういうところへ例によって寅が帰ってくる。寅はまず満男を呼んできて、誇らしげにカバンから小さな鯉幟を取り出して見せる。ここへ来る途中、鯉幟を見て慌てて買ったお土産だと言う。

 気まずい顔になるさくらたち。博は寅のメンツが潰れないよう、急いで裏庭へ行って本物の鯉幟を下ろして隠そうとする。だが、結局寅に見付かって、早速悶着が起こる。ただし、今回は二段作戦なので、すぐに店を飛び出したりせず、2階へ上がって一休みするだけ。
 しかし、夕食時に、今度はトラのことでまた喧嘩になる。つい博が習慣で犬を「トラ」と呼んでしまい、寅は俺のことをバカにしているのだと激怒し、飛び出してしまう。
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 寅は四国へ渡り、伊予のある古びた旅館に泊まる。と、訳あり風の若い女性(真野響子)が隣の部屋にいると知った寅、凝りもせずにスケベ心を発揮して、彼女に鮎の塩焼きなどを奢る。
 今だったら「きもーい」で済まされるのだが、律儀な彼女はわざわざ寅の部屋へ来て御礼の挨拶をする。
 寅は親しげに話して、お互い東京の割と近いところの出だと知って意気投合する。
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 調子に乗った寅は、川魚の佃煮を娘に土産に持たせてやるよう女将に電話する。

 女性は東京へ帰り、寅も宿を発つが、
 寅「鮎の塩焼き600円? そんな高いんだったら最初からいやぁいいんだよ。旨くもなんともありゃしないあんなもの……はぁー!? 佃煮1500円? あの女将も気が利かないなぁ、もっと安いのにしてくれりゃいいのに」
 と、勘定書きを見ながらぶつぶつ文句を言っている。
 寅「金がいくらあったって……なんだ、500円一枚か、参ったなぁこりゃ……」
 懐かしい500円札を手に途方に暮れる寅。

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 石垣の上でそんなことをしているから、その大事なお金を風に取られてしまう。
 慌てて下に行くと、ちょうど変なおじいさん(アラカン)がそれを拾っていたところだった。寅はあっさり訳を話して札を取り戻し、代わりにラムネをご馳走する。
 売店のおばさんがブシュッと玉を押し込んだラムネを手渡してくれる。風情があっていいねえ。

 そのラムネの味に感激したおじいさん、そのお礼がしたいと言って、寅を案内してずんずん歩いて行く。

 おじいさんは意外なことに大洲城の中へ入って行ってしまう。寅はハラハラしながらついていくが、おじいさんはちゃんとそこの執事・吉田(三木のり平)に出迎えられる。
 執事の話で、おじいさんは大洲5万石の正真正銘の殿様だと教えられ、感心する寅。

 吉田はしきりに寅を帰らせようとするが、寅のことを気に入った殿様が離さない。じゃんじゃか出前を取って、寅を歓待する。
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 渥美清とのり平、稀代のコメディアン二人の掛け合いは絶品である。
 さんざん飲み食いした後、
 寅「じゃ吉田さん、俺そろそろ……」
 吉田(嬉しそうに)「左様でございますか、お忙しいお体をお引止め致しまして申し訳ございませんでした」
 寅「ううん、いいよいいよ忙しい体じゃないから」
 吉田「でも何かご予定がおありだとか」
 寅「ご予定はないよー」
 吉田「でも、奥様がご心配で……」
 寅「いないいない、そんなものは、ふぁあーあー、なんだかこら眠たくなっちゃったなぁ」
 殿様「吉田!」
 吉田「はい、お車のご用意を」
 殿様「バカモノ! お泊りになる、お寝間の用意を致せ」

 その後、殿様は寅を見込んである相談をする。彼の末の息子が、親の反対を押し切って鞠子と言う女と結婚した。だが、ほどなく息子は死んでしまった。殿様は是非、息子の嫁だった女性に会いたいと寅に頼む。殿様はその女性がどこにいるのか、東京にいること以外、知らないのだった。
 せめてその女性と息子の思い出話がしたいと涙する殿様に、酔った勢いもあり、寅は絶対会わせてやると請け負ってしまう。

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 その後、殿様は東京にいる長男の家へ出て来て、そこからとらやを訪ねる。少し遅れて寅も帰ってくるが、殿様から「約束」のことを強く迫られ、困惑する寅だった。

 冗談のつもりだったのに相手が本気なので弱っている寅、みんなの前でぼやく。
 寅「参ったなぁ、本気にすると思わなかったんだよ」
 おいちゃん「謝っちゃったらどうだい?」
 寅「そうは行かないよ、相手はお殿様だもん、俺はお手討ちになっちゃうかもしれないな……スパーッ、スポーッ、鈴ヶ森の三尺高い木の上で……雨の日なんかやだなぁ、ぼしゃぼしゃぼしゃぼしゃ首だけでさ、カラスに目玉なんか突付かれちゃって、あと穴ぼこだらけになっちゃうよなぁ」
 枕を獄門台に見立てて想像する寅。

 寅は、物知りの博に相談するが、博は「ナンセンス」と切り捨てる。博は殿様だとかそう言う封建時代的な存在が嫌いなのだ。困っている老人は殿様だけじゃないと、冷淡である。

 博「民主主義の時代です!」
 寅「民主主義っちゅうのは、殿様嫌いなの!」
 寅は、リアルなたとえ話をして、殿様の気持ちをみんなに理解して貰う。そこまでは良かったが、
 寅「さー、明日っから、その鞠子って女を捜さなきゃならないよ、みんなで!
 と言って、さくらたちをギョッとさせる。

 もっとも、それぞれみんな仕事のある身なので、結局寅は源ちゃんひとりを共に、片っ端から家を訪ね歩いて「鞠子さんいませんか」と聞いて回ると言う、絶望的な方法でスタートする。

 寅は一日中駆けずり回って鞠子を捜し求めるが、見付かるわけがない。

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 結局、任務を投げ出して旅に出てしまおうと決心する。みんなは引き止めるが、寅の決意は固い。
 だが、ちょうど表に出たところで、あの女性とばったり出会う。

 寅「これ俺の妹、後ろにいんのが、ほら旅先で話したでしょ、耄碌ジジイ、歯抜けババア、ね、裏のタコ社長だ……こちら、あっ、俺あんたの名前しらねえんだ」
 鞠子「堤鞠子です。突然お邪魔をしまして……大洲ではお兄様にすっかりお世話になってしまって……」
 寅「良いお名前だ、堤鞠子さん!」
 と、ここでやっと寅が気付いて、鞠子とタコの顔を見比べる。
 寅「社長、偶然だねえ」
 タコ「この人がそうだったりして!」
 寅「はははははっ」
 ところが、段々話しているうちに、まさに彼女こそ寅が捜していた鞠子だと判明する。大喜びする寅ととらやのみんな。
 で、細かいところは端折るが、殿様と鞠子は初めて会い、感激の涙を流すのだった。

 その後は、特に面白くはない。四国に帰った殿様から寅に手紙が来て、それには伊予の屋敷に鞠子を招いて一緒に暮らしたい、また寅に鞠子と結婚して欲しいと言う願望も書いてあった。
 ま、あくまでそれは殿様の希望であって、年齢的にもそんなことは不可能なのだが、寅はあっさりその気になってしまう。
 無論、鞠子には既に再婚相手がおり、寅は見事に撃沈される。

 ラストは、また大洲に来ている寅。今度は迎えに来てくれとさくらに救いを求める。殿様に気に入られていつまで経っても帰して貰えないと言うのだ。

 以前はことあるごとに寅を追い払いたがっていた吉田は、逆に寅を引き止めようと必死になっている。
 吉田「お殿様はあなたがそばにいらっしゃるとことのほかご機嫌麗しく」
 寅「言っとくけどなぁ、俺はここの殿様の家来じゃねえんだよ」
 吉田「あ、良いことを思いついた。今夜宇和島で花火がございますから、大洲美人を車に積み込みましてワッと繰り込む……」
 寅「大洲美人もう結構、どうせお駒かトンボだろ、面ぁ見るのも暑っ苦しい」
 吉田や寺尾聰の警官が逃げようとする寅を追い掛けるシーンで幕となっている。

●評価
 時代劇スターのアラカンを時代錯誤的な殿様に見立てて、寅と絡ませたのは大成功で、前半の喜劇部分はとても面白い。しかし、後半、マドンナとの恋になると途端につまらなくなる。マドンナの真野響子にあまり女性として魅力が感じられないせいもあるが、20代のOLに、寅が惚れると言うのがあまりに嘘っぽくて、乗れないのだ。
 ★★★☆☆(3点/5点中)


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